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104 馬車は進むよ

王都を出て、夕方まで馬車で走り、初日の宿に到着しました。


王都を出たところで騎士団の方が20名ほど合流し、お屋敷の護衛さん達も合わせて結構な大人数になりました。確かに王都内をこの人数で行進(?)していたら目立つし邪魔だしね、王都を出てから合流で正解ですね。


そして団体で到着した本日のお宿では、従業員さん達がお出迎えしてくれました。

王都周辺の地域は王様の直轄地だそうで、この宿も国営なんだとか。


護衛さんが馬車のドアを開けると、まずマイクさんが降り、次に私が降りようと思っていたのですが・・・旦那様が先に降りました。え、私が最後ですか。そして私が降りようと身を乗り出したら・・・旦那様が私に手を差し伸べました。

――いやいやいや、これはダメでしょう。

最後に降りるのもどうかと思うけど、まぁ、馬車は乗りづらいし降りづらいから、女性が支えて貰うのはわかりますよ、でもね、旦那様が手を差し伸べちゃダメな気がする。

マナーとかよく分からないけど、ダメな気がする。

あー、マナーの勉強しておくんだったなーと少し遠い目をしていたら、「リィナ」と催促されました。

仕方なく旦那様に支えてもらって馬車を降りると、お出迎えの皆様がビックリしているのが見えました。みんな驚いてなんだかそわそわしている感じで・・・そりゃそうでしょうよ、メイドが王子様にエスコートされてたら、私でもビックリしますよ。マイクさん何笑うのこらえてんですか?


私が無事に馬車から降りると、旦那様はすぐに手を離し、宿の責任者の方の挨拶を受けています。


・・・明日は絶対、私が先に降りようと思います。



宿に入ると、部屋に案内されます。離れを貸切にしてあるそうです。ちなみに騎士団の20名様は交代で夜通し見張りをしてくれるそうです、お疲れ様です。警備は万全です。ちょっとそこまで外出を~なんて絶対出来ない位に万全です。むしろ閉じ込められてるんじゃないかっていうくらいですが、気のせい気のせい・・・。


旦那様のお部屋はスイートルーム、つまり続き部屋。だだっ広いリビングとダイニングとミニキッチンに、バスルーム付の個室が3つあるので、メインの寝室に旦那様が、サブの寝室を私とマイクさんがそれぞれ使用します。護衛さんたちは両隣のお部屋を使いながら、ドアの前で交代で見張りをするそうです。お屋敷から一緒の4人の護衛さん達は、何かあったとき自分の判断で旦那様のお部屋に入ることを許可されているそうで、本当にヤバイ時は旦那様の命令を無視してでも旦那様を守るように動ける人たちだとか・・・プロだ。


与えられた部屋に手荷物を置き、リビングに戻ってみると旦那様がソファーでくつろいでいました。

旦那様の荷物はマイクさんが片付けているようです。


「リィナ、今日はここに食事を運ばせるから、ゆっくりするといい」

旦那様はそう言って、私にソファーを勧めました。いや、隣を勧められても困ります。私メイドですし・・・じゃあ反対側に失礼します。・・・ジト目で見られても困ります。


ソファーに座ってみたものの、特に何もすることがない。

旦那様は何かの本を読んでいます。私も何かしようかな。

なんとなくそわそわしていたら、茶器が目に付いたので、お茶を淹れることにしました。あ、マイクさん。マイクさんも飲みます?


お茶を3人分淹れ終わり、また手持ちぶたさになってしまった私。・・・うう、これなら部屋でぼーっとしていたほうが暇つぶしできるかも。


「リィナ、好きに過ごしていていいぞ。今から気を使っていたら大変だぞ。まだ先は長いし・・・それに夜ゆっくり出来るのは、今日ぐらいだからな」


はい?

どういうことでしょう?


それは、翌日以降にとても理解できました。

王都を出て2日目。今日はどこぞの伯爵領で、伯爵様のお宅にお泊りです。伯爵様ご一家と、結構な人数の使用人さんたちがお出迎えしてくれました。


「ようこそおいで下さいました、シオン様」

「伯爵、一晩世話になる。さっそくで悪いが、部屋を彼らに確認させてくれ」

「もちろんでございます。この者がご案内いたします。」

執事さんと思しき方が、護衛さん2人とマイクさんを連れて、旦那様の使う部屋を確認しに行くようです。

「ささ、シオン様はこちらへどうぞ。お茶の用意をしてありますので。」

伯爵様はそう言って、旦那様を案内してますが・・・私は使用人なので、一緒に行くのはマズイだろうと思うので、マイクさんに着いていこうと思ってそっちに歩きはじめたら、“グイッ”と腕を掴まれました。あの、旦那様、掴まれると何気に痛いんですけど。

そして、腕を掴まれたまま、旦那様に連行されます。明らかにおかしな状況ですが、誰も何も言いません。そして伯爵様の案内で応接室に来た旦那様と私と残りの護衛さん2人。


伯爵様が旦那様にソファーを勧めると旦那様は何をとち狂ったのか私の腕を掴んだままソファーに腰掛けました。当然、腕を掴まれている私は引っ張られるように旦那様の隣に座らされることになり・・・おかしいから!隣とかおかしいから!

