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見習い聖女の鉄拳信仰 ~癒やしの奇蹟は使えないけど、死神くらいは殴れます~  作者: 日之浦 拓
第一章 とある見習い聖女の日常

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「完成を見届けました!」

「ムッチャマッチョス様、ですか……えっと、それはどのような神様なんでしょうか?」


「どうと言われると、筋肉を司っている神様ですね」


「……それはまあ、そうですわよね」


 得られる情報が何一つ増えていない。が、それ以上にどう聞けばいいのかが、レーナにはわからない。少なくともレーナが勉強した聖典や、色々なことを教えてくれた先輩聖女の話のなかには、ムッチャマッチョスなる神は出てきたことがなかったのだ。


(限られた地域や地方でだけ信仰される、土着の神様でしょうか?)


 とは言え、レーナとてこの世の全てを知っているなどと思い上がるつもりはこれっぽっちもない。すぐに気持ちを切り替えると、ムンッと気合いを入れるようなポーズを作ってアプリコットに微笑みかけた。


「わかりましたわ! そういうことでしたら、私も是非協力させてくださいませ」


「えっ、いいんですか!?」


「勿論ですわ! 自分に声をかけてくださった神様が知られていないのは、確かにちょっと寂しいですものね」


「そうなんです! なので巡礼の旅の間は、機会があったらこうして祠を作ってもらえるようにしているんです。そうすればきっと、世の中にもっと筋肉の良さが広まっていくと思うんです!」


「あー……そうですわね。広まるといいですわね。ええ、頑張りましょう、アプリコットさん」


「はい!」


 正直筋肉の良さに関しては微妙だったが、アプリコットが嬉しいとレーナも嬉しい。それに神の威光を広めることは、見習い聖女の行動としても正しい。ならば協力しない理由などなく、二人がやる気を出した姿を見て、横で聞いていたベンが声をあげる。


「なあなあ、それなら今からみんなで祠を作っちゃわねーか?」


「今から? ベン、どういうことですか?」


「どうもこうも、そのまんまだよ! 後でちゃんとした祠を作ってもらうのもいいけど、どうせなら今すぐ、俺達の手で祠を作るのはどうかなって。ほら、チビ……アプリコット達って、もうそんなに町にいないんだろ?」


 ハンナ先生の問いかけにベンが答え、その視線をアプリコットに向けてくる。


「そうですね。何事もなければ、もう何日かで町を出ようと思っていますけど」


「ならさ、その前にちゃんと形にしてーじゃん! で、そこでそのムチャムチャの神様にお祈りして、二人を送り出してやろうぜ!」


「何よベン、アンタ偶にはいいこと言うじゃない!」

「俺もいいぜ! 手伝う!」

「みゅーも! みゅーもおてつだいするー!」


「ってことだからさ。どうかな先生?」


 ベンの提案に子供達がこぞって賛成の声をあげ、問われたハンナは感慨深げな笑みを浮かべて答える。


「ベン、貴方本当に成長しましたね……勿論、先生も大賛成です! ならみんなで頑張ってみましょうか」


「「「おー!」」」


 皆の心が一つとなり、巻き起こるビッグウェーブ。かくして孤児達と先生の手作り祠大作戦が開始されようとしたのだが……


「お、ここか。おーい、ハンナさん! って、嬢ちゃん……じゃない、聖女様達もいたのか」


 大きく手を振りながらやってきたのは、狩人のアランだった。そのまま歩いて近づいてきたアランに、ハンナが改めて挨拶をする。


「アランさん! 昨日は本当にご迷惑をおかけしてしまって……」


「いえいえ、こちらこそ恐い思いをさせてしまって、申し訳ない」


「先生、この人誰?」

「まさか先生の恋人!? ひゅーひゅー!」


「こら、馬鹿なこと言わないの! こちらは将来貴方達が仕事でお世話になるかも知れない、狩人のアランさんよ」


「アランだ! よろしくな……で、これは一体何で盛り上がってるんだ?」


「あ、はい。実は……」


 アランの問いに、ハンナが経緯を説明する。するとアランはニヤリと笑みを浮かべ、自分の胸をドンと叩いた。


「なるほど、そういうことか。なら俺にも協力させてくれ」


「え、いいんですか?」


「勿論! 俺もその神様に助けられた口だしな。ただ、材料調達からってことなら流石に今日やって今日完成ってのは無理だから……そうだな。なあ聖女様、三日くらいしたらまたここに顔を出してもらうってのはどうだ?」


