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見習い聖女の鉄拳信仰 ~癒やしの奇蹟は使えないけど、死神くらいは殴れます~  作者: 日之浦 拓
第六章 お祭りと意外な出会い

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「表彰されました!」

『それでは、ただいまよりイモ掘り大会の表彰式を開始致します!』


オォォォォォォォォ!


 壇上に立つ領主オイモの横で、係の人が魔導具に向かって語りかける。その声は畑中に広がり、周囲の人達から歓声が漏れた。


「いよいよですね。一体誰が優勝するんでしょうか?」


「楽しみですわね!」


「きっと我なのだ! そうに違いないのだ!」


 ワクワクと事を見守るアプリコットとレーナの隣で、シフが自信満々に言う。実際シフの掘った量は相当なものだったので、「ひょっとしたらいけるかも?」という期待はちょっとだけあったりする。


「今年はどっちが優勝するかな? 俺は去年に続いてアーサーだと思うんだが」


「いやいや、遠くから見てたけど、シモーヌさんも凄かったぜ?」


 そんな三人とは裏腹に、地元民の間で話題に上るのは、アーサーとシモーヌのどちらが勝つかだ。類い希なるイモ掘り力を誇る二人には一般人では到底及ばず、ここ数年は「誰が」ではなく「どちらが」勝つかを予想するばかりになっている。


 故に係の人が発表した名前に、会場は一気に騒然となった。


『それでは、まず第三位から! 今年のイモ掘り大会、第三位は……シモーヌさんです! シモーヌさん、こちらへどうぞ!』


オォォォォォォォォ!


「は!? シモーヌさんが三位!?」


「嘘だろ!? アーサーが上にいるのはいいとして、じゃあシモーヌさんに勝ったのは誰なんだよ!?」


 会場中にかつて無いざわめきが広がる。三位……つまりシモーヌに勝った人物がアーサーの他にもう一人いるという事実に場が騒然とするなか、当のシモーヌは優雅な足取りで壇上に登ると、そこに待っていた領主オイモの前に跪いた。


「三位おめでとう……と言ってもいいのかな? シモーヌ」


「勿論ですわ、御領主様。私は赤イモに恥じることのない全力を出しました。それでこの結果だというのなら、それは私のイモに対する愛が足りなかったというだけのこと。


 それと私はシモーヌではなく、イモホリーヌですわ!」


「う、うむ、そうか……まあそのくらいなら構わんが。では三位のイモホリーヌ、貴殿の活躍を讃え、これを進呈しよう」


 領主オイモの手から、籠一杯の赤イモがシモーヌに手渡される。イモ掘り大会なので、当然景品は全てイモだ。それを嬉しそうに受け取ると、シモーヌは一礼してその場を去って行った。


『では、続きまして第二位の発表です。イモ掘り大会、第二位は……今回初参加の見習い聖女、シフさんです! さあシフさん、こちらへどうぞ!』


オォォォォォォォォ!


「おお、やりましたねシフ!」


「凄いですわシフさん!」


「むぅ……」


 シフの名を呼ばれたことで、アプリコットとレーナがまるで自分の事のようにはしゃぐ。だが当のシフは何処か不満げで、壇上への足取りも微妙に重い。


ガタッ


「ん?」


『シフさん? 壇上へどうぞ!』


「ああ、わかったのだ。今行くのだ!」


 途中、領主の護衛である金属鎧の兵士がシフの姿を見て一瞬体を揺らしたが、シフはそれを気にせず壇上に登ると、領主の前にまっすぐに立った。シモーヌと違って跪いたりはしなかったが、あれは単にシモーヌが「その方が絵になる」ということでやっただけなので、不敬を咎められたりすることはない。


「二位おめでとう……と言いたいのだが、何故君はそんなにふてくされた表情をしているのかね?」


「そんなの、一番になれなかったからに決まってるのだ。我は最強だから一番になりたかったのに……まあでも、一生懸命やって駄目だったから仕方ないのだ」


「ははは、そうだな。世の中にはまだまだ上がいるということだ。来年は是非とも優勝を目指して頑張ってくれたまえ」


「任せるのだ! 我は最強だからな!」


 ニカッと笑ってそう叫ぶと、シフが賞品として手渡された赤イモの籠を抱えて壇上を降りる。それを確認すると、係の人が満を持して最後の名前を発表した。


『それでは、ホッタルテイモ掘り大会、本年度の優勝者を発表致します! 優勝は……アーサーさんです!』


オォォォォォォォォ!


