96 とある皆様の事情 小話集
長いです。いつもの倍の文章量になってしまいましたのでご注意(?)ください。
【シオンの事情(マサキ視点)】
帰りの馬車。窓から見える王都の景色を見ながら、マサキは先程の別れの挨拶を思い出していた。
「全員分持っていくといい」
と言った兄上の言葉に驚いた。シオンが『鍵』を私用で使うことを一番警戒しているのが、茶国だから。
シオンの『鍵』は、今ではシオンただ一人だけが持つ『鍵』で、もともとはシオンの父君が持っていたらしい。まぁ、遺伝はよくあることだから。
名称は【模倣】。つまり、他人の『鍵』を写し、自分で使用できる。
ちなみに舞踏会の時、僕とシオンが入れ代われたのも、シオンが僕の【姿写し】をコピーしたってこと。
まぁ、シオンの場合は完全にコピーできるわけじゃないらしく、僕の姿になったときは声だけ変わってなかったりしたし、それなりに制約がある『鍵』らしいけど。
とにかくそれを使って「全員分の鍵」を持っていって良いって、大盤振る舞いもいいとこだ。
「兄上、シオンは・・・」
一体、何に巻き込まれようとしているのか・・・を聞きたかったのだが、兄上はニッコリわらって誤魔化した。どうせね、僕みたいに政治に関わってない人間には教えられないことなんだろうけどサ。
「マサキ、そう拗ねるな」
「スネテナイシー」
しょうがないって事は分かってるんだよ僕も。茶国は王族が多いから、全員が政治に参加したらそれぞれの政策の違いで分裂しかねないから政治に関わるのは第2王子まで。だから僕はずっと福祉事業に取り組んでいた。まぁ、だからこそ赤国で受け入れてもらえそうなんだけどさ。この国、王族が足りないからそこまで手が回らないみたいで、福祉事業は貴族にやらせてるみたいだし。
ちなみに騎士団に入るって手もあったんだけど、僕、武道派じゃないんだよね。
兄上はそれっきり、何も教えてくれなかった。
そんなに言えない事なのか、もしくは口止めでもされているのか、それとも・・・僕にも関係している事なのか。
どちらにしろ、僕としては友人を心配するのは当然じゃないか。
ああもう、こうなったら急いでこの国に引き返してこよう。
早いとこ、この国での足場を作っておかないと、いざ友達に助力しようと思った時に何もできなさそうじゃん。
「年明けには、戻ってこれるかな」
ボソッとそう呟いたら、兄上に頭を撫でられた。・・・ムカツク。
【第5王女の事情(ハヤテ視点)】
流れていく景色を無表情に眺めるアカリを見て、声をかけた。
「アカリ、気は済んだのかい?」
「・・・ええ。」
そう言って軽く微笑む妹を見て、少し安堵した。
来る時はずっと硬い表情をしていた。そこまで悲痛な顔をしなくてもと、こちらが思う程に。シュウやサクラまでその影響でピリピリしていたのを思い出す。
「お兄様あのお話、進めて下さい」
「・・・そうか」
何かふっきれたようにそう言うアカリを見て、連れてきてよかったと思った。
アカリに縁談が来たのは2ヶ月前、相手は青国の第3王子で、結婚後は臣籍に降り公爵家を興すらしい。
アカリは第5王女ということもあって、政略結婚することは無いという前提で育てられた。
貴族に嫁いでも、民間人に嫁いでもいいように、教育されてきたはずだ。
本人もそのつもりだったようだし、何より夢見がちなアカリは恋愛結婚以外は考えていなかっただろう。
縁談相手の王子はアカリより7才年上で、国内外を問わず、社交には全く携わっていない。
側室の子だからという表向きの理由はあるのだが、国外はともかく国内の式典にすら顔を出さないのは異常である。茶国としては、あまりにも表に出なさ過ぎるその王子との縁談話を進めてもいいものか考えあぐねた為、叔父が『青国の王太后である実姉に会いに行く』という理由をつけて、話を聞きに行ったくらいだ。
