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見習い聖女の鉄拳信仰 ~癒やしの奇蹟は使えないけど、死神くらいは殴れます~  作者: 日之浦 拓
第六章 お祭りと意外な出会い

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「可能性を考えてみました!」

 その後しばらく、シフとドルフは他愛のない雑談を楽しんだ。ドルフの方はオイモに仕えてからの苦労話や失敗談などを面白おかしく語り、シフの方は森での生活やアプリコット達との旅の思い出を語る。


 その姿はまるで仲良しの兄妹のようで、明るく楽しげな笑い声が祭りの喧噪に溶け込みながら、優しい時間はあっという間に過ぎていき……


カーンカーンカーン……


「おっと、もうこんな時間か。そろそろ仕事に戻らねーとな」


「ぬがっ!? 我もアプリコット達との待ち合わせがあるのだ! 何か美味しいものを買ってもっていかねばならないのに……」


「美味いもん、か。ならここをまっすぐ行って、黄色い屋根にぶっといソーセージの絵が描いてある屋台で買うといい。ありゃあ美味いぞ」


「おお、それはいいことを聞いたのだ!」


 勢いよく立ち上がるシフに合わせて、ドルフもゆっくりと腰を上げる。まだまだ話したいことはあるが、限りない想いには己の意思で見切りをつけなければならない。


「んじゃ、俺は行くぜ。お前と話せて良かった」


「我も楽しかったのだ! ……なあ、ドルフ。ドルフの事を、アプリコット達に話してもいいか?」


「あん? そいつは…………」


 シフの問いに、ドルフはしばし考え込む。シフの様子やその話を聞いた限りでは、連れである二人の見習い聖女に自分の事が知られたとして、何か悪いことになるとは思えない。


 が、それはあくまでその二人だけならということだ。誰かに話せばその誰かがまた誰かに話し、ドルフの正体はあっという間に知れ渡ってしまう……かも知れない。


 そうなれば、昔のことをほじくり返す奴だって出てくるだろう。自分が捕まって当時やらかしたことの罰を受けるのは仕方が無いと受け入れられるが、そのせいで大恩あるオイモ男爵に迷惑がかかるのはいただけない。


「…………同胞に会って話をしたってことは、伝えてもいい。でもそれが俺だってことは秘密にしといてくれねーか?」


「むぅ。だがアプリコット達は……」


「わかってるって。でも俺とお前じゃ、立ってる場所が違うんだ。お前達は祭りが終わればここを旅立っちまうんだろ? でも俺は、多分一生ここで暮らすんだぜ?」


「そう、か……わかったのだ」


 戯けた口調で言うドルフに、シフは口を尖らせながらも頷いた。それから小走りに立ち去っていくシフの背中を、ドルフはジッと見つめ続ける。


 その時、ふとドルフの脳裏にあり得ざる光景が浮かんだ。イモ掘り大会の会場で見た二人の見習い聖女に左右を挟まれ、その中央でシフを肩車して歩く自分の姿だ。だがそんな「選ばなかった未来の姿」を、ドルフは苦笑して振り払った。


「ハッ。俺にそっちは眩しすぎるぜ」


 オイモ男爵は、ドルフを隠すことで守ろうとしてくれた。対してアプリコット達は、シフを世間に認めさせることで守ろうとしているらしい。正反対の対応のどちらが正しいかはわからないが……少なからず後ろ暗いこともあるドルフには、逆側は歩けない。


 恩はある。愛着もある。だが鎧に包まれた体は少しだけ冷たくて……眩しそうに目を細めたドルフは、そのまま己が居るべき場所へと戻っていくのだった。





「お、やっと来ましたね!」


 四の半鐘(午後一時)を少し過ぎた頃。走って近づいてきたシフを見て、アプリコットが手を振りながら声をかける。するとシフもすぐにそれに気づき、既に来ていたレーナと共に漸く三人が合流を果たした。


「すまないのだ。ちょっと知り合いと話していたから、遅れてしまったのだ」


「知り合いですか?」


「うむ! 実は……我と同じ耳と尻尾の生えている奴に会ったのだ!」


「「えっ!?」」


 シフの発言に、アプリコットとレーナが揃って驚きの声をあげる。アーサーやシモーヌなど、イモ掘り大会で知り合った相手ならばともかく、その言葉はあまりにも予想外過ぎた。


