表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/142

幕間 バーミリオンの民

2話連続更新しています。前話からどうぞ。

ナンシーは、王族たちとの謁見が終わると、その足で騎士団に向かった。

バーミリオン家と共にこの世界にやってきた家臣たち。彼らの多くは領地を得ることはせず、一介の騎士としてその家を継続させている。あくまでも仕えるのはバーミリオン家であるという、彼らなりの抗議なのだそうだ。


当のナンシーとしては、バーミリオン家は兄があんな状態だし、自分とウィルで盛り立てて行くなんてとても無理だし・・・ということで、自分たちの代で終わりだと宣言している。だが、それで納得する家臣が居ないのは、もうどうしようもないことだと割り切っても居る。


騎士団の受付まで来ると、カウンターに座っているリディに声をかけた。


「リディ」

「はい?あらナンシー様?・・・あ、えっと、そのドレスは・・・アンリ様?」

「ごめんねリディ、急いで伝令を頼みたいの」

「は、はい。あの・・・」

「今夜、バーミリオンの屋敷に集まるように伝えて」

「は、はい!どなたに伝えましょうか」

「全員よ。アンリエット(・・・・・・)が、一門全員を招集します。もちろん、任務についているものは除いてね。では、頼んだわよ」

「はっ!承りました。姫様」


ナンシーはリディの返事を聞くと、そのまま王城を後にした。




王都にあるバーミリオン侯爵邸。ナンシーは公爵家に住み込み、ウィルはほとんど騎士団の宿舎に泊まりこんでいるため、滅多に戻っては来ないのだが、一応、ここが王都でのバーミリオンの拠点である。

ナンシーもウィルも、父が亡くなるまで領地から出たのは社交界デビューの時だけなので、この王都の屋敷を『自分の家』だとはどうしても思えないのだが。


この屋敷は、王都では公爵家に続いて大きい。なので、この屋敷を維持するために、それなりの数の使用人を雇っている。

主が帰る事の無い屋敷を、彼らは『バーミリオンの名』を貶めることの無いよう磨き上げてくれている。メイドをしているナンシーにはその大変さはよく分かるし、帰らぬ主を全く攻めたりしない彼らの実直な姿勢に少し罪悪感もあったりはするのだ。



屋敷に着いたナンシーは、執事の出迎えを受けた。その向こうで使用人たちが忙しそうに動いているのが見える。

「おかえりなさいませ。お嬢様」

「ただいま、セバス。・・・その様子だと、話は聞いているのかしら?」

「はい。皆様をお迎えする準備は問題なく。アンリ様、少しお顔の色が優れませんね、時間までお部屋でお休みになりますか?」

「うん、そうね、そうする。ああ、そうだセバス」

「はい」

「今日は、ウィルは来ないから、そのつもりでね」

「かしこまりましたお嬢様」


部屋に行き鏡を見ると、確かにひどい顔をしている。お風呂にでも入ってリラックスしようと、浴室に行き浴槽の準備をする。

お湯をためながら、ふと考える。

「そっか、これ、メイドの仕事だった」

メイドとして働くこと幾年月、すでにメイド気質が素になっている自分を自覚する。

「いまさら、何かする度に誰かに頼むとか、出来ないわよねぇ」

人を上手に使うことも貴族女性として必須なのだが、自分でやった方が早いことの方が多いのだ。お湯を張るのも、着替えを用意するのも。お茶を入れるのも。


やはり皆には悪いが、バーミリオン侯爵家としてのお嬢様業は私には無理だろうと、浴槽にアヒルを浮かべながらナンシーはしみじみと思った。




そして夜。

続々とバーミリオン邸に集まってくる者たち。

現役騎士も居れば、引退して隠居しているそれぞれの家の家長も居る。

伝言を頼まれたリディは、ナンシーの言葉をまず騎士団内に居るバーミリオンの民に伝え、その伝言を聞いた者は自分の家に連絡し、その家はまた別の家に連絡するという、すばらしい連携でもって王都に居るバーミリオン一門全ての家に通知された。


ナンシーは先程よりも大人しいデザインの、けれども同じ赤色のドレスを着る。

この国が赤色を冠するのは、元々バーミリオン王家のカラーが赤だったからだ。

この国は建国以来、幾度も他国からの侵略にあった。新たにこの世界に来た人々が生きていくためには自分たちで国を興し家を建て畑を作り少しずつ発展させていくしかないが、それが嫌な者たちは既に発展している国を乗っ取ろうとして、侵略して来た。それを阻むために、バーミリオンの民は剣をとった。次第に、戦うために必要な『(キー)』を持つ者たちが生まれてくるようになり、バーミリオンはいつのまにか戦闘に特化した民となっていた。いわゆる脳筋、そして軍師、あとは治癒能力者が多いのである。

その昔、自ら血まみれになりながらも、その集団を率いて戦った脳筋特性の女王がいた。その様子を見た侵略者たちは、かの女王を『血の魔女』と呼んだ。それがなぜか現在までの間に呼称が変化し『朱色の魔女』と呼ばれるようになったようだ。