目で護衛さんに助けを求めてみますが、なんだか笑いをかみ締めているような表情をしています。ちょっと!面白がってるんじゃないでしょうね!?


結局、旦那様の隣に座らされて、お茶まで出されている私。・・・居心地の悪さがハンパ無い。唯一の救いは、伯爵様が私の存在には一切触れてこない事です。無視とかじゃなく、あえて『詮索はしませんよー』な感じで接してくれているのですが、むしろ詮索してくれたほうが否定できるのですが。


もうこれは旦那様に意見してもいいと思うんです!


「というわけでマイクさん、旦那様に一言言ってやってくださいませんか?」

「なんで俺が」

「だって、私が言っても聞いて貰えなさそうですし」


現在、夕食の時間です。旦那様は伯爵様と晩餐をなさるらしいのですが、それに付き添うマイクさんと護衛さん1人が先に食事をするというので、私も混ぜてもらってます。ちなみにもう2人の護衛さんは、夜の当番らしいので現在仮眠中、残りの1人は食べ終わったら交代するそうです。私達使用人用の食事は、大皿でどーんと出されていて、好きな物を取り分けて食べられるようになってます。とても美味しいです。


「俺が言った方が変だろう。大体、俺が言ったって聞いて貰えるわけないじゃないか、絶対変な空気になるぞ」


お肉ばかりを食べながらそう言うマイクさん。マイクさんは旦那様が居ないところでは一人称が『俺』になりますね。切り替えがちゃんと出来るので、旦那様の居るところで『俺』と言っちゃったりは絶対にしないそうです、すごいね。


「多少変な空気になっても大丈夫大丈夫!ガンバッ!」

「嫌だよ。そんな、馬に蹴られそうな事」


馬に?馬に・・・やっぱりそういう事なんですかね?

「一体、なんでこんな事になったんだか」

「そりゃ、茶国(マロン)の方々が来たときに、若返ってからだろう」

「ですよねー」


そりゃね、私だって気づいてますよ。王妃様に強制的に出席させられた舞踏会の時と茶国の皆様がいらしていた時、両方とも『推定17~18才』位にされていましたからね。だから若い私がお気に召しただけじゃないかって思ってたら、最近現在の年齢でも接近してくるんですもん。一生懸命スルーしてましたけど、眉間に皺が標準だった人にあれだけ甘々な顔で接してこられたら、さすがにねぇ、気づきますって。


――――ハァ。


溜息をつくと、マイクさんが面白がって聞いてきます。

「シオン様の行動は、迷惑?」

「迷惑ですよ。というか、正直どうしたいのかわかりづらくて」

「ああ、まぁね」

「何か言われたわけでもないし、行動ったって『あれ』ですよ?時と場所を間違ってる気がするんですけど」

「確かにね」

「かといって、押し倒されても困りますけど・・・・ちよっと、大丈夫ですか!?」


私が『押し倒されても』と言ったとたん、それまで黙ってご飯食べていた護衛さんが「ブフォッ」っと吐き出しました。あら、ぶっちゃけ過ぎたかしら。護衛さん意外と純情なんですね。


「これは俺の個人的な意見だけど」

「是非聞かせて下さい」

「はっきり“どうしたいのか”を言われるまでは、スルーしてていいんじゃないか?それにほら公爵邸では『使用人同士の恋愛禁止』なんだぜ?旦那様だから別ってのは・・・ちょっと腑に落ちないしなぁ」

「ですよね。マイクさんひょっとしてお屋敷に好きな人居るんですか?」

「俺の話はいいんだよ。で?どうするの?」

「そりゃあもちろん――」


そんなわけで、方針が決まりました。『スルー』で!





そして、その晩。

明日もまた1日馬車だし、暇つぶせる物もないし寝るべし!ということで、旦那様やマイクさんの帰りを待つこともなく、早々と眠りについた私。


――――リィナ・・・リィナ


体を揺すられ何事かと目を開けると・・・目の前に旦那様の顔が!

「!!っ・・・ムグッ・・・」

「声を出すな、私だ」


口をふさがれモガモガ言ってたら、なんだか真剣に諌められました。

「いいか、騒ぐなよ」

そう言って、私の口から手をはずす旦那様。

「何か、あったんですか?」

というか、何もないのに女性の寝室に入っちゃダメ!絶対!

旦那様は、なんだか疲れた表情で溜息混じりに「少しかくまってくれ」と言い、私のベッドに・・・


「はぁ!?ちょっ、ちょっと、なんで入ってくるんですか!?」

「いいから静かにしろ、少しだけかくまってくれればそれで」

「えええええ!?」


小声で攻防していたら、部屋の外から物音がします。何事?


