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帰宅、そして~悠木家の家庭事情 2~

お久しぶりでございます。

お待ちいただいているという感想をもらったので、奮起してみました。

できれば、そんなに間をあけないで投稿したいです。

頑張ります!

 悠木家では、よほどのことがない限りは家族全員で食事をとるという決まりがある。

 食事の時間は夜の七時から。

 まだ学生であるソラと、基本的に自宅でピアノや声楽のレッスンをしている美夜にとっては問題ないのだが、外で仕事をしている他の三人は大変だ。

 予定外の仕事や残業が入ったときは特に苦労をしているようで、時々みんなで食事をした後にもう一度会社に戻っていくなんて事も良くあったりする。

 だが、誰もその習慣をよそうと言い出すものはいない。

 きっと、みんながみんな、家族と……特に子供達と過ごす時間を大切に思っているからなんだろう。

 今日も七時前には家族全員が帰宅し、食堂へと集まってきた。


 悠木家では、食事をする場所と、その後くつろぎながらテレビを見たり、家族団らんを楽しむ場所はしっかり別れている。

 食堂にはテレビはなく、家族それぞれがその日にあったことを話しながらとる食事は、ソラにとってはとても楽しいものだった。


 夕食の時間まで部屋で勉強をしていたソラが食堂へ入ると、部屋着に着替えてすっかりリラックスした様子でビールを飲む父親達の姿。

 そういえば、まだお帰りを言ってなかったと二人に駆け寄り、



 「透パパ、武史パパ、おかえりなさい」



 そんな言葉と共に、二人の頬にそっとキスをする。


 ただいまとお帰りのキスは、悠木家の掟。

 だが、それは女親に限っての事だ。

 父親二人には、絶対唇同士の挨拶をしてはいけないと言い聞かされているソラは、妥協案としてほっぺへのちゅーを挨拶とするようにしていた。

 ただいまやお帰りの挨拶がママ達とだけだと、さすがに父親二人に申し訳ない気がするからだ。

 ソラにとっては母親達も父親達も、同じく大切な親と言うことには変わりなかった。



 「うん。ただいま、ソラ。今日も元気そうだね。良かった」



 そういって優しくソラの頭を撫でてくれるのは透パパ。

 細身で優しげな美貌の彼は、とても高校生に娘がいるとは思えないほどに若々しく格好いい。

 サラサラした色素の薄い髪の毛はちょっと長めのショートカットで、一見女の人にも見えてしまいそうな、中性的な容姿をしていた。

 そんな彼は国内ではそこそこ人気のあるバンドのギタリスト兼ボーカルで、ソラはギターの扱い方はこの父から英才教育を受けている。

 他の楽器に関しても、一通りのことは彼のバンド仲間からおもしろ半分に色々と詰め込まれ、気がつけばどの楽器もそこそこのクオリティーで使いこなせる、オールマイティーな演奏家ができあがっていた。

