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見習い聖女の鉄拳信仰 ~癒やしの奇蹟は使えないけど、死神くらいは殴れます~  作者: 日之浦 拓
第六章 お祭りと意外な出会い

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「みんなでおイモを掘りました!」

「よいしょ、よいしょ……」


 思わずかけ声を口ずさみつつ、レーナが一生懸命にイモを掘る。幸いにして畑の土は軟らかく、凄いパワーもなければ耳や尻尾も生えていない普通の子供であるレーナでも、掘り出すのはそう難しくない。


 というか、レーナ達以外にも普通に町や近隣の村の子供が参加しているのだから当たり前だ。特にレーナのいる近辺は子供が集まっており、あちこちから可愛らしい声が聞こえてきている。


「よいしょ、よいしょ……出ましたわー!」


 そんななか、レーナがまた新たな赤イモを掘り出すことに成功した。ぷっくり膨れた赤イモはごく普通の大きさだったが、苦労して掘り出しただけあってレーナの手にはずっしり重く感じられる。そしてそんなレーナを見て、近くの子供達もはしゃいだ声をあげる。


「うわー、お姉ちゃんすごーい!」


「よーし、俺も負けないからな!」


「フフフ、みんなで頑張りましょうね!」


 楽しげに笑う年下の子供達に、レーナも張り切って次のイモを掘りにかかる。その中でふと横に視線を向けると……そこでは別次元のイモ掘りが行われていた。


「オーッホッホッホッホ! さあ、ドンドン掘られてしまいなさい!」


 どう考えても畑仕事には向いていないであろう赤いドレスを翻し、イモホリーヌことシモーヌがクルクルと舞うように踊る。すると彼女の腕や体に蔦が巻き付き、巻き上げられ、地面からポコポコと大量の赤イモが掘り出されて(?)いく。


「……シモーヌさん、凄いですわ! 流石はこの町で一番美しくイモを掘る女性ですわね」


「すごいよねー」


「でも、凄すぎてよくわかんねーんだよな。何でアレでイモが掘れるんだ?」


「「「さぁ?」」」


 毎年この大会に参加し、もう何度もシモーヌの絶技を見ている子供達が、それでもこれっぽっちも理解が及ばず揃って首を傾げる。ちなみにレーナもちょっとだけ真似をしてみたのだが、普通に蔓が絡まるだけでイモは掘れなかった。「お姉ちゃん何やってるの?」と小さな子に言われ、顔を赤くしたのはここだけの秘密である。


「まあ、あれですわ! シモーヌさんには及ばないにしても、私達は私達で、楽しく沢山おイモを掘りましょう! あ、もし怪我をした人がいたりしたら、すぐに声をかけてくださいね? 私が治して差し上げますわ!」


「「「はーい!」」」


 気づけば引率者のようになっていたレーナの言葉に、子供達が元気に答える。その声を満面の笑みで受け取りつつ、レーナもまた楽しく一生懸命にイモを掘っていくのだった。





「ウォォォォォォォォ! イモ掘りはパワーだぜぇ!!!」


 ところ変わって、こちらはアプリコット達のすぐ側。雄叫びを上げるアーサーが、もの凄い勢いで地面に拳を突き込み、イモを掘りだしていく。ちぎれた蔓が舞い散る様は、まるで戦場のようだ。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ! 我だって負けないのだぁ!!!」


 そんなアーサーから少し離れたところでは、シフが四つん這いになって猛烈な勢いで地面を掘り、イモを取りだしている。ただアーサーと比べると動作に無駄が多く、また少なからずイモが傷ついてしまっているのがよくない。


