第10話 麻痺ポーションと美味しい(?)毒味
「さて、気を取り直して、レッツクッキング!」
デスペナルティで全ステータスが下がってる間は、戦闘はほぼ無理。ついでに、DEXも下がってる以上、調合も下手な物が出来ちゃう可能性があるから却下。というわけで、適当に始まりの街を散策して時間を潰した私は、やっと戻ったステータスと、さっき《西の森》で命掛け……というより、死にながら集めたアイテムで、早速調合を試してみようと、《東の平原》にやって来た。
相も変わらず人のいないそこで、スキル構成を元に戻しつつ、《携帯用調合セット》を広げていく。
名前:ミオ
職業:魔物使い Lv4
HP:78/78
MP:65/65
ATK:43
DEF:63
AGI:64
INT:42
MIND:63
DEX:86
SP:1
スキル:《使役Lv3》《鞭Lv5》《採取Lv3》《調教Lv3》《調合Lv2》
控えスキル:《敏捷強化Lv2》《隠蔽Lv3》
うん、気付いたら取ったばかりの《隠蔽》と《採取》が《使役》や《調教》とレベルが並んじゃってるけど、ひとまずそれは置いておいて、それらのスキルの成果とも言うべき採取アイテムの数々も一緒に並べる。
それを見て、何をするのかおおよそ察したらしいライムは、早く食べたいとばかりに草むらでぴょんぴょん跳ねている。
「ふふ、待っててねライム。とりあえず、まずはMPポーションかな?」
《霊草》を1つ取り出して、《薬草》の時と同じように磨り潰していく。
普通の雑草と見分けがつかない《薬草》と違って、《霊草》は全体的に白っぽい草で、夜の闇を背景にするとぼんやり光ってるようにも見える不思議な草だ。
けれど、それを潰してビーカーに入れ、水に溶かしていくと、不思議なことにその色は青色に変わっていく。
名称:初心者用MPポーション
効果:MPが50回復する。
「うーん、《初心者用MPポーション》は1度買ってるから知ってたけど、まさか本当にあの白い草が青くなるなんて……謎だなぁ」
そんな些細な疑問はさておき、出来上がった青色のポーションを、毒見を兼ねて早速一口。
「……ジュースっぽい? けどなんだろうこれ、うーん……」
程よい甘みと酸味。うん、そう、あれだ。かき氷なんかであるブルーハワイっていうシロップ。あれに近いかも?
さすがに、直接飲む物なだけあって、くどくない程度に薄まった味みたいだけど。
「ライム、どう?」
待ちくたびれた様子のライムにあげてみると、これまた一口で(?)飲みこんで、ぷるんっと、そこそこな反応が返ってきた。
「ふむふむ、緑茶風ポーション以上、抹茶風ポーション未満かな?」
ライムの反応から、どの程度好きな味なのか分かったら、メニューの中にあるメモ帳機能にその結果を記しておく。
こうしておけば、ライムがお腹空いた時に、その場で作れる一番の好物がすぐに分かるから、続けていけば役に立つ場面があるかもしれない。
まあ、ライムの好みはメモしなくても全部覚えてられる自信はあるけどね。
「次は、これかな」
《霊草》の数もあまり多くないし、実験はまたの機会にして、続けて取り出したのは《シビレダケ》。ハウンドウルフと戦った時、投げつけても特に効果がなかったけど、調合レシピにはちゃんと望んだ通りの効果が期待できそうな物が新しく表示されていたから、早速作ってみることにする。
上手く行けば、ハウンドウルフとまた戦うことになった時、もっと余裕を持って対処できるようになるはずだ。
「えーっと、まずは……」
随分とシンプルだった2種類のポーションと違って、これは基本レシピの時点でちょっとややこしい。
まずはシビレダケをビーカーに入れて水に浸し、その状態で熱して沸騰させる。
十分に煮汁が出てきたところでキノコは取り出して捨て、代わりに細かく砕いた《ドクの実》をビーカーに加えて更に混ぜ合わせる。
そうして最後に、漉し器を使って不純物を取り除いてやれば……
名称:麻痺ポーション
効果:《麻痺Lv1》を付加する。
「よし、出来た!」
これは使った相手に状態異常を付加する、状態異常ポーションの1つ。
《シビレダケ》と違って、ポーションはちゃんとぶつければそれで効果があるし、これで、今まで《バインドウィップ》頼りだった敵モンスターの拘束がやり易くなるはずだ。
量産出来ればだけどね。
「次はこれ~っと」
さすがに状態異常を起こすポーションを試し飲みするわけにもいかないから、見た目だけ確認したら横に置いておいて、次に取り掛かることに。
今度は、最初に《薬草》を磨り潰してビーカーに入れ、沸騰させる。
ここでやめたらただのホットなHPポーションになるだけだけど、ここで更に砕いた《ドクの実》を入れ、混ぜ合わせていく。
名称:毒ポーション
効果:《毒Lv1》を付加する。
「よしよし、順調順調」
これも《麻痺ポーション》と同じ状態異常ポーションの1つで、こっちは使った相手に継続ダメージを与える毒状態にしてくれるアイテムだ。
なんで回復アイテムの材料であるはずの《薬草》を使って毒薬になるのかさっぱり分からないけど、あれかな? 薬も過ぎれば毒になるってことなのかな?
