110 夜会の始まり
予告時間を守れませんでした。
ファンタジー小説大賞が始まりました。ポチっとしてもらえるとうれしいですっ。
結婚式を間近控えた次期領主の若奥様が街に来ていたら、そりゃあ領民の皆様は見に行くよね、囲むよね!騒ぐよね!お祝いするよね!
そんなこんなで、街を近寄りたくないくらいのプチパニックに陥れていたアリッサ。
そして、なにしてんの!なに街を騒がせてんの!と私とD君に怒られたアリッサの言い訳。
「だって、リィナ知らない土地に来るのに護衛とか騎士とか全員男の人に囲まれて、心細いかと思ったんだもの」
「で?本心は?」
「私が迎えに行ったらリィナ喜ぶかと思って!」
「ちがうでしょ?・・・本音を言いなさい」
「・・・続々と到着するお客様に愛想を振りまくのに、飽きたのぅ、もぅつかれたよぅ」
アリッサが疲れた表情でため息交じりに零した本音に、一同それ以上は何も言いませんでした。貴族の奥様って大変ね。
「王都に帰りたいよぅ」
「それは私も同意する。・・・一緒に帰っちゃおうか!」
「はぁ!?二人とも何言ってんすか!ダメに決まってんでしょうが!」
そして、しばし2人でD君からお説教をくらいました。私、ただアリッサに同意しただけなんだけどな。大丈夫、本気で帰ったりはしないからさ。若い子は元気だねー。
ちなみに、アリッサはD君の事、知ってたみたいです。「楽しい子だよね!」と言ってました。うん、からかうとね、楽しい子だよね!
アリッサは自分が乗ってきた馬車を『ダミー』にして先行させ、私の馬車に同乗してきました。
「アリッサが居たおかげで、この街では囲まれなくてよかったわ」
「でしょ!わたし居てよかったでしょ!・・・で、囲まれるって何?」
小首をかしげて聞いてくるアリッサ。ふむふむ、聞きたいかね?ならば王都を出てからの苦労話をしてあげましょう。
そしてしばし、黙ってわたしの愚痴を聞いていたアリッサ。最初は私に同調して真面目な顔で聞いてくれていたのに、話が進むにしたがって段々困った顔をしだし、最後には笑いをこらえているような・・
「り、リィナ、大変だったね。っく、ふくくっ」
「笑い事じゃないのよ、アリッサ」
ベッドに入って来られるわ、お嬢様方の牽制に使われるわ、馬で二人乗りで悪目立ちするわ、使用人さん達の奥様呼びを容認されるわ、ダンスレッスンさせられるわ・・・最後のは違うか。
「そ、そうね、だ、だけど・・・っくく、旦那様、がんばってるんだねぇ」
「頑張りどころが違うけどね」
「そうかなぁ。でもリィナって結構流されやすいから、召喚されてから3年間みっちりアプローチされてたら靡いてたんじゃない?でもまぁ、ちょっと遅かったね」
うぐっ、流されやすいのバレてる。
アリッサの言うとおり、最初から好意的(?)だったら、違ってたのかしら。私最初は旦那様のこと苦手だったしね。ずっとしかめっ面してて何考えてるのかわからないし、理解不能な行動も多々あったしね。
「ま、なるようにしかならないよ。だって、あれでしょ?『帰還したい召喚者を召喚主の都合で留める事はできない』んでしょ?リィナは帰りたかったら帰れるし、残りたかったら残れるんだから」
「アリッサ、詳しいね」
「ふふん、貴族の奥様教育で習った!」
『どうだっ!』と胸を張ってそう言うアリッサ。アリッサもがんばってるんだねぇ。召喚者のことまで勉強するなんて、奥様教育も大変だ。あれ?