 番狂わせはあったものの、大番狂わせとまではいかなかった。地力のある地元民、アーサーの優勝に会場から拍手が湧き、それに応えるように大きく手を振りながらアーサーが歩いて行く。そうして堂々たる足取りで壇上に登ると、領主オイモにまっすぐに向き合った。


「優勝おめでとう、アーサー。今年も素晴らしい活躍だった」


「ありがとうございます領主様! でも俺は、アーサー・イモホルゴンです!」


「お、おぅ。そうだったな……まあ、うむ。一応黙認してはいるが、あまり大声で吹聴してはいかんぞ? 私としても善良な領民を自分の手で罰したりはしたくないのだ。慎重に控えめに、あくまで身内の間でだけ名乗るのだぞ?」


「わかってますって! ウォォ! 今年の優勝も、この俺、アーサー・イモホルゴンだぜぇ!」


「本当にわかってるか!? 頼むぞ!?」


 渡された大量のイモの入った籠を頭上に掲げ、振り返ったアーサーが会場の人々に向かって名乗りをあげる。その背後では領主オイモが猛烈に渋い顔をしているのだが、背後に埋まっているイモの位置はわかっても、背後で顔をしかめる領主の様子はアーサーにはわからなかった。





 そうして大盛況のうちにイモ掘り大会は終了したものの、祭り自体はまだまだ続く。ひとまず手に入れた大量の赤イモを持って教会に戻ると、アプリコット達はその大半を寄付すると告げてから再び町に繰り出した。


 ちなみに、赤イモの寄付は最初から相談して決めていたことである。きちんと保存すれば一年近く食べられる赤イモだが、巡礼の旅を続けるアプリコット達が持ち歩くとなればそうはいかない。


 というか、そもそもそんなに大量のイモを持ち歩くこと自体が現実的ではないし、かといってこの町に滞在している二週ほどの期間で食べきれる量でもない。となれば最初から寄付してしまうのが一番いいだろうというのが、三人で話し合った結論であった。


「うわー、お店がいっぱいありますわ!」


「凄くいい匂いがしています……」


「ママは!? ママの屋台はないのか!?」


 時刻は昼を少し過ぎたところ。育ち盛りのお腹はキュウキュウと空腹を訴えており、辺りから漂う食欲を誘う香りがアプリコット達を引きつける。


「こんなにあると迷ってしまいますわ……」


「それならみんなで同じものを食べるのではなく、それぞれが好きなものを買って、後で持ち寄ってちょっとずつ食べるというのはどうでしょう?」


「それはいい考えなのだ!」


「では、今は四の鐘がなって少し経ってますから……次の半鐘がなったら、ここに戻ってくるということでいいですか?」


「わかりましたわ!」


「我が最高に美味しいものを買ってきてやるのだ!」


「では、また後で!」


 アプリコットの提案にシフとレーナも賛同し、一行がひとまず解散する。中央広場から放射状に広がる通りを全員が別々の方向に進み……


「おい! おい!」


「むぅ?」


 一人歩いているシフに、不意に路地の奥から声がかかる。シフがそちらに視線を向けると、屋台通しの隙間から伸びている細い路地の向こうで、見覚えのある鎧姿が手招きをしているのが見えた。ほんのわずかに考えると、それが領主の側で護衛をしていた人物だろうと思い当たる。


「こっちだこっち! こっちに来い!」


「……………………」


「いやいやいやいや、何で無視するんだよ!」


「何なのだお前は? 知らない人についていっては駄目だと言われているから、我は行かないぞ?」


 が、思い当たったからといって、それが「知ってる人」になるわけではない。うざったそうに言うシフに、鎧の人物が低い声を出す。


「……なら、知ってる奴ならいいってことだよな?」


 小さな声でそう言うと、鎧の人物が数歩路地を後ずさり、その身を詰めたい暗がりに溶け込ませる。通りの賑わいが嘘のように暗く冷えたその空間で、男が自らの兜に手をかけ……


「…………どうだ?」


 その下から現れたのは、シフと同じ獣の耳を持つ男の顔だった。

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