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111 夜会の途中

ライトアップされているとはいえ、薄暗いテラス。それなりに近い距離なので、シオン様がなんだか熱っぽく見つめて来ているのはわかるのですが・・・これは目をそらしたら負けでしょうか。それとも目をそらさない方が負けてしまうでしょうか?


いま、『心配だったから』って言ったよね?――よし、まだ大丈夫そうだ。だって召喚者を心配するのは召喚主として全く、ちっとも、これっぽっちもおかしくないことだものね!

よし!華麗にスルーしてみせましょう!・・・と意気込んだのですが。


「シオン様、リィナ見つかりました?ああ!リィナ、よかった。見つかったんですね!」

「・・・アリッサ、すまないが――」

「もうリィナってば!急に姿が見えなくなったって聞いてびっくりしたのよ!探しているうちにシオン様が来たって使用人たちが大慌てしてるし――」

「アリッサ、リィナと話があるから後にしてく――」

「さぁ!リィナも見つかったことだし、シオン様はうちのお義父(とう)さまに会って、『突然現れた』弁解の打ち合わせしてきてくださいね!ほら、急いでください!」

「おいアリッサ、待て、わかった、わかったから押すな!リィナ、後で――」


アリッサは、シオン様に有無を言わせず捲くし立てると、背中をぐいぐいと押して退場させました。どうやらアリッサのお義父(とう)さまがテラスの出入り口でシオン様を待ち構えていたようです。シオン様を引き渡すと、アリッサはすぐに戻ってきました。


「リィナぁ、力一杯スルーするつもりだったでしょぅ」

「うん」

「・・・気持ちはわかるけど――手加減してあげてね」


アリッサに、ため息を吐きながら肩をポンポンと叩かれました。






結局、『シオン様はこの先にある国境に視察に行く予定だったのだが、同行している騎士の馬の調子が悪く、仕方がないので『たまたま』シオン様の召喚者が滞在しているこの離宮に立ち寄る事になった」という設定だそうです。


アリッサの義理のお父様である伯爵が会場の皆様にそう説明し、シオン様の席が上座に用意され、どうやら一時中断されていたらしい夜会が再開されました。っていうかシオン様がいきなり来たから中断してたんですか?なんて迷惑な。


会場には音楽が流れていて、アリッサとレニー君がファーストダンスをしています。今日の主役ですもんね。


二人が踊り終わると、他の皆様も相手を誘って踊り始めました。私?私はシオン様から見える場所に居る事を厳命されておりまして・・・近くの壁でたたずんで居ます。


そして、案の定というかなんというか、シオン様はお嬢様たちに取り囲まれつつあります。パワフルだなー。


「リィナさん、椅子をご用意いたしましょうか?」

いつの間にか私のそばに執事長さんがいらっしゃいました。

「いいえ、お気遣いなく」

「さようでございますか・・・シオン様をご覧になっていたのですか?」

「はぁ、まあ。なんか、この国の女性って、積極的ですよね。自分から王子様に声をかけるなんて。」

だって王族ですよ、上座に座っているんですよ?そばまで行って自分から話しかけるなんて・・・よっぽど自分に自信があるとしか思えないですよ。


「本来は、社交の場では身分の高い方から声をかけられるまで、話しかけるのは不敬なのですが・・・現在、王位継承権を持つ方々がどなたもご結婚はおろかご婚約者もいらっしゃいませんので、未婚の貴族女性から皆様へ話しかけることは陛下が許可されているのです。だから皆様シオン様をダンスに誘っていらっしゃるのでしょう」


・・・それであの積極性なのか。異世界婚活事情も大変なようです。


「ですから、リィナさんもシオン様と踊るのでしたら向こうに――」

「いえ、あの人ごみの中に行くのはちょっと・・・」

「私がお連れしますよ。シオン様もリィナさんとお話がしたいようですし」

「いえいえ、私はいつでも話せるので、今は結構です」

「でもせっかく」

「いえいえ、無理です」


気のせいか、なんだかやたらとシオン様のそばに行かせようとしている執事長さん。

ヤダよ、踊らない。踊らないってば。


「そうですか。・・・・・・・・・・・・」


執事長さんの無言のプレッシャーが、重い。

そしてなんとなく視線を感じそちらを見てみると、お嬢様たちの隙間からシオン様と目が合いました。


目が合っちゃったよ。





そして現在。

シオン様とダンス中。

断れなかった。だって執事長さんが『今日は若奥様のお祝いの宴ですのに』とポソッと言うんだもの!