「おい嬢ちゃん! 勢いよく掘るのはいいが、肝心のイモを傷つけたら駄目だぜ?」


「む、何故だ? ちょっとくらい欠けたりしたって、別に味は変わらないぞ?」


「確かにそうだが……ふむ」


 アーサーはシフの姿を一瞥してから、もっともらしい顔をして言葉を続ける。


「お嬢ちゃん、狩りとか得意っぽく見えるんだが……いつも獲物を傷だらけにしてんのか?」


「我を馬鹿にしているのか!? 我は最強だから、いつだって一撃必殺なのだ!」


「ならイモも同じさ。素早く美しく、綺麗に掘り出す! それが一流のイモホリストってもんだ! それに……」


「まだ何かあるのか?」


 微妙な顔で見つめてくるシフに、アーサーが傷一つ無いイモを手にしながらニヤリと笑って告げる。


「これが自分の掘り出したイモだってみんなに見せるとき、ツヤツヤピカピカの方が格好いいと思わねーか?」


「っ!? 確かに格好いいのだ!」


 ツヤピカのイモを両手で掲げる自分を夢想して、シフの尻尾がブンブンと振れる。格好いいかどうかは、シフにとって極めて重要なポイントであった。


「ならもうちょっと気をつけることだな。なに、イモは逃げない。豪快に、だが注意深く、敬意と愛情を込めて掘り出してやれば、イモはそれに応えてくれる! お嬢ちゃんならできるはずだ!」


「うぉぉ! やってやるのだ!」


 丁寧さを意識したことで、シフの掘るペースが明らかに落ちる。だがそれは一流を目指す誰もが通る道。基礎を疎かにする者が上に登れる世界などないのだ。


「フッ、頑張れよ……さあ、俺ももっともっと掘りまくるぜっ!」


 自分の助言で、未来の強力なライバルを生み出してしまったかも知れない。そんな思いすら楽しみながら、アーサーもまた更に勢いを増してイモを掘っていく。あまりに激しすぎる二人のイモ掘りに、周囲には誰も近づけない。


「おいおい、アーサーのやつ、今年はえらく気合いが入ってるな」


「こりゃ新記録いくんじゃねーか?」


「いやでも、あの耳と尻尾のお嬢ちゃんも負けてねーぞ?」


「伝説が生まれるかもな……」


 遠巻きに見つめる参加者達に注目されつつ、シフとアーサーは着実にイモを掘りだしていった。





「むぅ……」


 そして最後の一人、アプリコットはというと、何ともしょっぱい表情を浮かべながら唸り声をあげていた。


「おいおいお嬢ちゃん、どんだけ力を入れたんだよ!?」


「いや、ちゃんと加減したつもりなんですが……」


 アプリコットが引っ張ると、赤イモの蔓があっさりプチッと切れてしまった。ただそれは蔓が脆いというよりも、この辺の赤イモは大きくしっかり育っているため、土からそのまま引き抜くには抵抗が大きすぎるためだろう。


 なら普通に一つずつ掘り出せばいいのだが、それだとアーサーやシフの勢いには到底及ばない。故にアプリコットはどうすれば大量のイモを一気に掘り出せるかに頭を悩ませていた。


「思い切り地面を殴る……吹っ飛んだ勢いでイモも出てくるとは思いますけど、普通に粉々になりますよね。ならシフみたいに手を突き入れて掻き出せば……私の短い手だと対して効率が良くないですし……」


「なあお嬢ちゃん? 何を悩んでるのか知らねーけど、普通に掘りゃいいんじゃねーか? あっちの二人みたいなのは真似しようとして出来るもんじゃねーぞ?」


「まあそうなんですが……」


 悩むアプリコットに近くの参加者が気を使って声をかけてくれるが、アプリコットとしてはここで妥協はしたくない。勝ち負けがどうこうというより、自分に出来る全力で挑みたいのだ。


「赤イモだけを畑の外に出すのは無理……あ、じゃあ逆に、土だけを吹き飛ばすことができれば……?」


「うん? お嬢ちゃん、何を――」


「はあっ!」


「うひゃぁぁぁ!?!?!?」


 その場に屈んで畑に手のひらを押し当てたアプリコットが気合いを入れると、その瞬間まるで爆発したかのように大量の土が噴き上がり、イモと蔓だけを残して畑に大穴が空いた。


「やった! 大成功です! これなら――」


「うぇぇ、なんじゃこりゃ……」


「何で土が上から振ってくるんだよ!?」


「今の爆発何だ!? って、うわぁ、畑に大穴が!?」


「あっ……」


 周囲から上がる驚きの声に、アプリコットの動きが止まる。大慌てで駆けつけてきた係の人に「危険な行為はやめてください!」と至極真っ当な怒られ方をするのは、この一分後の事であった。

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