「伯爵領って、召喚者居るの?」
「今は居ないみたい。ウチの旦那も義父も、召喚の適正がないんだって。意外とね、少ないんだよ召喚主って。適正があってもきちんと勉強しないと出来ないから、大抵は召喚庁に勤めてるしね。王族ではシオン様しか出来ないしね。」
召喚の話や奥様教育の話、ダンスの話などをしながら馬車は進み――
「あ!見えてきたよ。あれが結婚式をする離宮だよ」
馬車の窓からアリッサの指差す方向を見ると・・・
「お城?」
「うん、離宮」
「ヨーロッパのお城に似て居るんだけど」
「うん、モデルにしたんだって」
「う、うん。でもこれ・・・日本のテーマパークににあるお城にそっくりなんだけど?」
「うん知ってるよ。素敵でしょ?」
うん、素敵なお城だけど、ネズミの着ぐるみが『ヤァ!』って出てきそうで、複雑。
***
無事到着した私たちを待っていたのは・・・
「・・・アリッサ様」
「ヒッ!」
見るからにお怒りの様子の女性に引きずられていくアリッサを呆然と見送っていたら、穏やかな笑顔を浮かべている執事のおじいちゃんが私の前に来ました。執事長さんみたいです。
「リィナ様ですね、お待ちしておりました」
「あ、はい。お世話になります。よろしくお願いいたします・・・あの、アリッサ大丈夫ですか?」
「ええ。ずっと緊張されてましたから、良い息抜きになったのではないかと思っておりますよ。・・・まぁ、家庭教師に黙って抜け出したのは良くなかったですけどね。」
ははは。黙って抜け出したのね。
「さて、お部屋へご案内いたします。それと、お世話させていただく侍女の紹介もいたしますね」
「すみません、何から何まで」
そうなのです。ドレス作ってもらっても、自分で着れないんです。でもね、よく映画なんかで見る、背中を紐で編み上げて縛ってある訳ではなくホックなんですよ。でも、どんなにがんばっても届かない場所にホックがあってですね・・・わ、私の体が硬いわけじゃないもん!絶対みんな届かないもんっ!
客室に通されて、いつものように護衛さんがお部屋を調べて、それから侍女さん2人を紹介されました。基本は自分でなんでもするので、ドレスアップする時と脱ぐときだけを頼みました。起きてから寝るまでの面倒を見るつもりだったらしい侍女さんたちは、仕事が楽になった反面、ちょっとがっかりぎみに見えます。
侍女さんたちがさっそく今日の夜会用の服の準備を始めるのを眺めながら、執事長さんにお茶をいれてもらいます。なので、公爵邸のメイドである私が、どうして朝から晩まで面倒がかかると思っていたのかを、聞いてみました。
「アリッサ様から同僚だとは伺ってはいたのですが、シオン様より『くれぐれも』とのことでしたので」
と、困ったように言う執事長さん。
「くれぐれも?」
「はい。くれぐれも目を離すな、と。」
・・・たぶんその『目を離すな』は、違う意味の気がする。お酒とかお酒とかお酒とか・・・。
そして、一日目の夜会。
今日のドレスは青緑色。色名はわかりません。蒼色かな?
暗い青緑色なので、身体がしまって見えていればいいなあ。
色んな人に声をかけられました。挨拶しっぱなしで疲れました。
ところで、声をかけられた人全員なんて覚えられないけど・・・いいよね?
「うーん、覚えないと明日話しかけられた時、つらいと思うよー」
夜会も終わり、着替えてお風呂に入って・・・アリッサとベッドでお話ししてます。
久しぶりに同じ部屋で寝よう!と、アリッサが突入して来た結果です。
まぁ、ベッドひとつしかないけど、あの3人部屋のシングルベッド2つ分よりも大きいベッドなので、一緒に寝る事になりました。いいのかなぁ、すでに結婚しているとはいえ、一応今日は結婚式前夜なのに。
「やっぱりまずい?顔はなんとなく覚えてるけど」
「うーん、周りの会話から名前を推測する事は可能かもね。まぁイザとなったら『ちょっと失礼します』って言って、トイレに行っちゃえば。私もよくやるし」
「・・・アリッサは逃げちゃだめでしょ」
「だめ?・・・あーもぅー、なんで伯爵家に嫁いじゃったかなぁー、もぉー」
そういってゴロゴロしているアリッサ。・・・これも、マリッジブルー、ですか?結婚してから随分たつけどね?
