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2. 運命------>覚醒

 それでもレオンは止まらない。


 この理不尽な「バッドエンド」を、絶対に受け入れない。


【警告】


 脳裏に、冷たい文字が浮かび上がる。


【情報処理量が限界を超えています】

【スキル使用を直ちに中断してください】


(うるさい! クソスキルめ!)


 レオンは歯を食いしばった。口の中に広がる血の味――――。


(俺が見たいのは、こんな結末じゃ……ないッ!!)


【警告】

【個体名:レオン・グレイフィールドの精神崩壊の可能性があります】

【直ちにスキル使用を――】


(上等だバカ野郎!)


 レオンは心の中で叫んだ。


 壊れるなら壊れろ。狂うなら狂え。


 こんなふざけた結末を受け入れて生きるくらいなら、いっそ――!


 直後。


 ブツン。


 何かが切れる音がした。


 それは脳の奥で鳴った音なのか、それとも世界そのものが軋んだ音なのか。


 レオンには分からなかった。


 ただ、視界の端で、世界の「色」が反転した。


(……へ?)


 そして――。


【――エラー発生】


 壊れたメッセージが、視界を埋め尽くした。


【速やかに――――繧ケ繧ュ繝ォ繝。繝?そ繝シ繧ク】


 文字化け。意味を成さない記号の羅列。


 まるで世界の基盤(システム)そのものが悲鳴を上げているかのような。


「ぐ……あ……っ!」


 刹那、激しい頭痛がレオンを襲った。


 脳を直接握り潰されているような、想像を絶する苦痛。


「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」


 レオンは頭を抱え、床の上を転げ回った。


 周囲の冒険者たちが何か騒いでいるが――その声はもう聞こえない。


 脳裏を高速に流れる、謎の文字列。


【荳顔ュ峨□繝舌き驥朱ヮ?】

【荳顔ュ峨□繝舌き驥朱ヮ?】

【荳顔ュ峨□繝舌き驥朱ヮ?】

【荳顔ュ峨□繝舌き驥朱ヮ?】


 意味が分からない。何も分からない。


 視界がノイズに覆われ、現実と虚構の境界が溶けていく。


 自分が誰なのか。ここがどこなのか。


 全てが曖昧になっていく中で――。


 ふと。


 ノイズの奥に、一筋の光が見えた。


 金色の、温かな光。


 それは、まるで導きの糸のように、壊れゆくレオンの意識を繋ぎ止めていた。


【処理不能につき――】


 新たなメッセージが、ノイズを切り裂いて浮かび上がる。


【ユニークスキル【運命鑑定】への強制アップデートを実行します】


 その瞬間。


 視界を埋め尽くしていたノイズが、まるで朝霧が晴れるように消え去った。


 世界に、色が戻る。


 音が戻る。


 そして――。


【スキルメッセージ】

【運命鑑定------>覚醒】


 世界が、変わった。


 レオンはゆっくりと目を開いた。


 痛みは消えていた。いや、消えたわけではない。ただ、それを超える「何か」が、全身を満たしていた。


 視界に、半透明の金色の文字が浮かび上がる。


 以前の【ルート鑑定】とは、次元が違う。


 まるでこの世界そのものが巨大な物語で、自分はその(ページ)を読む特権を得たかのような感覚。運命という名の台本が、目の前に広がっている。


【運命分岐点:絶望の淵】

【残り時間:三十秒】

【選択によって、世界線が変動します】


 三つの選択肢が、黄金の文字となって眼前に現れた。


 まるで、神が差し出した三枚のカードのように。


【選択肢A:復讐を試みる】


 選択肢に触れた瞬間、未来の映像が脳裏に流れ込んでくる。


 怒りに任せてカインに飛びかかるレオン。だが、戦闘力ゼロの軍師が、Aランク冒険者に敵うはずもない。カインの剣が、冷たく光る。心臓を貫く刃。石畳に広がる血の海。セリナの嘲笑う声。そして――永遠の闇。


 ――――死。


 これを選べば、死ぬ。


【選択肢B:土下座して許しを請う】


 次の映像。


 カインの足元に這いつくばり、許しを請うレオン。だが、カインは冷たく笑うだけ。週末、約束通り奴隷商人がやってくる。錆びた鎖。汚れた馬車。鉱山での過酷な労働。痩せ細っていく体。そして三ヶ月後――栄養失調による、惨めな衰弱死。


 これも、死。


 ただ、少しだけ長く苦しむだけの違い。


【選択肢C:裏口へ向かう】


 そして、最後の選択肢。


 その横には、他の二つにはない表示が添えられていた。


【運命推奨】


 未来の映像が流れ込む。


 裏口から続く薄暗い路地裏。そこで待つ、四人の少女たち。傷つき、汚れ、絶望の底に沈んでいる彼女たち。だが、その瞳に宿る光は――消えていない。


 新たなる絆。共に歩む仲間。世界を変革する冒険。


 そして――。


 そこから先は、黄金の霧に包まれて見えなかった。


 だが、その霧の向こうには、確かに希望の光が輝いている。


 暗闘の中に差し込む、温かな一条の光明。


(な、なんだこれは……?!)


 レオンは呆然と、目の前に浮かぶ選択肢を見つめた。


(本当なのか……? こんなことが、本当に……?)


 こんな都合のいいことが、現実に起こっていいのか?


 さっきまで絶望の底にいた自分に、こんな「救い」が与えられるなんて。



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