「えっ、えっ!? シフさんと同じ方がいらっしゃったんですか!?」


「ひょっとして、シフの村の人ですか?」


「いや、違うのだ。そいつは……名前は言えないが、どうも我とは違う村に住んでいて……」


 問うてくる二人に、シフはドルフのことを話していく。約束通りその名前や領主のところで働いていることなどは秘密にしたが、自分とは違う場所に住んでいた同胞が、自分よりもずっと昔に、だが自分と同じようにたった一人で草原に放り出されていたことなどを伝えると、アプリコット達もそれぞれの反応を示した。


「なるほど、そんなことがあったんですのね……」


「ふーむ。シフだけならともかく、二人も同じ状況で放り出されたとなると、ひょっとして他にもそういう人がいるんでしょうか?」


 シフを労るような目を向けるレーナとは別に、アプリコットが誰に言うでもなく小声で呟く。一人なら偶然でも、二人なら必然。常識ではあり得ないような事柄であればあるほど、その可能性は高まっていく。


「村のなかで一人だけ選ばれる? それとも村人全員が世界中にバラバラに跳ばされたとかでしょうか? どちらにせよ、早めに王都まで行って情報を集めた方が良さそうですね」


 他にも似たような人がいるなら、地方の教会に助けを求めた人がいるかも知れない。そして王都の教会であれば、少なくともこの国の中での情報は集約されているはずだ。


「ということは、とーちゃんやかーちゃんも世界の何処かに跳ばされたかも知れないということか!?」


「そうですね。まあその場合は村には帰れなくなりそうですけど」


「そんなの別に……よくはないけど、とーちゃんとかーちゃんに会えることの方が重要なのだ!」


 村から外に跳ばされると、村の位置がわからなくなる。であれば村人全員が外に跳ばされてしまったら、もう誰も村の位置がわからない……村に帰れないということだ。


 だがそんなことより、シフは身内に再会できる可能性の方が嬉しかった。勿論自分の生まれた村には思い出もあるだろうが、そもそも両親と再会できるなら新たな思い出を幾らでも作れるのだから、当然と言えば当然だろう。


「しかし、そうなるとその『誰か』のことが更に重要になりますね。もしまた他に耳と尻尾の生えた人に出会ったとき、シフからすれば見知らぬ他人でも、その誰かにとっては同じ村の人とか、場合によっては家族だったりするかも知れないわけですし」


「そうですわね。ねえシフさん。私達に伝えることはできないにしても、もし同じ見た目の方に出会ったら、その人にはそのどなたかの名前とか特徴とか、そういうのをお伝えする許可はいただけないんですの?」


「…………そんなの考えてもみなかったのだ。わかったのだ、後でド……そいつに聞いてくるのだ!」


「ええ、お願いしますね。じゃあそろそろ、みんなで持ち寄ったお料理を食べましょうか」


「そうでしたわ! こういうのはできたて熱々の方が美味しいですものね」


「うむ! ホカホカは匂いも味も最高なのだ!」


 話に一区切りついたということで、アプリコット達はずっと抱えっぱなしだった紙袋から料理を取り出していく。ちなみにだが、錬金術師が居る都市部であれば、粗雑な紙ならかなり安価で……それこそ使い捨てても問題無いような金額で手に入る。地方の村だと輸送費がかかるため一気に値が上がるが、ホッタルテの町には錬金術師がいるので供給は十分だった……閑話休題。


「おお、このフカフカしたやつは美味いのだ!」


「赤イモと小麦粉を混ぜて作ったものを、湯気の立つお湯の上に置いて温める料理らしいですわ」


「ほほー、凄い調理法を考えつく人がいるんですね。あ、シフが買ってきたこれ、ソーセージのなかに赤イモの角切りが入ってます! パリッとした食感と肉のしょっぱさに赤イモの甘さがいい具合に混じり合って、これも美味しいです!」


「ふふふ、我のオススメなのだ!」


 解決法の見えない問題は、ひとまず棚上げ。アプリコット達は空腹の腹を満たすべく、祭りの空気と一緒に美味しいものを目一杯堪能するのだった。

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