 とはいえ、一つのことを突き詰めて極めた相手には、どうやってもかなわない程度の腕前ではあるのだが。



 「おう、ソラ。上で勉強してたのか?えらいなぁ。もう今日のトレーニングも終わらせたか?」

 そんな風に問いかけてくるのは、武史パパ。

 透パパとは対照的に、とっても男らしい体型をした武史パパの身長は190cmを越えている。

 太っているというわけではないが、全身が理想的な筋肉で包み込まれている彼の体重はきっと100kgを越えている事だろう。

 そんなある意味理想的な肉体美を誇る彼は、総合格闘技の選手をしている。

 で、試合がないときは、様々な格闘技の集まりへ、趣味と実益を兼ねたバイトに行っていた。

 そう言えば、今日やっと幼なじみだったと思い出した楓との出会いのきっかけも、武史パパだったなと思い出す。


 小さい頃、彼が教えに通っていた道場の一つに、楓も通って来ていたのだ。

 で、武史にくっついて一緒に行っていたソラを、一つ年上だった楓はとてもよく可愛がってくれた。

 その頃から、やはり友達を作るのが苦手だったソラは、楓が仲良くしてくれて本当に嬉しかったことを、今更ながらに思い出して、その口元にほんのリと笑みを浮かべた。

 それを見た武史に、



 「ん?どーした??今日はご機嫌だな?なんかいい事でもあったか??」



 とーちゃんに話してみろと促され、ソラは小さく頷く。



 「うん。えーとね、今日、クラスの子と弓道部を見学に行ったんだけど」


 「お、おお。弓道部か。い、いいじゃないか」


 「でね、弓道部の先輩に芝本先輩ってすごく上手な先輩がいて」


 「お、おう。それで?」


 「その芝本先輩が、小さい頃、武史パパと行ってた道場ですごく仲良くしてくれたかえちゃんだって事が分かったんだよ」


 「お、お~、芝本ってあの芝本か!ま、まさかあいつがソラと同じ学校だったとは!俺はちっとも気づかなかったなぁ!うん!気づかなかったぞ!!」


 「そっか。よかったねぇ、ソラ。楓ちゃん、だったよね、確か。小さい頃から可愛らしい子だったから、高校生にもなれば、ずいぶん美人さんになってたんじゃない?」


 「うん!すごく綺麗になってたよ?それに前と同じで、すごく優しかった」


 「そう、良かったね」



 透パパが、目を優しく細めて笑う。

 ソラは本当に嬉しくて、全開の笑顔でにっこり笑い返した。

 それから、もう食事にするから座るようにと美夜ママに促されて、自分の席に腰を落ち着ける。

 透パパと武史パパが、



 「タケ、お前、演技下手すぎ。楓ちゃんに話を通してたことがソラにバレちゃうだろ?ソラ、そう言う過保護なの、キライなんだからさ」


 「う。す、すまん」


 「ま、そういう裏表を分けられないところも、タケのいいところだとは思うけど、気をつけようね?」


 「お、おう!いつもフォローしてくれてありがとな、トオル」



 小声でそんなやりとりをしていた事など、まるで気が付かないまま。

 その後、陸をつれた有希ママが来て、家族そろっての食事が始まった。

 今日も、美夜ママのご飯は文句なしに美味しい。

 素直にそう伝えると、嬉しそうに笑った美夜ママに、ぎゅうっとハグされた。

 ついでにキスもされたので、きちんとお受けしてから他のみんなを見ると、有希ママは羨ましそうに指をくわえているし、パパ達はなんだか恥ずかしそうな、困ったような顔をしている。

 なんでだろ?と思いつつ、ソラは中断していた食事を再開した。


 ソラは背は小さいけれど、ご飯はとにかくよく食べる。

 普通なら太っちゃうんだろうけど、ソラは太りにくい体質なのか、おなか周りはいつもすっきりしている。

 むしろ、武史パパ直伝のトレーニングのせいで、うっすら腹筋が割れてきそうな感じすらあって困っていた。

 武史パパの筋肉は綺麗だと思うけど、女の子としては、あまり筋肉ムキムキにはなりたくないなぁと思うから。

 乙女心である。



 (腹筋のトレーニングだけでも少し減らそうかなぁ)



 などと半ば真剣に考えていると、



 「うおい!有希!?いきなりなに出してんだよ!?」



 そんな武史パパのうろたえたような声。

 反射的に顔を上げて有希ママを見れば、今まさに形のいいお胸を片方出して、陸におっぱいをあげようとしているところだった。



 「なにって、おっぱい出してんに決まってんじゃないのよ。出さなきゃ陸にご飯上げられないし。今日はちょっと陸のご飯のタイミングがずれちゃってるんだから仕方ないでしょ?」