ともかく、《毒ポーション》はライムの《酸液》とは別でダメージが入っていくみたいだから、これで足りない攻撃力を大分補えるはずだ。
「さて次は……ってあれ、さっきここに置いておいた《麻痺ポーション》はどこに?」
ライムと私の戦闘力不足を補ってくれる、有用そうな目ぼしいレシピを試し終わったところで、ふと脇に置いておいた麻痺ポーションがなくなっていることに気付いた。
犯人が誰かなんて、考えるまでもない。何せ、すぐ傍でビリビリ痙攣しながら転がってるし。
「こらライム! 勝手につまみ食いしちゃダメでしょ、もう!」
めっ! と痺れてるライムをつつけば、抵抗も出来ずにころんっと転がる。
うーん、ここまで完全に動けなくなるなんて、思った以上に麻痺って怖い。私が使うアイテムだと思えば頼もしいけど、敵に麻痺を使うのが出てきたら大変だなぁ。注意しないと。
「まあ、この状態ならライムもつまみ食い出来ないだろうし、今のうちに色々作っちゃおう」
一応、《薬草》と《毒消し草》で《解毒ポーション》っていうのも作れるみたいだけど、麻痺には効果がないし、麻痺を治すポーションはレシピにはまだない。
素材が足りてないのか、それとも隠しレシピなのか。どっちにしても、毒でもない限り放っておけば特に問題なく治るし、いい薬だと思って我慢して貰おう。ポーションだけに。
「ふんふふんふふ~ん♪」
薬草を磨り潰したり、シビレダケを煮詰めたり。鼻歌を歌いながら、のんびりと調合する。
一応、一度手作業で作っちゃえば、後は《一括調合》っていう《調合》スキルのアーツで、MPを使って一瞬で作ることは出来るんだけど、戦闘用の《麻痺ポーション》と《毒ポーション》はともかく、他はライムのご飯にもなるんだから、自分の手で作らないとなんだか味気ない。
元々、生産職になりたいわけじゃないから、人の分まで作って売る気はないしね。
「さて、色々作ったけど、後はライムに何を持たせるかだよね」
ライムの《収納》スキルは、《西の森》探索中ずっとポーションを入れてたおかげでレベル2になって、2種類までアイテムを持てるようになっていた。
けど、持たせたいアイテムとなると、《酸液》を継続して使うための《初心者用MPポーション》に、いざという時のための《初心者用HPポーション》。ついでに、拘束用の《麻痺ポーション》にダメージ増加のための《毒ポーション》と、今の時点でもそこそこ多い。
「うーん……どうしようかなぁ」
まず、まだまだHPに余裕がなくて、ゴブリン相手にも一撃でやられるんだから《初心者用HPポーション》はあんまり意味がないし却下。《初心者用MPポーション》は、ハウンドウルフとの戦闘でも決め手の一つになった物だから、まだ数は少ないけど持ってて貰うとして、あとは《麻痺ポーション》と《毒ポーション》のどっちがいいか……
「《バインドウィップ》の効果が切れたタイミングで確実に使うためにも、《麻痺ポーション》はライムに持ってて貰ったほうがいいかなぁ。《毒ポーション》は最悪、私が拘束しながら投げつけてもいいし」
一応、《バインドウィップ》だけでも使っていれば、私にもちゃんと経験値は入るとはいえ、やっぱりただ拘束するだけで終わってたらその取り分はかなり少ない。
せっかく《毒ポーション》なんて作ったんだし、それを使えば私も一緒にダメージを稼げて、ちょうどいいはず。
