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80 とある王国の事情1

大自然と動物に癒されて、働きづめでささくれていた心もちょっとは落ち着き、休暇後に比較的穏やかにクリスさんと会話が出来たのをきっかけに、お屋敷に引きこもるのをやめました。本当はまだ王城には行きたくないけど、まだっていうより出来ればずっと行きたくないけど、騎士団の監査が近づいているそうで、クリスさんが監査関連の書類に取り掛かりになるため、私に経理書類を手伝ってほしいと懇願されました。クリスさんにガッツリ頭を下げられてしまいましたよ、いやー、あせった。だってクリスさんが頭を下げたんですよ!つい「行きます、行きますから!」って言ってしまったのです・・・まさかそういう作戦?・・・やだ怖いっ。



そんなわけで王宮とお屋敷の往復の毎日。そしてほぼ書類仕事の日々────だったはず、なのですが。



「あの、旦那様」

「ん?」


ん?じゃなくて!!


旦那様が領地から戻り、マリア嬢が来たり、経理の仕事が終わって「さぁ、お屋敷に戻れるー」と喜んでいたはずなのに・・・


「何してるんですか旦那様」

「ん・・・もう少し」

「だからっ!」

「こら、大人しく前を向いていろ」


うううっ、なんか屈辱。


現在私は、王宮の旦那様のお部屋に居ます。旦那様はソファーに座っています。私は座っている旦那様の前に後ろを向いて立っていまして、その私の髪を旦那様が弄っているんですが・・・


ええ、通常ならありえないんですよ、だって私、そこそこ身長ありますしね。座った旦那様が、立っている私の頭に手が届くわけがありません。


だからつまり、私が縮んでいるってことで。


何で縮んでいるかって?そんなの、人間の体を縮めることが出来る能力を持つ人なんてそうそう居るもんじゃないですし。

つまり、あの(・・)陛下によって『推定10才』にされた私が、旦那様に髪を弄られているこの状況。


どうしてこうなった!?


「よし、できたぞ」


満足そうにそう言う旦那様。それを見たクリスさんが、やや呆れた声で「・・・シオン、そんなにウサギが欲しかったのか?」と呟きました。


うさぎ?うさぎって?・・・私ひょっとして、ツインテールにされてるんですか、ねぇ?


うぅ。


「リィナ、こっちにいらっしゃい」

「うわぁぁぁん、クリスさぁぁんっ」

「あー、泣かない泣かない、可愛くできてますよ?」

「いらないっ、いらないですっ、可愛いはいらなっ」

「はいはい。よいしょっと、よしよし」

「抱っこもいらないぃぃぃぃ」

「あーほら、暴れるとあぶないですよ?」

「うきぁぁぁぁぁぁ」


あー、なんだろう。なんで私こんなにぐずって泣いてるんだ?

冷静な私が頭の中にいるんですが・・・泣き止むことができない、なんだろこれ?


「っく、ひぃっく、っふ」

「小さいリィナはずいぶん泣き虫だったんですね」

「っく、ち、ちがうもんっ、ひっく」

「ああはいはい、よしよし」


抱っこされて背中をポンポンされて・・・どうしよう、眠くなってきた。

「っく、ふっ」

「よしよし、落ち着きましたか?」


やばい、眠い。

クリスさんに抱っこされたまま寝るとか、そんな黒歴史確定な事はしたくない!


「・・・おりますっおろしてっ」

「はいはい。」


大分涙がひっこんだので、降ろしてもらえました、よかった。そしてほっとしたその時、


バタン!!


「おい!これはどういうことだ!?」

「やぁぁー、おーろーしーてー」


ウィルさんがものすごい勢いで部屋に入ってきました。

「りぃなっ、りぃな助けてっ」


なぜかウィルさんが小脇に抱えている美少女が私に助けを求めてくる。何処かで見たことある容姿の子だなぁー

「・・・ナンシーさん!?」

「おろしてウィルっ、やぁぁ」

「まさかリィナちゃんもか?何なんだ一体?」


私を見て驚いたウィルさんは、暴れるナンシーさんを降ろしました。ナンシーさんは泣きながら私のところに走ってきます。


私と同い年くらい・・・つまり10才くらいになったナンシーさん。すんごい美少女です。

でもなぜか、洋服が乱れてます。


「えぇぇん、ふぇぇぇん」

「だいじょうぶ?なんしー」

泣いているナンシーの洋服を調えてあげながら、ふと考える・・・


「ウィルさんが脱がしたの?ロリコン?」

「ふっざけたこと抜かしてんじゃねぇぞリィナちゃん」


ウィルさんが怒った。うりゅ・・・


「ウィル、リィナを泣かせたな?」

「やっと泣き止ませたところなのに・・・ほら、リィナもナンシーもこっちにいらっしゃい。お茶を入れてあげますからね」

「あああああ、なんなんだこれは!?」

「お菓子もありますよ」





「それで、そろそろ説明してもらえませんかね、お二人とも」

イライラして血管切れそうなウィルさんが、クリスさんと旦那様にそう言います。でも膝にナンシーを抱えているので、さっきより怖くありません。ちなみに私は旦那様のお膝の上で餌付けられ中。

「リィナほら、あーん」

あーん、パクっ・・・んー美味しいっ

「うまいか?」

「はいっ」

「だからっ、説明!!」

「シオンもウィルもいい加減にしなさい」


今回の事のはじまりは、とある国の王族がこの国に外遊に来ることになったらしく。

その国の王太子様とそのお子様がご同行するらしく。

そのお子様の年齢が、ダリア王女様とお年が近いらしく。


まあ、来たら確実に遊び相手となるだろうねってことでダリア様も色々準備していたらしいんだけど・・・一人じゃ心もとないって話になり、何人かの貴族のお子様達も一緒に、ということになっていたらしいのですが。

なのに本日、陛下が旦那様の執務室を訪れました。そしてなぜか私を子供にして、立ち去って行きました。

半狂乱な私はクリスさんの手配した女官に子供用の服に着替えさせられ、呆然としているあいだに旦那様にツインテールにされ、大泣きしたのをクリスさんに宥められた、ということで。


「どうして私とナンシーなのですか」

私が素朴な疑問をつぶやくと。


「・・・陛下の気まぐれだな」

「陛下の気まぐれですね」

「気まぐれかよ」


深い深い溜息をつく3人のお兄さん達。

ウィルさんの膝の上で眠ってしまったナンシーさん。


あー、なんだかもう────私も寝よ。






そんなわけで、今度は10才です。

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