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見習い聖女の鉄拳信仰 ~癒やしの奇蹟は使えないけど、死神くらいは殴れます~  作者: 日之浦 拓
第三章 見習い聖女になりたくて

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「説明するのは大事なのです!」

他作品となりますが、本日発売の「どこでもヤングチャンピオン 8月号」より、「追放されるたびにスキルを手に入れた俺が、100の異世界で2周目無双」のコミカライズが連載開始されました! それを記念して特設サイトにてSSを公開しておりますので、どちらも合わせて読んでいただければと思います。


https://novelup.plus/story/961103448

 そうしてフランソワの家を出たアプリコット一行は、町への到着の報告と今後の奉仕活動を行うために、予定通りまずは教会へと移動した。予想通り教会はわかりやすい場所にあったため、特に迷うことなく到着はしたのだが……


「えっと、アプリコットさんとレーナさんは問題ないのですが……そちらの耳と尻尾の生えた子は、一体?」


「ですよねー」


 こちらもある意味予想通り、シフの存在が問題となった。教会にいた神子さんも聖女さんも終導女様も、誰一人として耳と尻尾の生えた人間など見たことがなかったからである。


 とは言え、アプリコット達にできるのは、自分達の知っていることを正直に話すことだけだ。「神さえ殺す神狩りの牙」などと物騒な発言もあったのだが、変な隠し立てをしてしまえば、何か問題が起きたときに悪い方に解釈されてしまう。


 故に、アプリコット達は丁寧に丁寧に、身振り手振りも交えてシフのことを語っていく。そこには勿論シフ自身に対する問いかけも含まれ、最後はクレソンさんが一筆書いてくれた手紙が功を奏したことで、どうにか教会の人達にシフの存在を受け入れてもらうことができたわけだが……


「……ああ、疲れました」


「これをこの先訪ねる全ての町でやるのは、大変そうですわねぇ」


「むぅ。我は何も悪い事なんてしてないのに……」


「フフッ、そうですわね。ですからこれは、私達が好きでやっていることですわ」


「そうですよ。自分の大事なお友達がいい子だとわかってもらうためですから、大変ですけど頑張りますよ!」


 少しだけションボリしているシフに、アプリコットとレーナが二人で両方から笑顔で挟み込む。誰も悪くないのにシフがションボリしているのは、二人としても嫌だったのだ。


 故にこそ、グッと拳を握って気合いを入れる。何しろ訪ね先はもう一つあるのだ。


「おおー、ここが神殿ですか。初めて来ました!」


「えっ、そうなんですの!?」


 次に行ったのは、レーナの希望で癒神スグナオル様の神殿だ。教会とはまた違う、ちょっと荘厳というか、飾り気の多い建物を見上げて呟くアプリコットに、レーナが驚いてそう問い返す。


「はい、初めてです。ほら、私の場合、ムッチャマッチョス様の神殿というのは存在しないので……」


「あー、それはまあ、そうですわね……」


 別に自分に声をかけてくれた神様以外が奉られた神殿に行ってはいけないなどという決まりはない。が、教会だけで用事が事足りてしまえば、わざわざ行かないのも事実だ。


 特にアプリコットは<癒やしの奇跡>が使えないため、奉仕活動の一環として怪我人の治療をすることがない……というかできないため、普通の見習い聖女ならまず間違いなく訪れるはずの神殿に行く機会がなかったのである。


「……ここでも色々聞かれるのか?」


「多分そうなると思いますわ……それともシフさんは、外でお待ちになられますか? 教会の方に顔を出してありますので、こちらは行かなくても問題無いとは思いますけれど……」


 難しい顔をするシフに、レーナが念のためそう問う。だがシフは顔と尻尾をブンブン振って、それを否定した。


「いや、我だけ仲間はずれの方が嫌だから、我も行くのだ! その代わりさっさと終わらせるのだぞ!」


「おお、流石はシフです! 伊達に耳と尻尾がモフモフしてませんね!」


「できるだけ頑張りますわ! では行きましょう!」


 フランソワには深く追求されなかったので軽くだが、ハルハレの村とさっきとで、既に二回しっかりと説明している。なら今度はもっと上手に説明できるはずと意気込むレーナが神殿の中へと入る。そうしてその場にいた神子の人に話しかけると、今回も奥の部屋へと通された。そこでしばし待つ三人の元にやってきたのは、上品そうな老女。