「今日はこんなところかなぁ」
作れたアイテムは、《初心者用HPポーション》が10本と、《初心者用MPポーション》が3本、《麻痺ポーション》が4本に、《毒ポーション》が3本。
作りついでに更なる実験として、《初心者用HPポーション》を作る時に使う《薬草》の数を3つにしたり、逆に1/3に薄めたりしてみたけど、前者は1つ分まるまる溶け切らず、2つ分と合わせて《特濃初心者用HPポーション》が出来て、一方の後者は調合失敗に終わり、ただ《薬草》が無くなっただけに終わった。残念。
とはいえ《薬草》はまだあるから、他にもいろいろと試せないこともないけど、これは《毒ポーション》の材料にもなってるわけだし、使い過ぎて肝心な時に残ってないのもなんだから、ひとまずこれでいいや。
「って、ライム、さっき痺れてたのに、まだ凝りてないの?」
作ったアイテムを並べて確認していたら、痺れの取れたライムがまた《麻痺ポーション》を食べようとやって来た。
ひょっとして、痺れるのを我慢してもいいくらい美味しいの? いやでも、ライムの舌って私とあんまり合わないし、そうでもないかも……いやでも、ちょっと気になる……
「ちょ、ちょっとだけ……一口だけ……」
心の内から襲い来る好奇心の波に逆らいきれず、恐る恐る、《麻痺ポーション》を一つ取って、軽く飲んでみる。
「んんっ!?」
飲んだ瞬間感じたのは、鼻孔をくすぐる柑橘系の香りと、後を引くようなこってりした甘味。
けどそれは直後、あまりにも暴力的な味わいへと変貌した。
口の中でシュワシュワと弾けた何かが、そのまま喉の奥まで食い荒らし突き抜けていくような、そんな強烈な味。
それはそう、一言でいうのなら、砂糖とシュワシュワを3倍に濃縮した炭酸ジュースとでも言うべき、あまりにもぶっ飛んだ飲み物だった。
「げほっ、げほっ! う、うえぇ、やっぱりびみょ……う……?」
そして当然、飲んだ以上はそのポーションの効果がバッチリと私の体に現れ、耐性スキルを持っていない私をきっちり麻痺の状態異常にされてしまった。
「ちょっ、こ、これ、結構やばいかも……」
まるで長時間正座した後のように、手足が痺れて上手く動かせず、私はその場で横になる。
そうすると、その刺激で体がまたびりっ! と来るもんだから、たまったもんじゃなかった。
「う、うぐ~! こ、こんなことなら《麻痺ポーション》なんて明らかなゲテモノジュース飲むんじゃなかった~!」
叫んでみても後の祭り。私はそのまま一歩も動けなくなり、ついでに、どうしても飲みたかったらしいライムが、もう一本の《麻痺ポーション》をきっちりその体に取り込んだことで、私とライムは仲良く、夜の平原で動けなくなる醜態をさらしてしまった。傍を歩くマンムー達から、心なしか「何やってんだあいつら」って視線をチクチク感じてとても痛い。
「も~……ライムのせいだからね」
そう言ってみれば、ぷるぷるっ、と、痺れてるんだか抗議してるんだかよく分からない反応がライムから返ってきた。
そんなライムにくすっと笑みを零しつつ、私は痺れを取るのは諦めて、大人しく空を見上げる。
「あ~、綺麗だな~」
都会の喧騒の中では決して見られない、文字通りの意味で幻想的な星空。
なんとなく、それをスクリーンショットに納めて記録しながら、私は麻痺が解けるまでの間、ライムと揃って星空を見続けていた。




