「同胞の話を聞いたのだ!」
「お前、その耳は……っ!?」
「ふふふ、耳だけじゃねーぜ? 鎧の下だが、ちゃんと尻尾もある」
驚くシフに、鎧の男がニヤリと笑いながら言う。それに合わせて金属鎧の中で男の尻尾が小さく揺れたが、流石にそれに気づくのは本人だけだ。
「ってことで、どうだ? 俺の話を聞く気になったか?」
「むぐっ……たとえ同じ耳と尻尾があったとしても、知らない奴には変わりないのだ」
男の言葉に、シフが苦しげな表情でそう告げる。かつて住んでいた村の住人以外では初めて見る同胞に強い興味を引かれるが、それでも他人は他人。アプリコット達との約束を破るのは……と迷っていると、男が一段低い声を出す。
「何故そんなに『知らない奴についていかない』ってことに拘ってるんだ? ひょっとしてお前、一緒にいたあの二人に、何かされてるのか?」
その迷いが、鎧の男にはシフが自由を縛られているように感じられた。だがその問いかけにシフは大きく目を見開き、強烈な敵意を男に向ける。
「アプリコットとレーナは、我の友達なのだ。友達を侮辱するなら、お前は我の敵だぞ?」
「おっと、そいつは悪かった! 謝るよ。でもそれなら……そうだな、ちょっとだけ待っててくれ」
そんなシフの怒りに触れ、男はあっさりと謝罪すると、再び兜を被り直してから表通りへと出てきた。それから適当な屋台で肉串を二本買うと、片方をシフに向かって差し出す。
「ん? 何だ?」
「やるよ。お詫びも兼ねてな。ちなみに、俺の名前はドルフって言うんだが、お前は?」
「我はシフなのだ」
「じゃあシフ。ほら」
名を呼び差し出した手を揺らすと、シフが微妙に警戒しながら肉串を受け取る。それを見て笑みを浮かべると、ドルフもまた兜の面当てを上げ、肉串にかぶりついてからシフに声をかけた。
「んじゃ、これで俺達は『知り合い』だな」
「んぐ!?」
「そうだろ? 誰だって最初は他人だけど、名乗り合って一緒に飯を食えば、知り合いくらいならなれるはずだ。で、これなら『知らない奴についていかない』ってことにはならねーんじゃねーか?」
「むぐむぐ……まあ、確かにそうなのだ。なら話くらいは聞いてやるのだ」
「へへへ、そうこなくっちゃな!」
シフは決して馬鹿ではない。なのでドルフが自分が約束を破らなくてすむように機転を利かせてくれたことを理解したし、シフの中にもドルフと話したいという気持ちがある。なのでちょっとばつが悪そうに顔を背けながら言うシフに、ドルフは大人の余裕を以て応えた。
その後二人は祭りということで設置されていた適当なベンチに腰掛けると、まずはドルフが改めてシフに話しかける。
「にしても、俺以外に耳と尻尾が生えてる奴なんて、初めて見たぜ……お前どっから来たんだ?」
「えーっと…………あっちなのだ」
「いや、あっちって……」
空を見上げて方角を確認してから南西指差したシフに、ドルフが呆れた声を出す。だがそれに対してシフの方もまた、呆れた声で言い返す。
「そう言われても、我が住んでいた場所に名前なんてないのだ。だからあっちの森としか言いようがないのだ! そういうドルフこそ、何処から来たのだ?」
「それは……………………あっちだな」
「……………………」
シフに問い返され、ドルフは少し考えてから東の方を指差した。そんなドルフにシフがジト目を向けると、ドルフは慌てて言葉を重ねる。
「いやいやいや、仕方ねーだろ!? 確かにお前の言う通り、名前のない場所を何処って指定するのは無理だよなぁ。それに俺の場合、気づいたら草原に放り出されてたし」
「草原? どういうことなのだ?」
問うシフに、ドルフが少し遠い目をしながら答える。
「言葉の通りさ。もう一五年くらい昔になるけど、気づいたら俺は原っぱの真ん中に寝っ転がってたんだ。それまでは確かにどっかの村で同胞と暮らしてたはずなんだが……」
「お前もそうなのか!?」
「……お前も? ってことはシフもなのか?」
驚いたシフの言葉に、ドルフもまた怪訝な顔で問い返す。それに対してシフが自分の境遇や、教会で聞いた話などをしていくと、ドルフは眉間に深く皺を寄せながら考え込み始める。
「そう、か。そんなことが……何だよ、随分気楽そうにしてたから、てっきり俺の知らない場所じゃ普通に同胞が暮らしてるのかと思ったんだが……それに呪いだと? クソッ、せっかく同胞に出会って、これで色々わかるかと思ったんだが、むしろわかんねーことが増えるのかよ」
「それは我も同じ気持ちなのだ……ところでドルフ、我も一つ聞いていいか?」
「ん? 何だよ?」
「何故ドルフは兜を脱がないのだ?」
それはシフがずっと気になっていたことだ。ドルフが兜を脱いだのは人目に付かない暗がりだけで、今もそのまま被り続けている。面当てをあげて普通に飲み食いしているのだから、鎧の中身がドルフであることを隠しているとは思えない。となればどんな理由なのか?