そして実際に彼に会って見て、事情がわかった。
その第3王子は、シオンにそっくりだったのだ。
いや、実際にはシオンの父親であるヘンリー王子に生き写しだったのだという。
従兄弟同士だから似ていても何の不思議もないと言われればそれまでだが、ヘンリー王子が赤国の人質になったのは33才の時・・・既に子供が居てもおかしくは無いのだ。
しかも、その王子の年齢からすると人質になってから一年以内に生まれている。
もしヘンリーに非公式の妻が居て、その妻のお腹に子供がいることを知らされぬまま人質として赤国に行き・・・帰れなくなってしまったのだとしたら。
青国の現王は、赤国の貴族になってしまったヘンリーの子を守る為に、弟の妻を側室として召し上げて自分の子として育てたのかもしれない。
想像でしかないのだが、一切の社交をさせない理由にはなるだろう。シオンは母親が赤国の王妃だから各国も手出ししづらいという事情があるのに、母親の身分が低いシオンの異母兄が現れたら、まだまだ復興途中の青国に付け入り強引に手にいれようとしかねない。
ヘンリーの持っていた【模倣】という『鍵』は、絶対に拡散してはならないものだ。『鍵』は遺伝がほとんどである。たとえその王子の持つ『鍵』が別の物であったとしても、隔世遺伝の可能性は充分にあるのだから。
たった一人で、あらゆる『鍵』を使える者など・・・そんな神か魔王のような力をこの世界に拡散させるわけにはいかない。
アカリにはその王子の素性を『あくまで想像だが』という前提で全て話しをした。そして、そっくりだといわれているシオンと話をしてみたいと言い出し、今回の訪問に同行したのだ。
「お兄様」
「なんだい?アカリ」
「シオン様は、お会いした事はないそうです」
「そうか」
「お会いした事はないそうですが・・・シオン様が言うには「自分とは違って、とても穏やかな気質」だと伺っているそうですわ」
「そうか。それは安心だね」
「はい」
少し戸惑うように、でも優しげな表情をしてシオンは彼の事を話したらしい。シオンはいつもピリピリしているからな。誰に聞いたのかはらないが『自分より穏やか』という表現を本人に言うなんて・・・まぁ伯母上ならやりかねないけどな。
でもそうか。シオンが会ったことが無いとなると、ますます確定かもしれない。
この縁談は、アカリにとっては良縁かも知れない。この子もあまり社交に向いているとは言えない気質だし。きっと青国で、元王族の妻として穏やかに暮らせるだろう。もし子供に【模倣】が出たら、茶国で引き取るか、もしくはそれこそシオンの子供と娶わせれば拡散は防げるし。
よかったよかった、とアカリを見て微笑んでいたが、ふと考える。
いつもピリピリしているシオンの妻は・・・一体どんな女性なら務まるんだか。
願わくば、シオンに穏やかさをもたらしてくれる女性であるといいのだが・・・若返ったリィナちゃんみたいな。
“全て、リィナの望むように。あとは私がなんとかする”
彼女のまっすぐに目を見てそう言ったシオンは、こちらが驚くほど頼もしく見えた。
いつもどこか頼りなく周りに守られていた少年がいつの間にか、守る側の男になっていたのだと感じた。まぁ、その割には経験不足による詰めが甘いのだが、21才の若者にしては上出来だろう。
穏やかな顔で、それでいて決意を秘めた目でリィナちゃんにそう言ったのをみて“ああ、守りたい者が出来たんだな”と自然と感じたのだが、その女性がまさか10才も年上だとはなぁ・・・どうするんだか。実際シオンの、年下だったリィナちゃんに向ける目と、年上になったリィナちゃんに向ける目に温度差がある気がするのは・・・たぶん、私の気のせいではないはずだ。