「三日後ですか? いいですよ。ならこの町を出る前に、ここに立ち寄ることにします」


「町を出る!? って、そうか、巡礼の旅か……わかった。ならそれまでには間に合わせてやるぜ! 毛皮の売却金もその時でいいか?」


「わかりました、楽しみにしてますね! じゃ、行きましょうレーナちゃん」


「えっ!? あ、はい。では皆さん、失礼いたしますわ」


「またねー!」

「ばいばーい!」


「よーしガキ共! じゃあこれから俺が指示を出すから、ちゃんと言うこと聞けよ? じゃねーと怪我したりしちまうからな!」


「「「はーい!」」」


 子供達の元気な声を背負い、アプリコット達はその場を後にする。本当は手伝いたい気持ちが一杯だが、「自分達の感謝を形にしたい」という孤児達の気持ちを無視することはできない。そう説明されればレーナも納得し、二人は宙ぶらりんになった休日を、久しぶりにのんびりと過ごした。


 その後二日は今まで通りに町や教会での奉仕活動に勤しみ、そして約束の日の朝。孤児院に顔を出したアプリコットとレーナが目にしたのは、やや歪ながらもしっかりと作られた木製の祠であった。


「おおー! 素晴らしい出来です!」


「へへへ、だろ? 俺達みんなで頑張ったからな!」

「まあ、難しいところは大体アランさんに頼んじゃったけどね」

「みゅーも! みゅーもやったよ! いろぬったの!」


 得意げに笑うベンと、苦笑しつつも何処か誇らしげな顔をするミーシャ。足下で飛び跳ねるミュイが指差す先には、明らかに周囲とは違う色の部分がある。それを上から塗り直したりしていないのは、ミュイの気持ちを汲んだからだろう。


「どうだ嬢ちゃん、なかなかいいもんが出来たと思うんだが」


「どうでしょう? アプリコットさんのご希望に添う感じになりましたか?」


「アランさん、ハンナ先生。勿論です! こんなに心のこもった祠を、神様が喜ばないはずがありません!」


 並んで立つ大人二人に、アプリコットは満面の笑みで返す。それから手に持っていた袋を開き、その中身を子供達の首にかけていく。


「おねーちゃ、これなにー?」


「ふふふ、以前に約束していた『素敵なお土産』です。私達とお揃いの聖印ですよ」


「私達の手作りした拙いものですが、喜んでいただけると嬉しいですわ」


「おそろい! わーい! おそろい!」

「へー。何かありがたい気がするな」

「ちょっと可愛いかも」


 配られたのは、教会や神殿などで一般の信者用に配布されているのと同じ、木を削って作られた聖印。最初に孤児院に行った日から二人でコツコツ作っていたものだ。受け取った子供達はまんざらでも無い様子で、作ったアプリコット達も思わずニコニコ顔になる。


 それからみんなで祠の前に集まると、胸の前で手を合わせた皆が声を揃えて感謝の祈りを捧げた。


「「「神様、ありがとうございます!」」」


 ハンナ先生を助けてくれたこと、アプリコット達と引き合わせてくれたこと、毎日美味しいご飯を食べられること、明日が楽しみだと思える日々を過ごせていること……色々な感謝が集約されたその言葉が、単純だが純粋な祈りとして祠に捧げられる。


 するとそれは、間違いなく神の御許へと届いた。胸に満ちた温かく優しいものをギュッとその手で抱きしめると、アプリコットは改めてその場の皆に話しかける。


「みんなの祈りは、しっかり神様に届きました! なのでこれからも気軽にお祈りしてくれると嬉しいです……っと、それじゃ、私はこれで行きます。みんな、色々良くしてくれてありがとうございました!」


「こちらこそ、助けていただきありがとうございました」

「じゃーな! 次会うときはもうちょっとでかくなっとけよ!」

「ねーちゃ、またねー!」

「元気でね、アプリコットちゃん!」

「おっと、忘れたら大変だ。ほれ!」


 ペコリと頭を下げるアプリコットにハンナや子供達が別れの挨拶……一部微妙なものも含まれていたが……をしてくれ、最後にアランが小さな革袋を渡してくる。ずっしりした手応えと中に詰まる銀貨にアプリコットが驚いて顔を上げたが、アランはパチリとウィンクをしてから笑った。


「聖女様の御利益があるって言ったら、いい値がついたんだよ。受け取ってくれ」


「ほほぅ、やり手ですね。そういことなら、遠慮無く。それじゃレーナちゃん。私は行きますけど、レーナちゃんは……」


「勿論ご一緒致しますわ」


 歩き出そうとするアプリコットの隣に、ぴょんとレーナがジャンプしてやってくる。それはここにやってくるまでに話し合ったことで、レーナの意思は変わらない。既に教会での挨拶は済ませてあるし、旅装の詰まったリュックを背負うレーナの準備は、アプリコットと同じく万端だ。


「アプリコットさんと一緒に旅をするのは、何だかとっても楽しそうですもの! 終導女様も一人旅に拘る必要はないと仰っておりましたし、是非ご一緒させてくださいな」


「わかりました。それじゃ一緒に行きましょうか!」


「はいですわ!」


 差し出された小さな手をギュッと握って、レーナが太陽のような笑みを浮かべる。それに照らされたアプリコットの笑顔もペカッと光り……こうして二人は、新たな一歩を一緒に歩み始めるのだった。

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