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100 つまり、想定外

アリッサの結婚式から2ヶ月が経ちました。


明日はもう年末です。この国はクリスマスも無いし、新年も特にイベント的なものはないので、日本の師走のような忙しさはありません。それに今年は異世界カフェの年越しパーティーの幹事でも無いしね。


ちなみに、今年の年越しパーティーは『ドレスコード:赤いものを身につける』という、ゆるーい感じなので、赤いワンピースでも着ていこうかなーと思ってます。


今日は旦那様のお仕事のお手伝いです。

最近は新人ちゃんも仕事を覚えてきたので、私は旦那様のお手伝いをすることが増えてきています。

・・・これはメイドの仕事ではない気がするんですが、拒否権はありませんでした。そのかわり、手すりとドアノブ磨きは新人ちゃんに引き継がずに死守しました!癒しは必要ですよ、手すりをピカピカにするのは私の癒しです!あの達成感に心が癒されるのです!


それにしても、私がこの世界に来てそろそろ丸二年が経とうとしています。

そういえば去年の年越しパーティーは大変でしたよね。

王女様の侍女をしてたので推定17才でしたし、ミニスカートにニーハイソックスにツインテールにされましたよね。そして乱入してきた旦那様とクリスさんが酔っ払ってセクハラしてきましたね。


「旦那様、今年は異世界カフェのパーティーに来ないで下さいね」

「・・・わかった」


嫌ですよ、去年のような乱入は。・・・なんで不服そうな顔してるんですか。


「本当に来ないで下さいね」

「わかったと言っている」

「クリスさんも来ないで下さいね」

「行きませんよ。今年は色々忙しいので」


ふむ。これだけ言質をとっておけば大丈夫でしょう。よしよし。


今年は飲めるぞ~!!





そして、翌日。年越しパーティー当日。


「セ、セリーヌ・・・これは一体」

「え?だってリィナ、赤いワンピースって言ってたからっ」


セリーヌが、なぜかわたし用にワンピースの上から羽織る上着を持参してきました。

赤いポンチョで、裾には白いファーが・・・これはもしや


「サンタさんだぁ~。リィナかわいいね」

「パオロさん・・・」

「俺個人としては、スカートがもっと短いほうが」

「タクトさん?」

「・・・ゴメンナサイ」


結局今年もコスプレか!!




「リィナ、機嫌直してよ」


サンタの上着は脱ぎました。そしてパオロさんに着せました。私より似合いますよ、ププッ。

というかなんかね、私、この世界に来てから『いじられ要員』になっている気がするんですよね。

やさぐれたくなるこの気持ちを、だれか理解してくれませんか。無理ですか、そうですか。


「飲んでやる、今日は飲んでやるんだから!」

「あ、それはダメ。」


一気飲みしてやろうと、かかげたグラスをタクトさんに奪われました。なぜに!?


「シオン様から、リィナに飲ませるなって頼まれたんだ。」


まさか、こんな所に伏兵が居たとは!

こんなに飲まない日々が続いたら、本当に飲めない体になっちゃうってばっ!!



パーティーは相変わらずゆるーく始まり、そろそろカウントダウンも近付いてきまして、もうすでに宴もたけなわです。私は飲んでませんよっ。いま飲んでいるのはマールのジュースを“何か”で割ったものです。何かです。何かは分かりません。ええ、私には分からないものなので、これはお酒ではないと言い切ることもできませんが、逆にお酒であるとも言い切れません。だって何か分からないからさっ。嘘はついてないもーん。え?酔っていませんよ。はい?いつもより饒舌?気ぃのせい気のせい!・・・ぅあっ!タクトさん、それ持ってっちゃヤダまだ飲んでるのぅ。


「リィナ、はいジュース。」

「むぅ・・・ありがとうございます。そういえばセリーヌ、里帰りしてきたんだよね」

「ええ。移民手続きであちこち廻ってて、あんまりゆっくりは出来なかったんだけどね。でも、エリーゼのお墓参りにはちゃんと行ってきたわよ。」

「そっか。エリーゼのご両親はどうだった?」

「うん、お元気そうだったわ。エリーゼの写真を持っていったから、すごく喜んで下さったの。今度はみんなで行きましょうね」

「うん、そうだね。」

「次の帰還はタクトかぁ・・・寂しくなるね」

パオロさんがしんみりとそう言います。

タクトさんの帰還はあと半年。

そのあと、来年はアベルさんも帰還します。

そして再来年早々に私が帰還、と。


うん、確かにさみしくなるね。この中ではパオロさんが最後になりそうですからね。


帰還した人数の分、新たに召喚される人が居るのかと思ったら、そうでもないみたいで。というより、召喚はされているらしいのですが、前任者と同じ職場になるわけではないので、王都に居るとも限らないってことみたいです。