ま、なるようにしかならないし、心配するほどでもないか。
目下の心配は、むしろ嫌なかたちで失恋してしまった自分の息子の方だ・・・。
【おうじさまの事情(シュウ視点)】
「大切にしますね」
リィナはそう言ってにっこりわらってくれた。その後サクラに言われてすぐ服につけてくれたから、だから・・・
「シュウゥゥゥ、『鍵』は使っちゃダーメだよ」
「っ・・・つかってないっ」
「使おうとしてただろー。」
「まだつかってない!」
マサキ叔父上が僕の手の中の石を取り上げようとするから、僕は必死でポケットに隠したら今度は・・・
「シュウ、覗きはよくない」
サクラがそんなことを言ってきた。
「のぞきじゃない!」
「いや、覗きだ。シュウの『鍵』は基本、覗きだ」
「ち、ちがうもんっ」
「違わない。その石は父上に預けるべきだ」
ううー
「兄上もなんとか言いなよ」
「・・・シュウ、リィナさんに石を渡したのは、彼女に何かあった時、身の安全を確認できる手段が欲しかったからだよ。」
「・・・はい」
「だから危険が無い時に自分勝手に『鍵』を使ってはならない。いいね?」
「・・・はい」
父上に怒られた。
この国に来てから、父上に怒られてばっかりだ。
「約束できるなら、自分で石を保管しててもいいよ」
父上がそう言ってくれたので、石を渡さずに済んだ。よかった。
馬車が今日の宿泊地に着いたのは、日暮れ前だった。
オーベルジュを丸ごと貸切にしたというそこで、久しぶりに家族だけで食事をした。
そしたら父上に『子供はもう休みなさい』と部屋に戻された。
寝る仕度を済ませてベッドにもぐってから、枕元に置いた石を手にとった。
これはリィナにあげたブローチの、その中心に嵌めた石の片割れで、もともとは同じ石なんだ。
ぼくの『鍵』は【中継】。リィナに渡した石が写したものを、僕の石で見る事が出来る。見るだけで声は聞こえないし届かない。
茶国王の『鍵』も僕とおんなじだったから、使い方を教えてもらったんだ。8才でここまで『鍵』を上手く使えるのはすごいんだって、みんなに言われるんだ。
リィナ、もう寝たかな?大人だからまだ寝てないかな?
リィナは最初に会ったときには僕と同じぐらいの年だったのに本当は大人だったんだ。父上と同じくらいって言ってたから、ぼくの母上よりも年上なんだって。
“シュウ、そういう時はケーキを横取りするんじゃなくて、『一緒に食べよう』って誘えばいいんだよ。”
父上にすごく怒られたあと、マサキ叔父上がそう教えてくれたから、今度会ったらそう言おうと思ってたのに、その日は“女の子だけのお茶会だからダメ”って言われた。そのあと騒ぎがあって、僕は目隠しをされて部屋に戻された。
そして、それからずっと会えなかったんだけど・・・大人になってたなんて。
リィナに似たきれいなお姉さんがいるなぁ、なんて思ってたら・・・本人だったなんて。
みんな知ってたなんてひどいと思って、お部屋でふて寝してたらマサキ叔父上がお茶にさそってくれた。
リィナがお茶をいれてくれて。一緒にケーキを食べたんだ。僕のために作ってくれたんだって!
大人のリィナは優しくて、あたたかくて、なんかいいにおいがした。
3日前に父上が『石を作ってリィナに渡しなさい』って言ったから、僕すごく頑張ったんだ!
ブローチ、気に入ってくれたかなぁ。
・・・何処かに置き忘れてたりしてないかな。
父上は自分勝手に『鍵』を使ってはならないって言ったけど、でもリィナがちゃんと持っててくれているかを確認したほうがいいんじゃないかな。――――そうだ、確認するだけなら自分勝手じゃないよね!
