42. 雇われた者たち
サリーさんに引っ張り込まれたいつもの個室の中、俺は用意していた袋を彼女に渡す。
「とりあえず、これ、魔動タンクの討伐証明です」
町に来る道中、『倉庫』から出した魔動タンクから、剥ぎ取ったものだ。
これで、あとはギルドからの確認の人員が村に行けば昇格試験はクリアなのだが……問題は厳しい顔をしたままのガルーダさんだな。
サリーさんもだが、魔動タンクを倒したことや、一緒に部屋に入ったイェタのことなどについて、何の反応もない。
「……何かあったんですか?」
問いかけに、彼がうなずく。
「どうも、ユモン・スカルシアがおかしな動きをしているらしい。傭兵を集めている」
ユモン・スカルシア。
たしか、ダークエルフの裏切り者とつながりがある貴族だった。
「……強い魔物でも出たとかですか?」
首を横に振るガルーダさん。
「俺の知っている傭兵や冒険者が雇われていてな……。ちょっと調べさせたんだが、魔の森にある、薬草の群生地を狙っているらしい」
「……薬草の群生地ですか?」
その質問にうなずいた彼が、地図を取り出し俺に見せた。
「ここら辺にあるらしいんだが……」
そこは、俺達の『城』の近く。
あそこらへんに、イェタの薬草園をのぞいて、そんなものはないはずだが……
まさか、その群生地って、イェタの薬草園のことじゃないだろうな。
悩む俺に、ガルーダさんが問いかける。
「トーマ、ここにダークエルフの薬草園か何かがあるのか?」
「……何で、そう思ったんですか?」
純粋に不思議に思う。
「うん。どうもヤツら、おかしなアイテムを用意しているようでな」
おかしなアイテム?
「人よけの結界なんかを見つけるアイテムらしいんだが」
ああ、なるほど。
「ダークエルフの薬草園には人よけの結界がありますからね」
前にダークエルフ達からの情報を伝えたとき、それについても話した記憶がある。
「傭兵なんかは情報に敏感なはずなんだが、どうも、そういう肝心な情報はうまく隠しているみたいでな。小さな戦争でもあるんじゃないかって人数が集まっているらしい」
……そんだけ集まっていれば、怪しそうに思う傭兵も多そうだが。そこも含めてうまくやっているのか、そういうのを調べない人間が多く集まっているのか。
困ったな……
魔動大型連弩などがあるから、その貴族が集めた傭兵たちと戦いになったら、おそらく勝てる気はするが。
でも、雇われただけの人たちが多そうだから、戦いたくはなかった。
「行軍を止めようといろいろ働きかけてみたんだが、ちょっと無理そうでな……。ダークエルフ達とは相互不干渉の約束をしているんだが、この森の辺りは、その約束の中に入っていないのもあって」
困った顔のガルーダさん。
「傭兵たちが、このあたりに行ったら戦闘になりそうかな?」
どう答えたら良いのか。
相手の出方によるんだが……
「もし戦闘になったら、傭兵たちの多くが死にますよ」
「そうか……。どうにか、ダークエルフ達と交渉できないか? 雇われた中には、トーマの知り合い……ビリーやテッドもいるんだが」
ビリー達……オーガに殺されかけていた、少年の冒険者たちか。
たまたま雇われてしまったんだろうが……
「……彼らには、その依頼から逃げるように伝えてくれませんか」
俺は、首を横に振って伝える。
「もしかしたら、その場所を守るために、俺も戦うことになるかもしれません。彼らを殺したくありません」
うめき声のようなものを出し、無言になってしまうガルーダさん。
そんな重くなった空気。
そんな中で、彼女から明るい声がかけられた――
「なんか、時間を稼いでくれれば、どうにかなるかもよ!」
イェタだ。
「うん……さっきから気になっていたんだが、この子は?」
俺に問いかけるガルーダさん。
「わたしはイェタだよ!」
彼女が答える。
「……もしかして、ダークエルフ達の関係者ですかね?」
推測を披露したサリーさんだが、自信が無さそうで……
「ダークエルフのエルナーザさんとは仲が良いよ!」
イェタも、答えにならない答えを返していたが。
「……まあ、彼女が言うなら、正しいのかもしれませんね。時間稼ぎだけ、お願いできませんか?」
要望を伝え、立ち上がる。
「それはかまわないが……」
「また相談に来ることもあるかもしれませんが、今は時間がないので」
俺はイェタ達を連れて、部屋を出た。
どこかでイェタに話を聞いたほうが良い。
ダークエルフの女性……エルナーザさんもこちらに向かっているそうだ。
彼女にも今回の件を相談したかった。
Side: ガルーダ
トーマが出て行った扉を見て、ガルーダはため息をつく。
「やっかいなことになったな」
「……潜入させたビリー君とテッド君たちはどうします?」
情報収集のため、潜入させた少年の冒険者たちだが……
「もう引き上げさせてくれ。これ以上は荷が重いだろう。傭兵契約をしているはずだが、金を渡しているから違約金は払えるはずだ」
ユモン・スカルシアに警戒されていたため、今回は自分の子飼いの冒険者をあまり潜入させることができていない。
少しでも多くの情報が得られればと使ってみた彼らだったが、なかなか良い働きをしてくれていた。
「……テッド君あたりは、報酬が良いのに釣られて、そのまま残りそうな気がしますけど」
「……盗み聞きされる恐れが少ないなら、トーマが敵対する側にいることなんかを伝えさせても良いぞ。知り合いと戦闘はしたくないだろう」
ガルーダは二度目のため息をつきながら、そう言った。




