表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/142

72 お嬢様たちの事情

ナンシーさん曰く「貴族として生まれた女性の最大の役目は、嫁いで子供を生むことなのよ」だそうです。


「マリアは中々初潮がこなかったらしくてね、父親の侯爵が検査をさせたところ、子供を作ることが出来ない身体だったってわけ。まあ、治療は続けているんでしょうけど、それまで王妃候補だと言われていたから、侯爵のショックは大きかったんでしょうね。だからと言って娘を伽役に差し出す神経は理解できないけどね。」


シオン殿下とユーリ殿下、どちらにも年齢の近かったミアさんは、二人とは幼馴染のように育ったらしいです。


「まあ、歳が近いからといってあの二人がマリアを伴侶に選ぶとは限らないんだけれども、少なくとも子供を生めない時点で王妃候補ではなくなってしまったのよ」


だから、マリアさんは王太子様ではなく、旦那様の妻を狙っているんですか、なるほどねぇ。

王妃様は当然、自分の夫の血を残したいって思ってるだろうから、マリアさんを認めていないって言っていたのはそういう事ですか。それにしても旦那様もまた面倒な、いや、厄介な、じゃなくて・・・色々と大変な身の上なんですね。


「ナンシーさん、マリアさん自身は旦那様の事が好きなんですよね?」

「さぁどうかしら。父親の意向に沿わないと、居場所がないから必死になってるだけだと思うわよ。」


なにそれ?


「正直この国で、貴族で子供の生めない娘っていうのは役立たず扱いなのよ。一生領地から出ずにひっそり過ごすか、家名を捨てて生きるか、恥を忍んで王宮で侍女でもするか・・・かな。年々結婚年齢が上がってきているから最近はまだマシな方よ。」


“まあそれでも私は侯爵家の娘としてはかなり嫁き遅れなんだけど”と苦笑いするナンシーさん。

日本でも私のおばあちゃんの世代は子供を生めない嫁は実家に帰されたりしてたらしいからなぁ、特にこの国は身分制度があるから尚更なのかもしれないけれども、それでも同じ女としてはなんというか・・・つらいよね。


「・・・子供が出来ない女性でも良いっていう人は、居ないんですか?」

「それはいるわよ。男の人だって子供が出来ない体質の人が居るしね。ただねぇ、マリアが必死になってるもう一つの理由としてはね、貴族女性は高位になるほど純潔主義というか・・・つまり、お相手が第一王子だったからといってもお手つき済みの女性を貰ってくれる貴族男性は、なかなか居ないのよ」

「・・・そこかぁ」

あー、日本でも少数派ながらいまだにあるもんなぁ、処女信仰。


「そんな事情もあって、旦那様的にもなんとなくマリアの嫁ぎ先をなくしてしまった罪悪感もあるし、かといって嫁にするとは言えないしで扱いに困ってるんでしょうね。ハッキリ断ればいいのに、とは思うけど」

“それが出来ないのが旦那様なのよねぇ”とつぶやくナンシーさん。

うん、なんとなくマリアさんの事情は分かりました、でも!


「私が睨まれる意味がわからない!」

「・・・召喚者だから?」

「ナンシー、答えになってません。そしてなぜ目を逸らすんですか!疑問系だし!」

「だってね、リィナが来てから旦那様変わったし」


ナンシーさん曰く、楽しそうにしてる時がある、とのこと。


「えー、旦那様って眉間に皺が標準じゃないですか」

「まあそうなんだけど。でもこの間の舞踏会とか・・・あんなにニコニコしてるシオン殿下なんて見たこと無い!と思うくらい上機嫌だったわよ。」

「そうだったんですか?私、自分のことで手一杯で、あまり旦那様の表情を覚えていないんですよねー」

「あ・・・そう」


なんだかかわいそうな子を見るような目で見られてしまいました。しょうがないじゃん、舞踏会とか初めてだったんだから!


「とにかく、旦那様が楽しそうな理由が私だと思われていて、敵認定されてしまったということなんですね?」

「はっきりいうと、そうね」

「ひたすら迷惑ですね」

「そうね。でもリィナ、旦那様はリィナが危険な目にあったら全力で助けてくれるわよ。」

「そりゃ、召喚者に何かあったら、召喚主の責任ですしね・・・ひょっとしてそれも気に入らない原因のひとつなんでしょうか?」

「嫉妬って、わかっててもどうにかなるものじゃないだろうしね」


なんか、腑に落ちない気はしますけど、しばらく睨まれておくしかないのかなぁ。

それにしてもマリアさんは旦那様のことが好きなのか、そうでもないのか、どちらなんでしょうね。




「ってことなんですけど、ウィルさんどう思います?」

「・・・なぜ俺に聞く。」

「別に深い意味はないです。」


しいて言うなら“そこにウィルさんが居たから”ですかね。

ここは王宮。騎士団内のウィルさんの執務室です。今日はクリスさんと一緒に王宮に来たんですが、用事ができたとかで私をウィルさんに預けていきました。幼児扱いされてませんか、私?ここは保育園か!