「タクトさんは帰還の準備とか始めてたりするんですか?」

「そうだね。もう少ししたら仕事の引継ぎとかもあるけど、5年も暮らしていると流石に荷物が増えてるから、そういうの整理しないとね。こっちで買った物もたくさんあるし、服とかさ、持って帰っても向こうじゃ着ないだろうし」

「確かにそうですね。私もこっちの服は日本では着ないだろうなー」

「カップとかタオルとか、そういう細々としたものとかはさ、持って帰ってもしょうがない物もあるし」

「確かに、よほど気にいってたりしないかぎり、タオルは持って帰らないですねー」

「まぁ、記念に騎士服は持って帰ろうと思ってるけど」

「私もメイド服は1着持って帰ろうと思ってます!」

「タンスの肥やし確定だけどね」

「確かにね。ハロウィンとかでなら着れるかなぁ」

「じゃあ、一緒にハロウィンで仮装しようか」

「いいですよっ、メイドと騎士で街に繰り出しましょう!」

「いーよねー、二人は制服があってさー」

「パオロ」

「パオロさん」

私とタクトさんの会話をじっと聞いていたパオロさん・・・どうやら拗ねていたらしいです。

「どうせ僕の職場はフツーのスーツに腕章だけだしー」

「・・・腕章、持って帰りやすくていいですよね」

「向こうじゃ仮装にすらならないけどねー」

「・・・」


うーん、なぐさめの言葉が思いつかない。


「そういえばさ、リィナとタクトは日本のどこに住んでるの?」

「「東京」」

「なんだ、じゃあ帰ったらいつでも会えるんじゃん」

「まぁ、その気になればいつでも会えるでしょうけど?」

「もーそんならさぁ、二人付き合っちゃえよ」


・・・ん?


「年も近いし、住まいも近いんでしょ?いいじゃん。それにさ、帰ったら周りの人に気軽に『異世界に行ってた』なんて言えないんだよ?話のできる人間が側に居たらいいと思うけどなぁ」


・・・んん?

なんか変な方向に話が向かってませんか?



お付き合い?お付き合いですか?

しまった。想定外だった。

いや、私の年齢的に独身男性との出会いやお付き合いが想定外ってのはまずいんでしょうが。

うーんと、うーんと・・・


「みなさーん、カウントダウンまであと1分でーす」


「リィナ、飲み物取ってきてあげるよ」

「あ、ありがとうございますタクトさん」


カウントダウンの掛け声がかかったおかげで、どうやらうやむやになりそうです。よかったです。ほっ。

「えー、いい案だと思うんだけどサー、ねぇねぇリィナー」

「もう!うるさいですよパオロさんっ。酔っ払いは少し黙ってて下さい!」

「なんだよー。帰還後のデートの約束までしてて、なんで付き合わないのがそのほうが不思議だよ。あ、あれか?遠距離になっちゃうのが嫌だとか?」

「そーいうんじゃなくてですね・・・もういいから黙ってて下さい」

「いひゃい、いひゃいよ、ひぃな」

戯言を言う酔っ払いには両頬つねりの刑です!うりうりっ!


