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16. 本当の仲間

「ほ、本当?」


 ルナは手のひらを合わせ、キラキラと瞳を輝かせる。


「本当さ」


 レオンは、自信を持って頷いた。


「僕がバッチリプロデュースしてみせるよ。君たちの才能を開花させて、大陸最強のパーティにまで上りつめさせる。そうすれば、お金なんていくらでも稼げるよ」


「お金……いくらでも……」


 ルナの目が、キラキラと輝き始めた。


「じゃあ、最新の服も買える?」


「もちろん」


「美味しいご飯も、毎日食べられる?」


「腹いっぱい食べていい」


「やったぁ!」


 ルナは、万歳して歓声を上げた。


「頼もしい仲間が増えたのだ!」


 その屈託のない笑顔に、レオンも思わず笑みがこぼれた。


 ついさっきまで「男なんてみんなクズ」と叫んでいた少女が、今はこんなにも無邪気に笑っている。


 その変化が、なんだかとても嬉しかった。


「ちょっと、ルナ」


 エリナが、呆れたように言った。


「調子に乗りすぎじゃない? まだ信用できるか分からないのよ?」


「えー、でもエリナだって、さっきお肉もらって嬉しそうだったじゃん」


「なっ……! べ、別に嬉しくなんか……!」


 エリナの頬が、ほんのり赤く染まる。


「あらあら、エリナったら、素直じゃないんだから……可愛いわね」


 ミーシャが、くすくすと笑う。


「う、うるさいわね! あんただって、さっきから金貨の袋ばっかり見てたでしょ!」


「あら、バレてた?」


「バレバレよ!」「バレてないと思ってたんだ!」「傑作だわ!」


 少女たちの笑い声が、店内に響く。


 レオンは、その賑やかな光景を眺めながら、静かに思った。


 『太陽の剣』に居た頃には見なかった伸び伸びとした関係。


 ――仲間、か。


 こういうのを、本当の仲間と呼ぶのかもしれない。


 まだ信頼関係は浅く、彼女たちのこともよく知らない。


 でも、今この瞬間、同じテーブルを囲んで、同じ料理を食べて、笑い合っている。


 それだけで、十分じゃないか。


 信頼は、これから築いていけばいい。


 今日という日が、その第一歩なのだから。


 レオンは、エールのジョッキを掲げた。


「じゃあ、改めて」


 四人が、レオンを見る。


「俺たちの出会いと、これからの冒険に」


 少女たちも、それぞれのジョッキやカップを手に取った。


「乾杯!」


「「「「乾杯!」」」」


 五つのジョッキがぶつかり合う、小気味良い音が響いた。


 それは、新しい物語の始まりを告げる鐘の音のようだった。



         ◇



 食事が佳境に入った頃、不穏な空気が漂い始めた。


「おいおい、見ろよ」


 不穏な声が、隣のテーブルから響いてきた。


 酒臭い。そして、下卑た響き。


 レオンは、反射的に声の方を振り返った。


「Fランクの雛鳥どもが、俺たちより豪勢な飯食ってやがるぜ」


 三人組の冒険者が、こちらを見てニヤニヤと笑っている。


 全員、体格がいい。鍛えられた筋肉。使い込まれた武器。そして、胸元で光るブロンズのバッジ。


 Cランク。


 Fランクの駆け出しから見れば、遥か格上の存在だ。


 リーダー格と思しき大男が、椅子から立ち上がった。


 カルロス。




 【運命鑑定】が、自動的に情報を表示する。


【カルロス・ヴァルガス】

年齢:二十八歳

ランク:C

 

性格:粗暴、好色、小心者

現在状態:泥酔(判断力・運動能力大幅低下)

 

注意:女性に対するセクハラ常習犯。過去に複数の苦情あり。




 レオンの背筋を、冷たいものが走った。


 重い足音が、こちらに近づいてくる。


 一歩。また一歩。


 酒の匂いが、鼻をついた。安酒のすえた匂い。それに混じって、男の体臭。不快な臭いが、せっかくの料理の香りを台無しにする。


「なあ、お嬢ちゃんたち」


 カルロスが下卑た目で、少女たちの体を舐めるように見回す。


 エリナの胸元。ミーシャの白い首筋。ルナの細い腰。シエルの長い脚。


 まるで、商品を品定めするかのような視線だった。


「どうせ体売って稼いだ金だろ?」


 その言葉が発せられた瞬間。


 テーブルの空気が、凍りついた。


「俺にも一晩くらい、いいだろ? なあ? げっへっへ……」


 カルロスが、ゲラゲラと笑う。


 黄ばんだ歯を剥き出しにして、下品な笑い声を上げる。


「いくらだ? 金ならあるぜ? Cランクの稼ぎ、舐めんなよ?」


 仲間たちも、同調するように笑い声を上げた。


 弱者を踏みにじり、その反応を見て楽しんでいるのだ。


 そういう種類の人間がいることを、レオンは知っていた。


 カインも、そうだった。


 瞬間。


 エリナの手が素早く剣の柄を掴む。


「売りもんじゃないわ」


 低い声だった。


 地の底から響いてくるような、凍てつく声。


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