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見習い聖女の鉄拳信仰 ~癒やしの奇蹟は使えないけど、死神くらいは殴れます~  作者: 日之浦 拓
第七章 虹を望む聖女

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「一生懸命お祈りしましたわ!」

 その日の夜。最高に美味しい夕食をみんなで食べて十分に英気を養った三人は、寝る前の寝室で作戦会議を始めた。


「それでは、明日からやることを説明します。が、その前に……今回の作戦の要は、ずばりレーナちゃんです!」


「ええっ!? わ、私ですか!?」


 ビシッとアプリコットに指名され、レーナが驚きの声をあげる。こういう場合大抵はアプリコットが中心で、自分はいつもサポートに回ってばかりだったために驚きを隠せないレーナに、アプリコットは力強く頷いてレーナの手をそっと握った。


「そうです。なので私とシフは少しでもレーナちゃんが集中できるようにサポートに回ります。と言ってもレーナちゃんに頼むことの具体的な手助けは無理なので、私とシフがすることは、今まで通り奉仕活動ですけどね」


「ふむ? つまり我は、今日までと同じように狩りとかをすればいいということか?」


 問うてくるシフに、アプリコットは小さく頷いて答える。


「そうですね。ネムさんの夢を叶えることはとても大事ですけれど、だからといっていつものお手伝いを疎かにしてもいいということにはなりません。大望のためなら日常の些事など放っておいても構わない……なんて言う人もいますけど、未来はいつだって日常の先にしかありませんからね」


「む、むぅ? 何で急にそんな難しいことを言うのだ!?」


「あー……ほら、あれです。将来ご馳走を食べるために毎日豆と水だけで暮らすより、多少手間が増えるとしても、毎日ちゃんと美味しいものを食べつつご馳走も用意した方がいいですよねって話です」


「おお、それならわかるのだ! 我慢しすぎると元気がなくなって、楽しいことも楽しくなくなってしまうからな!


 わかったのだ! なら我は明日からも最強に頑張るのだ!」


「ありがとうございます、シフ」


「ありがとうですわ、シフさん」


 やる気を見せて尻尾をブンブン振るシフに、アプリコットとレーナは揃って笑顔でお礼を言う。大事な……だが雑用と言われてしまうようなことをいつも頑張ってくれるシフに、二人は心から感謝をしていた。


「それで、私は何をすればいいんですの? アプリコットさんではなく私がやるということは、神様のお力をお借りするようなことでしょうか?」


 アプリコットにできなくて自分にならできることなど、レーナにはそのくらいしか思いつかない。ならばこそ問うレーナに、アプリコットが軽く苦笑しながら答える。


「はい、そうです。本当は私がやれれば一番いいんですけれど、私には<筋肉の奇蹟>しか使えないので……」


「まあ、筋肉で解決しないことも世の中にはありますわよね。それで、私は何をすればいいのでしょうか?」


「それは――――」





「ふぅー……さあ、頑張りますわよ!」


 明けて翌日。昨日まではアプリコットが訓練していた寝室に、今日はレーナが一人だけいた。ギュッと拳を握って気合いを入れると、心を静めて聖句を唱える。


「天にまします偉大なる神に、信徒たる我が希う。その信仰をお認めくださるならば、神の奇跡の一欠片を、今ここにお示しください……家内安全、火無万全! <光を灯す右の指先トーチ・ライト・フィンガー>!」


 そうして祈りを捧げると、レーナの右手の指先にポワッと光の球が宿る。数え切れない程使ってきた奇蹟なので、今更失敗したりはしない。だが問題はここから先だ。


「この光に、色をつける……どうすればいいのでしょうか?」


 アプリコットの作戦……それはこの<灯火の奇蹟>で、色つきの光を宿すことができないか、というものだった。


 確かに光は色であり、色は光だ。そして光は神の力であり、神の力であれば聖女が感じることができる。なので光に直接色を反映できれば、それを感じることのできるネムに「色」を伝えることができるのではというアプリコットの話は、レーナにしても画期的な発想だった。