『ハッピーニューイヤー』


あ・・・パオロさんの頬をつねっている間に、カウントダウンが終わってしまいました。

そしてタクトさんがジュースを持って戻ってきました。

「あけましたー」

「あけたねー」

「はいカンパーイ」

「「カンパーイ」」

「ねーパオロさん、そういえばセリーヌはどこ行ったの?」

「ユージーンと買出しに行ったよー」

「そうなんだ。飲み物とか足りなくなったのかな?」

「そうみたいだよ、去年はリィナの旦那様が差し入れ持って来てくれたけど、今年はないみたいだからねー」

「シオン様に“差し入れだけ”頼めばよかったですかね?」

「・・・それはさすがにどうかと思うよ?」


ですよねー。



そして毎年定番らしいビンゴゲームも終わり、酔っ払いが増殖し、無法地帯と化した異世界カフェ。

ビンゴゲームの景品?・・・タオル、でした。帰還時に持って帰るかどうかはともかく、明日からガンガン使っていこうと思ってます。


そして、私は明日も仕事なので、そろそろ帰ろうかと思ってるんですけど・・・

「リィナ、帰る時送ってくよ」

「ありがとうございます。タクトさん優しい!」

「えっと・・・実は送るようにとも頼まれてるんだ」

ああ、なるほど。うちの保護者達がご迷惑をおかけしています。


「リィナー、またねー」

「はーい。パオロさん、飲みすぎないでねっ。セリーヌも、またねー」

「うん、またねー」


お見送りされてお店を出ると、辺りはすっかり静まり返ってます。それはそうですね、この国はあまり遅くまで開いてるお店が少ないんです。大通りでもバーが何件かあるくらいだし、そのバーも日付が変わる頃には閉店していたりします。


旦那様のお屋敷までは王城から続いている大通りに出て、真っ直ぐ突き当たりです。

タクトさんと二人で、夜のお散歩ですね。ここからだとお屋敷まで歩いて20分くらいかなぁ。


シーンとした街中で、黙って歩いているのはちょっと気まずくなりそうなので、雑談をしながら歩きます。このあいだ家族から送ってきた荷物にエンタメ系の雑誌が入っていたとか、最近ウィルさんがなんだか忙しそうとか、そういえばナンシーも忙しそう、とか。・・・あの兄妹くらいしか共通の知り合いが居ないしね。


「リィナ、またこんど日本食作ってくれる?」

「もちろん、いいですよ」


最初に王城でピクニックして以来、たまにタクトさんと日本食会をしています。


「あと、帰還までにどこかに遊びにいかない?」

「はい。お休みとれるか聞いてみますね」

「あと・・・帰還後も、どこか遊びにいこうよ」

「はい。あ、私、ジェットコースターに乗りたいです!」

アミューズメントパーク的な物が、この国には無いんだよね。異世界(あっち)から輸入すればいいのにー。

「じゃあ、俺が帰還したら手紙くれる?」

「そりゃもちろん」

だって手紙しか連絡手段が・・・


「じゃあ・・・リィナが帰還したら、付き合ってくれる?」


さらっと言われましたが・・・これは、すっとぼけて“どこに?”とか聞いちゃマズイ感じの、ヤツですね。


「パオロの話に乗っかるみたいで、今言うかどうか、かなり迷ったんだけどさ」


「そうですか」


「でもたぶん、今しか言う時無い気もするしね」


「ソウデスカ」


「いまから半年付き合って、そのあと遠距離とかは俺も嫌なんだけどさ、リィナが帰還したときに、お互い決まった相手が居なかったら、ってことで・・・予約?で、どうかな?」


「予約・・・」


「あ、いや、予約って言っても強制じゃないし、ほら、お互いその間に相手が見つかってるかも知れないわけだし・・・まぁ、俺の場合はなさそうだけどさ、とにかく、その・・・ちゃんと日本で付き合ってみたいなと思うっていうか。」


「・・・」


「なんか、うまく言えないんだけどさ、若い頃の恋愛みたいに、のめり込むような気持ちじゃないから表現がしづらいんだけど・・・でも、その、よかったら、リィナが帰還するまでに考えてみて。考えた結果なら“やっぱりナシ”って言ってくれてもかまわないからさ」


「私の帰還、1年後ですよ?」

「うん、それでいいよ。どうせ俺も帰還して一年位は仕事で忙しいだろうし」


ぼちぼち歩いていたのに、お屋敷に着いてしまいました。

タクトさんは使用人用の通用口の前まで送ってくれました。


「こんな話をしておいてなんだけどさ、あまり悩まなくていいから。」

「・・・うん」

「うん。じゃあまた」

「はい、おやすみなさい」

「日本食、忘れないでね。あと遊びに行くのも」


そう言って去っていくタクトさん・・・ああ、気を使わせてしまいましたね。


・・・ヤバイ、頭ぐるぐるしてる。本当に想定外だった。









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