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見習い聖女の鉄拳信仰 ~癒やしの奇蹟は使えないけど、死神くらいは殴れます~  作者: 日之浦 拓
第六章 お祭りと意外な出会い

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「領主様の挨拶を聞きました!」

 イモに対する情熱故に何だかんだと言い合いを続けるシモーヌとアーサーだったが、それを止めたのもまたイモに対する熱意であった。初参加のアプリコット達がどの辺でイモを掘るべきかを相談してみたところ、二人揃って快く助言してくれたのである。


「初心者は……そうね、畑のあの辺りがオススメかしら? 蔓の感じからすると比較的小さいイモがまばらな感じで実ってると思うから、初めてでも掘りやすいと思うわよ」


「逆にパワーに自信があるなら、あっちの西側の辺りだな! ずっしり大きいイモがたっぷり埋まってるはずだから、掘り応えがあると思うぜ!」


「ありがとうございますわ! では、私はその初心者向けのところに行ってみますわ!」


「私とシフは、おっきいのを狙います!」


「うむ! 我は最強だから、でかくて甘いイモを掘りまくるのだ!」


「ハハハ、威勢がいいな! だがそれがいい! イモ掘りは元気が一番だ!」


「是非楽しい思い出を作っていってね」


「「「はい!」」」


『皆さん、お待たせしました! 開会の挨拶がありますので、こちらに注目してくださーい!』


 そうしておおよその話を聞き終えたところで、辺り一帯に大きな声が響き渡る。アプリコット達が声のした方に注目すると、広大な畑の正面中央に設置された台座に、立派な赤い服を身に纏った中年男性が立っているのが見えた。


 その側には顔を含む全身を輝く銀色の金属鎧に包んだ騎士と思われる人物が二人立っており、その警備の厳重さからも、あれが領主であることは誰の目にも明らかだ。


『では、これより御領主様による挨拶がございます! 御領主様、どうぞ』


『うむ。あー、あー……親愛なる領民達は知っていると思うが、初めてこの地を訪れた者達に向け、改めて名乗っておこう。私はこのホッタルテの領主、オイモ・ホッタルテである! ……なお、この名前はこの地に対する愛が溢れすぎた両親の若気の至りであるので、あまり突っ込まないでくれ』


「「「ハハハハハ」」」


 拡声の魔導具で響き渡る領主の挨拶に、民衆の間から笑い声が漏れる。一部にはそんな態度に戸惑ったり、あるいは顔を青くしている者もいたが、そういう人には近くの地元民が「あれは御領主様がいつもやる挨拶なんだよ」と教えている。これでひと笑いとるのが、領主オイモの鉄板ネタであった。


『さて、私がこんな名前であることからもわかる通り、この地はずっと昔から赤イモの栽培を続けてきた。その結果今年も大豊作となったようだが、勿論最初からこれほどの実りを得られたわけではない。


 長雨で腐ってしまったこともあった。夏の日差しが弱く育たなかったこともあった。時にはよかれと思って肥料を与えすぎた結果、葉や茎ばかりが伸びて肝心の赤イモが育たないということもあった。


 つまり、この実りは我らの祖先の英知の結晶だ。代々の領主と、この地に根差す皆のたゆまぬ努力があったからこそ、これほどの赤イモが採れるようになったのだ。


 故にこそ、この赤イモは我らの誇りである! この畑は、我らの宝である! 私のではない、我らのだ! 大地と共に生きる我らの在り方を、豊穣神デキテル様が祝福してくれているからこそ、この素晴らしい光景があるのだ!


 私はこの光景を絶やさぬよう、これからも善政に励むことを誓う! 故に皆も、どうか私に力を貸して欲しい! 我らの祖先がそうしてくれたように、我らの子に、孫に、この素晴らしき光景をしっかりと伝えていこうではないか!』


ワァァァァァァァァ!