「マリア嬢のことなんざ俺が知るかよ」

「そりゃそうか。すみません」

ウィルさんは今日は書類仕事に専念しているらしく、机に座って書類とにらめっこ中。

「ウィルさん、私すごく暇なんですけど」

「クリスが来るまでおとなしくしてろ」

「じゃあおとなしくしてる為に、仕事ください」


仕事くださいと言ったら、驚いた顔で見られました。なんでそんなに驚くことかな。


「・・・伝票、起こせるか?」

「はい大丈夫です。旦那様とクリスさんのところでやってますよ。精算の伝票ですよね?」

「助かる・・・っていうか、あいつらメイドに騎士団の事務までさせてんのかよ」

「騎士団の事務どころか、会議資料や報告書のベース書きまでしてますよ」

「リィナちゃん便利だなぁ・・・俺も召喚者を申請しようかな」

「そして今度はウィルさんの彼女がその召喚者に嫉妬するんですか?ナンシーがおかしなことになりそうなんでやめてくださいよ」

「嫉妬で済めばまだ可愛いもんだろ。なんでクリスがリィナちゃんを俺に預けて行ったか、理解してない?」

「さすがにしてますよ。」

そう、ウィルさんに預けていかないとなにか危険だったんでしょうねってことぐらいは、理解しているつもりです。本当に王宮は私にとって鬼門!

「連れてこなきゃいいのに」

「屋敷に置いとくのも心配なんだろ。君のご主人様達は心配性なんだよ。」

「だったらそもそも身を謹んで下さればいいと思いませんか?」

「そうはいうけどね、シオン様だって好きでマリア嬢のこと抱いてるわけじゃないと思うぞ。むしろ断れたらとっくに断ってるだろう」

「あーやだやだ男って。愛情も無いのに女を抱くのがそもそも間違いなんですよ。女だって最初は大して好きじゃなくたって抱かれてたらその分の情が移るんですから。」

「それは、リィナちゃんの意見?」

「・・・一般論ということにしておいてください。『あれ?この人のこと好きなのかな?』って、脳が勘違いするらしいですよ」

「あー、心理学的なヤツか。なるほどねぇ。」

「一体、なんの話をしてるんだお前達は」


あ、クリスさん。お帰りなさい。なんだかうんざりした顔してますね。


「ウィル、ウチのメイドにお前の仕事をさせるな」

「手伝いたいっていうからさぁ、なぁリィナ?」

「はい!お仕事大好きです!」

ウィルさんと仲良くしてみたら、ますますうんざり顔のクリスさん。ぷぷっ。

「クリスさん、御用は終わったんですか?もう帰りますか?」

「いえ、少し長引きそうなので、その連絡に来ました。私は一緒に帰れそうにないので、シオンが迎えに来るまではここに居てください」

「わかりました」

「ちょっと待て、シオン様が来るまで俺も帰れないじゃないか」

「お前はリィナに効率の良い書類整理の仕方でも教わってろ。じゃあ、リィナ。くれぐれもここから出ないように」

「・・・」


えー、ここに居てもつまんないから、図書館にでも行きたかったのになー。


「返事は?」

「はい!」

鋭い眼差しで返事を強要されました。ううっ。旦那様が待ち遠しいなんて、初めての経験かもしれません。




「いいか、おとなしくしてろよ!絶対この部屋から出るなよ!」


ウィルさん、騎士さん数名に呼ばれたみたいでちょっと別の部屋に行かないとならないらしいんですけど、残していく私にものすごい念を押してきます。


「そんなに念を押されたら、あえて出てみたくなるじゃないですか。」

「ヤメロ!絶対にやめてくれ!俺が殺される!」


私の両肩をガシッとつかみ、ものすごい形相で懇願してくるウィルさん。ガタイがいいから迫られると迫力ですね。


「いいな!絶対だぞ!」


と、何度も念を押して出て行きました。さすがに私もわきまえていますよ。部屋を出たりしませんってば。






部屋は出ていない。決して部屋は出ていないんですけど――


バン!という音と共に、扉が開きました。あれぇ、ノックの音とかしなかったのになぁ。


「誰?あなた。ウィル団長はどちらに行かれたのかしら?」

睨みつけるようにこちらを見ながらそういったのは、女性騎士。ん?どこかで見たなこの人?


「ちょっとあなた、聞いてらっしゃるの!?」

「はい聞いてます聞いてます。えーっと、少し出かけてくるって言ってました。どこに行くかは聞いていません」

「――あなたはここで何をしているの?」

「シオン様を待っています」


なんだか疑われているようなので、素直に申告しました。ですが、そう言ったとたん目つきが鋭くなる女騎士さん。なんだろう、最近女性に睨まれる率が高い・・・女難の相でも出てるのかな。

「あなたどこかで――――ああ!!!!!」


あ、気づかれたようです。


「ご無沙汰しております、えっと、グレイシアさん」


異世界4日目に市場でお会いしたグレイシアさんです。あれから一年以上たってますね。相変わらずお美しいですね。

ニコニコしながら挨拶をしたところ、グレイシアさんは私を指差して叫びました。


「ナンシー!!!!」


――――思い出した。この人面倒くさい人だったっけ。




グレイシアさんは16話の「お買い物に行こう3」ぶりの登場になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