「お待たせしてごめんなさいね。貴方達が町に来た見習い聖女さん達かしら?」


「はい! 私は見習い聖女のレーナですわ!」


「私はアプリコットです! そしてこっちがお友達のシフです!」


「シフなのだ! よろしく頼むのだ、ばーちゃん!」


「あ、こら! シフさん!」


「ははは、確かにお婆ちゃんだから、構いませんよ。にしてもその耳と尻尾は……」


「あ、これは――」


「ひょっとして、呪いを解きに来たのかい?」


「「呪い!?」」


 老女から出てきた言葉に、アプリコットとレーナが驚きの声を重ねる。


「呪いってどういうことですの!? というか、終導女様はシフのような方を、他にも知ってらっしゃるのですか!?」


「え、ええ。といっても、私がまだ見習い聖女だった頃だから、もう何十年も前の話だけれど……」


「それ! それ教えてください! お願いします!」


「わかったわ。わかったら、ちょっと落ち着きなさい」


 身を乗り出して問うてくるアプリコットとレーナを、終導女がまぁまぁと手で制する。そうして二人がきちんと椅子に座り直したのを見ると、終導女はゆっくりと話し始めた。


「あれは今から……そうねぇ、四〇年から五〇年くらい前だったかしら。私が巡礼の旅で立ち寄った教会に、シフさんと同じように獣の耳と尻尾を生やした、二〇代くらいの若い男性が訪ねてきたの。


 で、その人は『自分は神を害するために、悪魔によって呪われた存在だ。だが私は誰一人として傷つけたくはない。どうにかしてこの呪いを解くことはできないか』と懇願してきたの」


「「「…………」」」


 終導女の言葉を、アプリコットとレーナは勿論、シフも無言で真剣に聞き入る。そんな三人のまっすぐな視線を受け止めながら、終導女は更に話を続ける。


「その人を助けるために、話を聞いた何人もの聖女様が来てくれたわ。でも誰がどれだけ奇跡や秘跡の力を使っても、その人から獣の要素を取り除くことはできなかった。


 結局その人は一月ほど教会に滞在したのだけれど、ある日お礼の手紙を残して姿を消してしまって……その後のことは私にはわからなかったわね」


「そう、ですか……」


 力なく首を振る終導女に、レーナが気落ちしたような声で応える。そしてその隣では、シフがシュンと尻尾を垂れ下がらせている。


「我の暮らしていた村のみんなは、我と同じ姿だったのだ。とーちゃんはいつも獲物を狩ってきてくれたし、かーちゃんは優しく尻尾を梳かしてくれたのだ。アジフのおっちゃんはちょっと息が臭いけどでっかい芋を山ほどくれたし、ミルフのねーちゃんはこっそり木イチゴを採ってきて分けてくれたのだ。


 みんなみんな、いい人だったのだ。なのに我は、我らは……あまり良くないものだったのか?」


「そんなことありません!」


 シフの弱々しい呟きを、アプリコットが大声で否定する。ビックリして尻尾をブワッと膨らませるシフを、アプリコットは構うことなくギュッと抱きしめた。


「私はシフ達がどんな風に生まれたのかなんて知りません。でもシフを見ていれば、シフがとても素敵な人達に愛されて育ったことはわかります! だからシフも、シフも家族も、シフの村の人達も! 良くないものなんてことは絶対にないです!」


「そうですわね。シフさんはシフさんですもの。その『白銀』の一族とやらがどういうものなのかはわかりませんけれど、シフさんがシフさんであることは変わりませんわ」


「シフが何者でも!」


「私達は、お友達ですわ!」


「アプリコット……レーナ…………むぎゅう」


 左右から抱きしめられたシフが、グリグリと二人の胸に顔を押しつける。そしてそんなシフの頭を、アプリコット達が優しく撫でる。そんな三人の様子に、終導女は「あの日去ってしまった男性の将来が、どうかここに繋がっていますように」と心から祈るのだった。

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