 有希は、当然の如くそう反論し、陸に乳首をくわえさせる。

 するとすぐさま夢中で陸が母乳を吸い始める。

 その一心不乱な様子が何とも可愛くて、うわぁ、可愛いなぁと見つめていると、



 「や、そりゃ、わかるけどよ?もうちょっと、なんだ?恥じらいってやつはないのかよ?ほ、ほら、ちょっとは隠すとか、他の部屋にいってやるとかさ」


 「恥じらいぃ?あんた達に対してそんなのありゃしないわよ。別に減るもんじゃないし、あんた達に見られたくらい気になりゃしないわよ」


 「お前は良くてもこっちの精神はがりがり削られてんだよ。せめて前もって言えよ。そしたら見ないようにするし」


 「私が気にしないって言ってるんだからいいじゃない。ったく、武史もこんな事でいちいちうろたえないでよね~。童貞でもあるまいし」


 「どっ、童貞って、おまえなぁ~」



 武史パパと有希ママは仲良くそんなやりとり。

 二人の関係性はいつもこんな感じ。

 じゃれあう(?)様子が仲良くて微笑ましいなぁと二人の様子を見守りながら、二人の会話に出てきた聞き覚えのない単語に首を傾げる。



 「童貞?」



 ぽつりとその単語を口にした瞬間、食堂の空気が固まった。



 「ばっ!お前、よりにもよって純真なソラの前で!!」


 「だ、だいじょーぶよ!!私に任せておきなさいって!!ちゃーんと誤魔化すから」



 武史パパと有希ママは、小声でそんなやりとりをした後、



 「ソラ、童貞って言うのはね?武史君みたいなちょーっと情けなくて女の子に弱い男の人に使うのよ?」


 「情けなくて女の子に弱い??武史パパは別に情けなくないとは思うけど、パパは女の子に弱いの??」



 有希の説明を受けて、ソラは小首を傾げ、純真な瞳で武史を見上げた。

 武史は真っ赤な顔であうあうと言葉に詰まってしまう。

 そんな武史パパの様子を見て、確かに女の子に弱いのかもと思いながら、じっと見守っていると、武史はそれに耐えられなくなったようにぐりんと有希のほうへと顔を向けた。



 「ばっ!!有希!!!てんめぇぇ!!!!」


 「……まあ、確かに。タケは童貞と言えば童貞なのか」


 「ト、トオルぅ。お前まで敵に回るのかよぉ~」


 「や、そう言う訳じゃないんだけどさ。ほら、役割的には、ね?」


 「ああ、そう言えばそうだったわね。武史さんって見た目に反して受け身が上手なんでしょ?」


 「くっっ!!美夜!!!てめぇも敵か」


 「いやぁねぇ。敵なんて、人聞きの悪い。私と透さんは真実しか言ってないでしょ?」


 「ち、ちくしょぉぉぉ!!」



 透パパがニコニコして、美夜ママもそれに乗っかってニコニコしている。

 でも、なんだか武史パパがちょっと泣きそうだ。

 そんなパパが可哀想になって、ソラは自分だけでも武史パパの味方をして上げようと、一生懸命言葉を探す。

 そして、親達の会話の中から唯一誉め言葉に使えそうな単語を拾い上げて、父親に向かってそっと声をかけた。



 「武史パパ、大丈夫だよ」


 「ソ、ソラぁ。あいつら、ひでぇよなぁ?」



 俺の味方はお前だけだと、大の男が泣きついてくるのにもひるまずに、ソラは優しい微笑みを浮かべる。



 「大丈夫。受け身が上手って素敵な事でしょ?武史パパも、前に言ってたよね。攻撃も大事だけど、しっかりとした受け身も大切なんだって。だから、受け身が上手な武史パパはすごいってことなんだよ!童貞?でも気にしなくていいと思うよ?パパは受け身上手なんだから!ね?」



 その精一杯の援護射撃を受けて、武史は撃沈した。

 それを耐えきるだけのHPが、もう残っていなかったのだ。

 それをみたソラは心底不思議そうに首を傾げ、武史をからかっていた他の面々はちょっとばかりばつの悪そうな顔をして、気の毒そうに武史を見た。



 「武史君、えーっと、その、悪かったわね?」


 「そうね~。さすがにちょっと可哀想ね。でも、ソラちゃんは意味がわかってないだけだから、気にすることないわよ、武史さん」


 「そうだぞ、タケ。ソラは完全な優しさで慰めてくれたんだから元気出せよ」



 そんな風に、打って変わってみんなで武史を慰める様子を見ながらソラは、



 (うちの家族ってやっぱりみんな、仲がいいよねぇ)



 と、ちょっと胸をほっこりさせてうれしそうにニコニコ笑った。


読んで頂いてありがとうございました。

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