だからこの赤は血の色。戦う覚悟を決めた魔女だけが身に着ける、血のドレス。

鏡をみて、顔色が戻っているのを確認し、ナンシーは大広間に向かった。




バーミリオン邸の大広間は、とても広い。公爵家より大きいくらいだ。

そこいっぱいに集まったバーミリオンの民。騎士団出身者が多いので、綺麗に整列している。

ナンシーが階段を下りていくと、皆一斉に跪いた。


「姫様、皆そろいましてございます」

「急な召集で、悪かったわね将軍」

「なんの、我らは姫様の収集とあらば、いつでもはせ参じまずぞ」


バーミリオン兵としての将軍位を与えられているこの初老の男は、ウィルの前の騎士団長だ。

現在は一門の取りまとめを行ってくれている。

ナンシーは、皆に立つように言い、一つ深呼吸してから、話し始めた。


「既に話を聞いている者もいるとは思うけれど、クリス様が緑国(リエール)に拉致されました。」


一瞬、ざわっとしたが、クリスさんの不在は王宮に勤めているものなら知っているはずなので、おそらく緑国ということを始めて知ったのだろう。


「皆も知っているように、兄と私そしてフィルも、あの方のおかげで今があります。陛下にはバーミリオンの兵を借り受ける許可を得ました。私と共に、かの国へ行きクリス様を救出する人員の選抜と、手順を考えてもらいたいの」

「姫様、そのお役目、フィル殿は参加されるのか?」

「いいえ、フィルは陛下の護衛として、ここに残ります」

「そうですか。クリス様の居場所は分かっておられるので?」

「いいえ。だからまずそこからなのよ。適任者はいるかしら」


しばし、みな周りの者と話をしたりしていたが、一人の男が挙手した。

「姫様、わが愚息でしたら、お役に立てと思います。息子の(キー)は『探索(サイコメトリー)』です」

「そう、では何か、クリス様の物をお屋敷から借りてきたほうがいいわね?」

「はい。できれば襲撃にあわれた場所に残されていた品物もあれば、追いやすいかと」

「分かったわ。それは私が用意しましょう。他には誰かいるかしら」

「姫様、緑国に侵入するとなると、大人数では怪しまれます」

「そうね」

「ですので、少しずつ、何組かに分けて、色々な地域に拠点を作ると良いでしょう。帰国時に追っ手が掛かった場合、どのルートを通っても拠点に逃げ込めるようにしておくことを提案します。」

「そうね。その人員は任せるわ。それと、身分証はハヤテ殿下に頼めば茶国(マロン)のものが用意できるかもしれないわ」

「姫様、クリス様救出の際、治癒の者が必要でしょうか」

「そうね、どのような状況なのかが全く分からないけれど、外傷の治療と解毒が両方出来るものは居たかしら?」

「医療棟のアンセムに相談してみます。彼は王宮を離れられないでしょうが、心当たりがあるかもしれません」

「では、そちらはよろしく」

「緑国の城に潜入しなければならんかもな」

「『隠密』を持っている者が領地におらなんだか?」

「いっそ商人に化けて行けば団体でも・・・」

「おまえさんに商売なんぞ出来るか、バカが」


わいわいがやがやと、皆で作戦を立てて行く。

使える(キー)を持つ者たちを総動員してきそうな雰囲気だ。


「あのね、みんな」

「何でしょう、姫」

「出来れば、少数先鋭で行きたいの。それに、動けないクリス様を連れて敵から逃げる場合もあるかもしれないから・・・体力のある人を選んでね」

「もちろんですじゃ!」


そう言ってる将軍が、一番行きたそうに見えるのだが・・・ナンシーは、黙っておくことにした。




結局話し合いは『飲みながら』となり、みんな床に座って酒とつまみを手に持ちながら朝まで続き、先行隊としてすぐにでも緑国に入る20人が決まった。

そのほとんどは、バーミリオンの領地に住んでいる若者たちで、普段は畑仕事をしていたり、商人だったり、ハンターだったりする。もちろんそれぞれ得意な『(キー)』は探索・隠密系だ。

見聞を広めるためや、商売で、または新天地を求めて旅をしているなかで緑国に長く留まっている、という体裁をとるらしい。何人か騎士団員も「雇われた護衛役」で同行する。うまくすれば、「護衛で来た緑国だったんだけど、騎士団の入団試験があったから受けてみようと思った」などという言い訳で、王宮にもぐりこめるかもしれない。


また、その先行隊が拠点とする隠れ家を各地に作り終えたら、ナンシーを含めた第2陣が出発する。これはほぼ、現役騎士たちだ。


「リィナが黄国(シトラス)でシオン様を救出したら、その足で緑国(リエール)に来ることになっているわ。なんとしてもそれまでに、クリス様の居場所を突き止める!」


ナンシーがそう締めると、先程まで床に座り込んで酒とつまみ片手にあーでもないこーでもないと作戦を立てていた者たちが一斉に立ち上がり、騎士の礼をとる。


「姫様の仰せのままに」

“姫様の仰せのままに”


将軍に続いて、全員で合唱する。それを聞き、ナンシーは部屋に戻るため、身を翻した。


――どれだけ呑んでも酔わない連中に一晩つきあって、寝不足がひどい。


朝日が目にしみた。

















ナンシーはなんだかんだと苦労性。

たぶんウィルさんは一人でメソメソしています(笑)


次はようやくリィナとシオンが再開できるかも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