 が、どうやったら色がつくのかが全く分からない。昨日ベッドに入ってからもずっと考えていたが、その答えは未だに謎のままなのだ。


「……とりあえず、お祈りしてみましょうか?」


 そう一人で呟くと、レーナはそのままアマネクテラスに「光の色を赤にしてください」と祈る。が、指先に宿る光は白いままで、赤くなることはない。


「まあ、そうですわよね。お祈りしただけで色が変わるなら、とっくに誰かが報告しているでしょうし。


 でも、じゃあどうするかと言われると、他の方法が思いつきませんわ。魔法なら応用も利くのでしょうけれど……」


 男性の使う魔法は、自分の内にある魔力を力の源としているだけに、知識と技術があればある程度思い通りの結果を生み出すことができる。が、聖女の使う神の奇蹟は、あくまでも借りた神の力を地上に顕現させているだけだ。つまり自分の力ではないので、最初から決まっている結果以外は引き出せない。


「……それでも、お祈りするしかありませんわ」


 だからこそ、レーナは祈る。ただ祈るだけでは駄目なら、神様に声が届くまでもっともっと祈ればいい。ただ愚直にレーナは祈りの心を積み重ねていく。


(幸いにしてここには光神アマネクテラス様がご降臨された場所。なら他の場所よりもアマネクテラス様にお声が届きやすいはずですわ)


 根拠と呼ぶにはやや弱い。だが疑うことに意味などない。神はいつでも自分達のことを見守ってくれているからこそ、ただの人間でしか無い聖女が<神の奇蹟>を使えるのだから。


(私の祈りに癒神スグナオル様が応えてくださったから、私は見習い聖女になれました。私の祈りが届いているからこそ、私は神様のお力を借りて奇蹟を使うことができるのですわ。


 なら、私は祈りますわ。私ならできると信じてくださったアプリコットさんやシフさんのために。お世話になったネムさんの夢を叶えるために。この世界にいる目の見えない人達に、『色』をお見せするために……)


 レーナはその場で跪き、光る玉を頭上少し前に移動させると、目を閉じ胸の前で両手を組んで一心に祈った。固く冷たい石の床から伝わる寒さが身を震わせ、膝がジンワリと痛みを訴えてきても、その姿勢を崩さない。


 何度も何度も時を告げる鐘が鳴り、昼食の時間にアプリコットが呼びに来ても、レーナはまだ祈り続ける。何も手伝えない自分にアプリコットが歯噛みをしてからそっと立ち去った時も、その後更に鐘の音が鳴っても、レーナは祈る。祈り続ける。


 その祈りは、夕食の直前まで続いた。疲労困憊となったレーナはアプリコットに支えられながら席に着き、心配して声をかけてくれるネムにやせ我慢した笑顔で応えて食事を終えると、すぐに泥のように眠りについた。


 そして翌日……滞在予定最後の日も、レーナは朝から寝室で祈り始めた。


 成果はまだ、何もない。頭の少し上に浮かぶ光は、未だに白いままだ。しかしレーナは最早それを確認すらしていない。無心の祈りはレーナの心を、魂を研ぎ澄ませていく。


「……………………あ」


 そんな時、レーナはふと何かを感じた。凍えそうなほど冷たく孤独な世界に、自分以外の何かがある。


「アプリコット、さん……? それに、こっちはシフさん……?」


 光を、感じる。太陽のように眩しく赤い光は、きっとアプリコットだろう。眩しすぎて少し怖いようにすら感じたが、だからこそとても温かい。


 遠くに感じるのは、青白く揺らめく光。何処か寂しそうなその光は動く度に尾をたなびかせ、まるで誰かに掴んで欲しそうに見える。近くに寄ったなら、長い尾を嬉しそうに巻き付かせてくる気がする。


 そして己の中に、緑の光を見た。萌える若草のように瑞々しく、未来へとまっすぐに伸びていく光。赤ほど苛烈ではなく、青ほど孤独ではなく、だからこそ何とでも寄り添って、一緒に成長していける存在。


「光、光……これが光…………あっちはネムさんでしょうか? ということは、この神殿に満ちているのは…………」


『漸く辿り着きましたね。なら貴方の祈りに、少しだけ応えましょう』


「えっ!?」


 不意に頭に響いた声に、レーナは目を開けて辺りをキョロキョロと見回す。だが当然そこに人影などなく……しかし変化は一目で分かる。


「わぁ……」


 頭の上少し前に浮かんだ光の球。白かったそれが、今は虹色に輝いていた。

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