「リィナ、ダンス上手くなったな」

「散々練習しましたし。でも今日限りで忘れます」

「・・・じゃあたまに練習が必要だな」


音楽に合わせて踊りながら、なぜか上機嫌なシオン様。

そして悔しいけど踊りやすい。マイクさんとは比べ物にならないくらい踊りやすい・・・うぅ。


王宮の舞踏会の時のようなアクシデントもなく無事に踊り終わり戻ったところで、アリッサとレニー君が近寄って来ました。


「シオン様、急で驚きましたけど、来ていただいてありがとうございます」

レニー君はお手本のような綺麗な礼をし、その斜め後ろでアリッサも礼をします。

「こちらこそ急ですまなかったな・・・何か、詫びをしたいんだが、希望はあるか?」

「・・・なんでもよろしいのでしょうか」

「私に可能なことであれば」


なんか、大盤振る舞いなシオン様の発言ですが、一体レニー君は何を言い出すのでしょうか。

レニー君はシオン様に耳を貸してくださいと言い、二人でこそこそとお話中。

私とアリッサは二人で首をかしげながら“何かわかる?”“ぜんぜん”と目で会話中。


話し合いの終わったシオン様と、満面の笑みのレニー君。

シオン様はおもむろにアリッサに近づき、アリッサの肩に手を置きました。


「シオン様?・・・は?、え?・・・うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


会場中にアリッサの悲鳴が響きわたり――――踊っていた人も踊って居なかった人も、全員がこちらに注目し。


会場に居る全員が、若返ったアリッサを見る事になったのでした。




「アリッサ!!」

語尾にハートマーク付きでレニー君がアリッサの名前を呼び、抱きついています。

「かわいい、かわいいっ、アリッサ!」

「ぁぁぁああああああ、なんてことっ、なんてことー!!!」


アリッサ、やや恐慌状態のようです。


「アリッサ~、僕のアリッサ~」

「れ、れにー、ちょっと、はなしてー」

「やだっ、絶対に離さない!」


「あの、シオン様?これってどういう」

「レナードがアリッサにプロポーズしたのが、アリッサが17歳の時だったそうだ」

「・・・それで?」

「17歳のアリッサと過ごしたい、と言われたので」

「そうじゃなくて、これって、陛下の『(キー)』ですよね?」

「そうだ」

「なんでシオン様が使えるんですか?」


そして、今まで知らされて居なかったシオン様の『(キー)』をはじめて教わりました。

「使い放題なんですか?」

「いや、そういうわけでは」

「そういうわけではないのに使ったんですか?」

「・・・」


ざわざわ、がやがや、と周囲も私たちも大騒ぎの中、

「とりあえず皆様、いちど控えの間にお越しいただけますでしょうか?」


血管切れそうなくらい米神がピクピクしている伯爵様に私たち4人は連れ出されました。

そして案の定、シオン様とレニー君は怒られました。ええ、それはもうこっ酷く。

だってアリッサ、もう会場に戻らないって言ってるんですもの。主役なのにね。


アリッサはとりあえず戻る戻らないは関係なくドレスのお直し中。若返るとサイズが変わるからね。

それにしても、ぱっちりした目に白い肌につやつやの唇。顔がぽっちゃりぎみだったアリッサですが、頬がすっきりとし、なんともまぁ・・・

「美少女、だね!」

「ぅぅぅ、リィナとナンシーの気持ちがよくわかったわ。・・・戻りたい」

「ナンシーも綺麗だったけど、アリッサも綺麗だなぁ。」

「リィナ、やめてちょうだい。はやく戻りたい」

「ええー、しばらく若いままでいたら?」

「・・・」

「レニー君も大喜びみたいだし!」

「・・・」

「熱い夜を過ごせるかもよ?なーんて」

「・・・」

「アリッサ?」

アリッサをからかって遊んでたら、うつむいてしましました。ゴメン、からかいすぎたかしら?

謝まろうとアリッサの顔を覗き込むと、目が合ったとたんニヤリと笑われました。え?ニヤリ?


「シオン様!お義父様!リィナも若がえらせて下さい!今すぐに!それなら私も会場に戻ります!」


なにー!


「それはいいアイデアだね」

「お前たちリィナさんを押さえてなさい。さ、シオン様」

「ああ」


「え、ちょっ、いたた、腕っ・・・うきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


そんなわけで、また若返りました。


「リィナかわいいよ!」

「うるさいアリッサ」


・・・ちょっと友情にヒビが入りそうです。









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