翌日。
お昼は結婚式。王都の結婚式と基本は一緒。ここでも女神様。日本から派生した茶国から派生したというこの世界の女神様が気になる私。
結婚式の後はお昼寝タイム。なぜなら今夜の夜会がメインイベント!らしい。
早々に引き上げることも出来ないし、昨日の夜会よりも遅くなるのは確実なので、お昼寝タイムが設けられている!らしい。
ねぇ、だったらさぁ、早く始めて早く終わらせればいいじゃん?と思うのはどうやら私だけらしい。
「使用人たちは準備に追われて居ますからね、客人は大人しく寝ていたほうが邪魔をしなくていいんですよ」
D君がそう教えてくれました。
「ふーん。そういわれればそうかもね」
「リィナさんも、もう寝てくださいよ」
「なーんか、眠くないんだよね」
「わがまま言わずに!俺を困らせて楽しいですか!?」
「・・・わかった。寝ます」
私が布団に入るのを確認して、D君は廊下に出て行きました。ドアの前で護衛するんだって。
いじめすぎたかな?困らせて楽しいって言ったら泣いちゃうかな・・・
そして夕方。お風呂に入って、髪を整えてもらって、ドレスの着付けです。
今夜のドレスは・・・これ、何色っていうんだろう。
赤色ではない。ピンクでもない。臙脂色でもない。
しいていえば、臙脂色に灰色を混ぜたような、薄暗いピンク。薄暗いピンクってひどい表現だけど、少し赤みの方が強いから、落ち着いた良い色になってます。
「今日のドレスも素敵ですね」
誰だっけ?この人?
「ありがとうございます」
「今日は昨日ご挨拶出来なかった友人を連れてきました」
「はじめまして。子爵位を賜っておりますアルセムと申します」
「はじめまして、シオン様の召喚者のリィナです」
アルセムさんね、アルセムさん。私よりも年上な、なかなかの美形。っていうか、貴族って美形多いね!
「私は少し挨拶に回ってきます。リィナさん、よかったらアルセムと話しててください」
え!?
「おい、アルト」
「いいからいいから」
ちっともよくないのに“いいからいいから”と言って去ってしまった“アルト”さん。あー、そういえばアルトさんね、アルトさん。あ、思い出した、確か私と同い年だったんだっけね。
「まいったな・・・リィナさん、疲れて居ませんか?テラスにでも行きませんか?」
そう言って、テラスに誘われました。ううっ、断りたいけどここでトイレに行くのも不自然すぎるっ。
結局、アルセムさんとテラスに行く事になりました。
「うわぁ!きれい」
昼間見ても素敵な庭園でしたが、夜はライトアップされていてもっと素敵!
思わず素で喜んで、見とれてしまっていたのですが・・・どうやらこれがまずかった?
気づいたら、アルセムさんにじーっと見られていました。それになんだか距離が・・・パーソナルスペースが。
「リィナさんは素直な方なんですね」
は?
「あなたのその笑顔をずっと見て居たい」
へ?
「とても、素敵です」
うぇ?
じりじりと近づいてくるアルセムさん。なので私もじりじりと後ろに下がっているのですが・・・しまった、手すりで行き止まりだ。
「あ、あの、子爵様?」
「アルセムと呼んでくれないの?リィナ」
なんかこれ、口説かれてるのですか?なんでこんな唐突に口説かれるんですか?しかも呼び捨てたね今。
唖然としている隙にアルセムさんの手が私の耳元に伸び、横にたらしている髪を指先で一房つかむと、髪の手触りを確かめるかの様にスルッーと毛先まで滑らせて、毛先に口付け――――
ガシッ!
「・・・何をしている?」
髪に口付けられる寸前でアルセムさんの手をつかんだのは・・・聞きなれた、でも、ものすっごく不機嫌な声の主は。
「レインウッド子爵、私の召喚者に、何か用事でも?」
「い、いえ、シオン様」
「そうか。ならもう行くがいい」
「は、はい」
あわてて去っていくアルセムさん。
そしてそれを見送った後、ゆっくりと振り返った・・・シオン様。
「まったくお前は!」
なんで?
「目を離すとこれだから!」
なんで、居るの?
「あの男は4回離婚して、5人も子供がいるんだぞ!」
王族は、家臣の結婚式に出ちゃいけないんじゃなかったっけ?
「聞いてるのか?」
「なんで居るんですか!?」
「心配だったからに決まってるだろう!?」
あ・・・やば。言わせちゃった。・・・まだセーフ?
夜会会場の隅にて。
「おぅ!アルセム、こんなところでどうした?なぁなぁ、俺、名演技だったと思わない?すっごく自然に二人っきりになれただろ?で?どうだったんだよ、リィナちゃん口説けた?・・・え?何?聞こえねぇよ、は?二十歳そこそこがなんだって?威圧?・・・もう無理って、お前何言ってんだ?」