「……ああ、それか。まあ色々あったのさ」
その問いかけに、ドルフが困ったような辛そうな、何とも言えない表情になる。だがシフがまっすぐに自分の目を見ていることに気づくと、苦笑しながら言葉を続けた。
「人ってのは、どうしても自分と違うもんは素直に受け入れられねーのさ。獣混じりの化け物だって石を投げられたり、捕まえて見世物にしようとか、何ならお偉いさんに珍しい奴隷ってことで売りさばこうとされたり、色々とな。
今ならともかく、当時の俺は一三歳のガキだ。上手に立ち回ることなんてできなくて、結局全部力で解決して……二年経った頃に、遂に指名手配を喰らっちまったんだ。人に化けた凶暴な化け物が、この近辺を荒らしてますってな」
「それは…………」
ドルフの告白に、シフはかける言葉を失う。自分は森にいて、自分一人で生きられたから大丈夫だったが……もしもう少し人里に近づいたら、ひょっとしたら同じようになっていたかも知れないと思ったのだ。しかしそんなシフの不安を払拭するように、ドルフの表情がパッと明るくなる。
「で、そんな時に出会ったのが、この町の領主の……当時はまだ領主じゃなかったけど、オイモ男爵様だよ。男爵様は俺を拾い上げると、自分の護衛として側においてくれた。
あとは時間の問題だ。鎧を着て正体を隠し、事件を起こさず大人しくしてりゃ、元々この辺の一部でだけ騒がれてた手配なんて自然に立ち消える。ただそれでも、俺が騒がれてたのはこの耳と尻尾の特徴があったからだからな。男爵様に迷惑をかけないよう、今もこうして隠してるってわけだ」
「……それだと、なんで我は大丈夫なのだ? というか、我も隠した方がいいのか?」
ひょっとしたら、アプリコット達に迷惑をかけてしまうかも知れない。そう思って心配そうに問うシフに、ドルフはその頭をガシガシ撫でながら笑う。
「ハハハ! もう当時のことを覚えてる奴なんてほとんどいねーし、仮にいたとしても、事件が起きた時代に生まれてもいないであろう子供のお前を捕まえるなんて言い出す馬鹿はいねーよ。
俺が隠してるのは、あくまで念のためだ。男爵様の恩に応えるためなら、この窮屈さだってすっかり慣れちまったぜ」
そう言って、今度はドルフが自分の兜をポンポンと叩いてみせる。服の中に尻尾を入れることすら窮屈で嫌だったことを思い出し、シフは素直にドルフに感心した。
「ドルフ、お前割と凄いのだな。我ほどではないが、我の次くらいに最強なのだ」
「そいつはどーも。じゃあそのお礼に、年上の俺が一つアドバイスしてやるよ」
「何だ?」
「今の環境を大事にしろ」
シフの顔を見たドルフが、軽い口調で、だが真剣な表情で告げる。
「お前がそうして笑っていられるのは、お前を守ってる誰かがいるからだ。俺にとっての男爵様が、お前にとってのあの子達だっていうなら、何があっても絶対に守れ。居場所を二度も無くしたくないならな」
「フッ、言われるまでもないのだ。我はシフ、白銀のシフ! 神さえ殺す神狩りの牙なれば、神も悪魔もガブッとやって、アプリコット達には指一本触れさせないのだ!」
「……そうか」
誇らしげにそう言うシフを見て、ドルフは心から安堵の笑みを浮かべる。草原に放り出されて以降、初めて出会った同胞との会話は謎と悩みを増やしてくれたが……幼い同胞の幸せそうな姿は、そんな重さを鼻で笑って蹴っ飛ばせるほど尊かった。
完全な私事ですが、この「小説家になろう」で毎日更新を始めて、今日で2000日となりました。これからもまったり頑張っていきますので、引き続き応援宜しくお願い致します。