まだ起きてるかな・・・なんて考えて、ドキドキしながらそっと『鍵』を使った。
~~~その頃、シオンの執務室~~~
ドアのノックがして、クリスが入室してきた。
「シオン様、調べてもらった結果、やはり【中継】のようですね」
「そうか。」
シュウからリィナに渡されたブローチは、やはり『鍵』が使われていた。
「・・・シオン様が【模倣】した【中継】では、無効化できないんですか?」
「ない。それにこの石は“発信用”だから写ったものを“受信用”に伝える機能しかないし」
「どうしてそんな物をリィナに・・・」
「ハヤテさんはずいぶんリィナを心配していたから。赤国王族に対して釘をさしたかったんじゃないか?“こっちで見てるからな”っていう。さすがに女性に渡したのだから、簡単に使うわけが無い。使ったら覗きじゃないか。」
「そうですね。まぁ悪用される心配がなければいいですか。じゃあこれはリィナに渡して来ま――」
クリスがそう言ってブローチを取り上げた時、シオンが微弱な波動を感じた。
「クリス、いま【中継】されている」
「・・・今?何の為に?」
そうつぶやいたクリスは手の中にあるブローチ――石に向かって話し出す。
「シュウ殿下ですか?いけませんね、覗きは犯罪行為ですよ?」
「・・・クリス、声は届かないから」
「おや、そうでしたか」
「それにお前・・・顔、怖いから」
「おや、すみません。つい」
~~~翌日~~~
「おはようシュウ、どうした?顔色が悪いね、眠れなかったのか?」
「ち、ちちうえぇ。これ、あずかってぇぇぇ・・・」
「(勝手につかったんだなと思いつつ)・・・そう、分かった。」
シュウ王子はこれ以降、勝手に『鍵』を使うことはなかったという。
(こわかったコワカッタこわかったコワカッタコワカッタ何言ってるのか分からなかったけど・・・怖かったよぅ)
【桐城の家(リィナ視点)】
「“とうじょう”って何?」
「・・・私の父方の苗字です」
正確に言うと、20才になる少し前までは私の苗字でもあったのだけど。
父の実家である桐城の家というのは、少々変わった家・・・らしい。
まず、何か家業があるらしいのだが、それが一体何なのかを知らない。
家長は祖父。現在跡取りとして兄が何かを頑張っているらしい。つまり兄は家業が何かを知っている・・・らしい。一度聞いたら『人を使う』って言ってたから、人材派遣か何かかな?
父は跡を継がない事が決定しているらしく・・・というか、跡継ぎでないから母の実家に婿養子に入ろうとした人だった。でも結局、母はずっと桐城姓だ。
そして、跡取りの居なくなった母の実家である『木村』姓を、私が継いだわけだが。
そもそも、元々兄が『木村』で、私が『桐城』だったのだ。
そしたらどうやら私が桐城を継ぐことに反対した兄が、何をどうしたのかは知らないが自分が跡取りになると言って、私と立場を入れ替えた。
まぁ、滅多に家に帰って来れないほどに忙しい兄を見ている限り、跡取りにならなくてよかったと思う。ありがとうお兄ちゃん!
とまぁ、桐城に関して私の知ってることはそのくらいなのだけど・・・
「・・・あとは、祖父はかなりの変人だとか、たまに黒塗りの車が出入りしててヤバイ系の人かと思ったら実はどこかのお偉いさんだっただけとかそんな事くらい。なんでアカリ様が知ってるのかはサッパリです」
「ふーん。ひょっとして、茶国の取引先だったりしてね」
「えー、まさかぁナイナイ」
「わかんないわよ。案外、リィナが召喚候補に選ばれたのも、そういう素地があったからかもしれないじゃない」
「いや、独身で両親健在で兄が居るから介護の心配もなくて、家事と書類作成が出来て雇用主の顔に見惚れない女だったからですよ」
あ、ちなみに公爵邸に勤めているみなさんは男女関係無く『雇用主の顔に見惚れない』が前提だとか。確かにナンシーもアリッサもミシェルもその他の皆様も、シオン様見てもクリスさん見ても平然としてるしね、重要だね!