 オイモの言葉に、拍手と歓声が巻き起こる。領主と町民は税を取る者、取られる者の関係であるが故に距離が離れていることも多いのだが、どうやらここは違うようだと、余所者であるアプリコット達も感心して拍手を送った。すると少ししたところでオイモが大きな身振りで手を広げ、それに合わせて歓声が静まっていく。


『……ありがとう。ではこれより、ホッタルテ領主として、赤イモ祭りの開催を宣言する! 神と祖先に感謝を捧げ、存分に楽しんでくれ!』


ワァァァァァァァァ!


『はい、御領主様の挨拶でした! ではイモ掘り大会に参加される方は、まずこちらに集まってください!』


 再び歓声に包まれる一帯に、係の人と思われる男性の声が改めて響く。それを聞いた参加者達が移動を始め、当然アプリコット達もそれに合わせて大きな黄色い天幕のところに歩いて行き、受付の列に並んだ。


「はい、次の人ー!」


「はいですわ!」


 呼ばれたレーナは、急設された受付カウンターの上にあらかじめ貰っていた木札を置く。それをチラリと確認すると、受付の人が改めてレーナの顔をみた。


「外部の人で、レーナさんですね。何処か希望の場所はありますか?」


「えっと……ここ! この三八の辺りをお願いしますわ!」


 受付の人に問われ、レーナは畑の中に振られた番号、そのなかでもシモーヌに教えられた場所の付近を指定する。基本的には何処で掘ってもいいのだが、あまり一カ所に人が集中し過ぎるのはよくないので、ある程度分散するように大まかな区分けがされているのだ。


 ちなみに、よくわからないと言った場合は、受付の人の独断と偏見で場所を割り当てられることになるのだが、彼らもこの道のプロなので、大体適切な場所に割り振ってくれる。自分の考えた位置とほぼ変わらない場所を指定したレーナに内心で感心しながら、受付の人はサッと手を動かして仕事を済ませた。


「三八ね。じゃあ……はい、いいですよ。頑張ってくださいね」


「ありがとうございますですわ!」


 掘ったイモを入れる背負い籠を渡され、下側の空白に「三八」と書き込まれた木札を返してもらうと、レーナがお礼を言って天幕を出る。続くアプリコットやシフも同じように手続きを済ませると、三人は一度天幕の外で集まった。


「自分で選んだことですけれど、私だけ離れた位置になってしまいましたわ……」


「大丈夫ですよレーナちゃん! 離れていても、私達の心は一つです!」


「そうだぞレーナ! 我がすぐに辺り一面のイモを掘り尽くして、お前の方まで行ってやるのだ!」


「フフッ、それは楽しみですわ。では行きましょうか」


「ええ!」


「うむ!」


 笑顔で頷き合ってから、アプリコットとシフは西側に、レーナは東側の方に移動していく。するとレーナの側にはシモーヌが、アプリコット達の側にはアーサーの姿があった。


「あら、貴方のお友達はこっちに来なかったのね?」


「そうですわ。アプリコットさんとシフさんは、私と違って凄く強いですから」


「そうなの……でも、力なんか無くたってイモは掘れるわ。ここで沢山掘って、お友達をビックリさせてみたらいいんじゃない?」


「っ!? それはとっても楽しそうですわ! よーし、頑張りますわ!」





「おっ、お前達はこっちに来たのか」


「はい! こう見えて鍛えてますから、筋肉には自信があるんです!」


「でかいイモは我らのものなのだ!」


「フッフッフ、そうかい。でも俺だって負けないぜ? どっちがより沢山のイモを掘れるか、勝負だ!」


「望むところです!」


「我に挑戦するとは、いい度胸なのだ!」


 シモーヌに励まされやる気を見せるレーナと、アーサーに煽られて腕まくりするアプリコットとシフ。それぞれの思いを抱え、はち切れそうなワクワクを胸いっぱいに満たすなか……遂に待ち焦がれた時が訪れる。


ゴーンゴーンゴーン……


『それでは、イモ掘り大会、開始します!』


 三の鐘が鳴り響くと同時に、司会進行の人の声が響く。年に一度のお楽しみ、ホッタルテ名物のイモ掘り大会が、今ここに幕を開けた。

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