しばらくすると、物音はおさまりました。と思ったすぐあとに!


ガタガタ!

バタン!

ドサ!

という音とともに、「キャァ」という女性の悲鳴らしきものが・・・何事!?


掛け布団をぎゅっと握ってドアを凝視していたら、旦那様に頭をポンポンされました。・・・うん、スルーで。


しばらくすると、ドアがノックされて、マイクさんの声がしました。

「シオン様、よろしいですか?」

「・・・何があった?」

「侵入者を捕らえました」

「すぐに伯爵を呼べ」

「すでに向かわせています。じきに来るでしょう」


ドア越しにそれだけ話をしたあと、旦那様は私のベッドから出ると、自分のシャツのボタンを外し始めます。

「ななななにしてるんですか?」

旦那様はシャツのボタンを3つ程外してから、シャツの裾をトラウザーから出し、そして髪に手を入れてクシャクシャっと乱します。

あっという間に髪が乱れてシャツ着崩した、なんだか艶っぽいイケメンが出来上がりました。

「・・・何してるんですか?」

「ただの演出だ。気にするな」


そうこうしている内に、伯爵様が到着したようで、マイクさんに呼ばれて部屋を出て行く旦那様・・・あの、その格好で私の部屋から出て行かないでもらいたいんですけど?あの・・・?





「結論からいいますと、伯爵の娘が緊急用の隠し通路を通って、シオン様に夜這いを掛けようとしたところを、捕らえたんです」


マイクさんがそう説明してくれました。

現在、旦那様のお部屋のリビングで雑談中。まぁ、事件収束した時にはもう眠気が吹き飛んでましたので・・・今日は移動中に馬車で寝ることにしました。だって今から寝たら出発の時間までに起きれる自信ないし。


ちなみに、今回宿泊したお部屋は、シオン様とマイクさんが同室、そしてシオン様の寝室と私の寝室はドアで繋がっている部屋でした。

伯爵には、私が泊まっていた部屋にマイクさんが泊まると連絡済だったらしいのですが、実際のところはマイクさんが旦那様の部屋に“身代わり”で泊まり、旦那様は私の方に逃げてきた、と。どうやらお嬢様はマイクさんのシャワーの音が止んだのを見計らって、部屋に侵入したらしい。


「言っただろう?ゆっくり出来るのは昨日までだと」

「おそらく、領地につくまでは夜這いの連続ですからね。いやーそれにしてもリィナが居てくれたおかげで、少しは楽に済みそうですね」

「そうだな」

今回、伯爵に『本当に何もなかったのか!?』とか怪しまれもしなかったし、お嬢様自身も泣き叫んで『責任とって欲しい』などとありもしない事を騒ぎ立てることもなかったから、との事。


なんだか楽しそうな旦那様とマイクさん。

「今までもよくあったんですか?」

「あったな」


貴族のお嬢様の中には、夜這いをかける→関係があったと主張する→王子様ゲット、という無理な計画を立てるお嬢様方が意外と多いそうです。

さっきまで伯爵様は平謝りしていました。現在、お嬢様はお部屋に閉じ込めて謹慎中だそうです。


お嬢様方がそんな浅はかなことで王子様が手に入ると思ってしまうほど、旦那様の女関係がだらしないってことなんでしょうか、来るものは拒まずだと思われてるってことですよね?・・・まぁ、今はいいか。


それにしても、私が居ることによって少しは楽に済むというのは――さっきの旦那様の『演出』を考えると――“他の女と一緒に居たから、お宅のお嬢さんには手を出してないよ”という演出ってことなんですかね、やっぱり。


・・・結局、私の事都合よく利用してますよね?ムカッ。

ここは一つ、軽く釘をさしておきましょう!


「ところで、旦那様」

「なんだ?」

「あの状況で、『私のベッドに入る』必要性は、全くないですよね?」

ピシッと固まった旦那様と、目を細くし眉間に皺を寄せて旦那様を見るマイクさん。

「シオン様、リィナのベッドに入っていたんですか?あの状況で?みんなご令嬢を捕らえるためにスタンバイしてたってのに?」

「・・・それは」

「演出、なんですって。」

「服の演出の話は私も聞きましたけど、確かにあれは効果的でしたけどね。でも、ベットに入る必要はないのでは?」

「ですよねー、非常識ですよねー、ありえませんよねー。2度とやめてくださいね」

「・・・」

ゆーっくりと私から視線をそらす旦那様。

「や・め・て・く・だ・さ・い・ねっ!」

「・・・わかった」

「聞きましたよね、マイクさん」

「ええ、しっかりと」


良い笑顔で味方してくれるマイクさん。

これで、明日からはゆっくり・・・寝れませんか、そうですか。明日はどんなご令嬢の居るお宅なんでしょうね・・・ふぅ。








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