「私は関係あると思うけどなぁ」
「もう、しつこいですよナンシー。ほら帰りましょ、早く帰ってみんなに長い間留守にした事のお礼言わなきゃ」
「そうね・・・仕事、たまってないといいわねぇ」
「私は手すり磨きが溜まってる事を希望します!ピカピカにします!」
「はいはい」
~~~日本国・莉奈の実家(莉奈の兄、桐城竜矢視点)~~~
「ただいま帰りました、お母さん」
「あら久しぶりね、お帰りなさい。そうそう、あなた宛に異世界から手紙が届いてたわよ」
「異世界から?・・・まさか莉奈に何か!?」
「ううん、違うみたいよ。はいこれ。」
そう言って母から渡されたのは、結構な分厚さのある封筒。
なんだこれはと思い、すぐに封を開けると・・・便箋3枚分ほどの手紙と、たくさんの写真。
分厚かったのは写真か。
何枚か見てみると、どうやらメイド服を着て働いている莉奈や、同僚達と楽しそうに談笑している写真などのようだ。・・・メイド服、似合うじゃないか。残りの写真はあとで見ることにして、先に手紙を読む。
拝啓、から始まるその手紙は莉奈を・・・俺の大事な妹を召喚なんぞしやがった、どこぞの国の王子からだった。
「今頃になって、俺のご機嫌伺いか」
「そんな風に言うものじゃありませんよ。莉奈の様子を見ると、楽しくやってるみたいじゃない」
「お母さんは知らないと思いますが、あの国はどう考えても要注意な国なんです。桐城が支援している国からも――」
「竜矢、お母さん前から言ってるわよね。桐城のお仕事は、絶対家庭に持ち込まないで頂戴」
母親に窘められ気まずくなっていたら、今度は家族宛てに書かれた莉奈からの手紙を渡される。既に父母が読んでいる為、開封されている。
「お母さん、莉奈からの手紙があるのなら、先に・・・」
「はいはい」
そう言って母は、俺の為に煎れたお茶をテーブルに置く。
まったくこの母は、父や自分のあしらい方が上手すぎる。莉奈も年をとったらこんなふうになるのかと思うと・・・微妙だ。
とりあえず、先に莉奈からの手紙を読もうと決め、どこぞの王子の手紙をテーブルに置くと、それを母が手に取り読みはじめる。
莉奈からの手紙はいつも“これはなんの報告書だ”と思う位、淡々と書かれている。
いつ何があったとか、これは美味しかったとか、こんな人と知り合ったとか。
そこには楽しそうに生活している様子だけが伺えて、逆に心配になる。
あの子は嫌な事があっても、一人で抱えてしまう子だから。
俺はシスコンの自覚はあるし、本人もいい年して兄に守って貰いたいとは全く思ってないだろうが、せめて安心して託せる相手が見つかるまでは・・・と思っている内に、莉奈は三十路になってしまった。
莉奈は・・・昔から男運が、悪すぎるんだ。
最近では、異世界で知り合ったという日本人の“タクトさん”とやらはまだいい方じゃないかと思うが・・・莉奈の手紙を読む限りでは全く興味がなさそうだ。
莉奈の“報告書”を読み終わる頃、ふと気づくと母が写真を見てなにやら一人で悶えている。
「どうしたんですか、お母さん」
「見て見てこれ!かわいいわ!さすが私の娘ね!」
そう言って渡された写真に写っていたのは、フリルの付いたピンクのドレスを着て髪を結っている・・・推定10才程度の、満面の笑みでケーキを食べる莉奈。
なぜ小さくなってる!?いや、そういう技術やよくわからない『力』があるのは知ってるがそれにしても・・・いや、だけど、これはっ、
「・・・かわいい」
「でしょでしょ!まぁ!こっちもかわいいわ!」
次に見せられたのは淡いオレンジのヒラヒラしたドレスを着て・・・知らない男に笑いかけている莉奈。
「誰だコイツ」
「召喚主さんでしょ?こんなに若くてカッコイイ男の子だったのねぇ」
・・・ほぉーう、こいつが。
なぜ召喚主が召喚者を抱きかかえているのか是非詳しく聞きたいものだな。というか、とりあえず一発殴らせてもらいたいな。
「ほら、そんな顔しないの。そうそう、その召喚主さんがね、異世界で莉奈が気に入ったっていうジャムを一緒に送ってくれたのよ。食べるでしょ」
「・・・いただきます」
出されたジャムは2種類、両方とも同じ果物から出来ているらしい。若い内は酸味が強く、熟すと糖度が増し甘くなるのだそうだ。・・・美味い。なかなか気遣いが的を得ているじゃないか。
・・・仕方ない、今回は目を瞑ろう。殴るかどうかは今後しだいだな。
シオン ハ リナ ノ オニイサン ヲ エヅケデキタ!




