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見習い聖女の鉄拳信仰 ~癒やしの奇蹟は使えないけど、死神くらいは殴れます~  作者: 日之浦 拓
最終章 その毎日にキラキラを

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「計画実行です!」

「……いよいよ明日です」


 王都脱出大作戦開始から、一〇日目の夜。頭からスッポリと布団を被ったアプリコットの言葉に、同じ格好をしたレーナとシフの視線が集まる。


 ちなみにこんな格好をしているのは、横になって布団にくるまりながら話をすると、ホカホカぬくぬくで眠くなってしまうからだ。冬の布団の誘惑はアプリコットの筋肉を以てしても抗いづらい強敵なのである。


「明日ですか……やはり冬明けまでは待てないのですわね」


「はい。これ以上長居すると、アンちゃんから正式にお誘いの声がかかってしまうかも知れませんからね。そうなるとこちらの負けです」


 今のところは「そのうち王様から声がかかる」と言われているだけだが、これが正式な日時を指定した呼び出しになってしまうと、流石に「行きたくないのでご遠慮します」とは言えなくなる。表向き聖女は王様と対等ではあるが、それを真に受けて「へいへーい、王様元気ー?」などと頭をペチペチやったら、普通にこっぴどく怒られるのだ。


「それで、進捗はどうですか?」


「怪我の治療をしながら、色んな人からお話を聞けましたわ!」


「我の方もバッチリなのだ!」


「おおー、流石ですね。私の方も準備万端です!」


「では……?」


 問うてくるレーナに、アプリコットはニヤリと笑って頷く。


「はい。明日の朝から作戦開始です!」





「それじゃあ師匠、私達は奉仕活動に行ってきますね」


「あいよ」


 翌日の朝。いつも通りに食事を済ませたアプリコット達は、シェリーに言付けて教会を後にした。三人それぞれが別々の方向に歩き出し……しかし一〇分後、三人は路地裏のちょっとした空きスペースに集合していた。


「まずは無事に集まれましたね。なら次は……」


「お、来たみたいだぞ?」


 耳をピクリと反応させたシフがそう言うと、暗がりに身を潜めるアプリコット達に小さな人影が近づいてくる。


「確かこの辺……って、いた! アプリコットちゃん!」


「ヘレンちゃん! ノーマちゃんにエリスちゃんも、来てくれてありがとうございます!」


 やってきたのは、雪遊びの時に知り合った女の子三人組であった。キャイキャイと挨拶を交わし合うも、すぐにアプリコットは表情を引き締めて本題に移る。


「では、服の交換をお願いします」


「いいわよ……って、寒っ!? 早く着替えちゃいましょ!」


 六人の少女が徐に服を脱ぎ始め、アプリコット達は一般的な女性服を、三人の少女達は見習い聖女の証である白いローブを身に纏う。


「じゃ、あとはこれを来て南門の方を歩いてればいいのね?」


「そうです。で、私達がお借りした服は例の場所に返しておきますので、ローブの方は三日くらいしたら教会に持っていってください。ああ、勿論何か問題がありそうだったら、全部話してすぐに返しちゃっても大丈夫ですので」


 ちょっと手伝いをお願いしたいだけで本気で迷惑をかけたいわけではないアプリコットが、そう子供達に念を押す。そしてその隣では、シフが自分の貸したローブを着ている子に近づいて声をかける。


「おっと、それを忘れてはいかんのだ」


 そう言ってローブのポケットから取りだしたのは、シフの尻尾の毛をちょっとだけ切り、それを用いてレーナが作成した特製のシフ耳カチューシャだ。


「ほら、これをかぶれは我にそっくりになるのだ!」


「ありがと。ふふ、確かにお揃いだね!」


 作り物の耳を触って嬉しそうに笑う少女に、シフも満足げに頷く。なお流石に尻尾の偽物までは用意できなかったのだが、代わりにお尻の部分の内側にポケットを縫い付け、そこに布を詰めることで少しだけ膨らんでいるように見せる加工を施すことで対応している。これならじっくり見られない限り、ローブの中に尻尾があるように見えないこともない。


「じゃ、私達は行くから、アプリコットちゃん達も気をつけてね」


「はい、ありがとうございました!」


 手を振って去って行く少女達を見送ると、アプリコット達は大通りに出て堂々と歩き始める。すると隣を歩くレーナが、少しだけ心配そうにアプリコットに声をかけてきた。


「ねえ、アプリコットさん。今更ですけど、あれで誤魔化せるんでしょうか?」


「うーん、平気だと思いますよ? これだけ人がいると、ちゃんと顔を覚えてる人ってほとんどいないと思いますから」


 身代わりを頼んだ三人は、特にアプリコット達と似ているわけではない。できるだけ背丈の近い子に声をかけたが、逆に言えば顔や声は全くの別人であり、アプリコット達を知る人が見れば勘違いすることなどあり得ない。


 が、直接の知り合いではないほとんどの人にとって、「耳と尻尾のついた子を含む見習い聖女三人組」という特徴があれば、それはアプリコット達になるのだ。そうして大衆の目を欺きながら彼女たちとは反対の北門へと歩き進むと、王都の外に出る手続きのために列に並ぶ。すると程なくしてアプリコット達の順番がやってきて、門番の衛兵が先頭のアプリコットに声をかけてきた。


「はい次の人」


「私は近所の村からお使いにきた、ごく普通の女の子のアップルリリーです! 決して見習い聖女ではありません!」


「私もその、お母様のお手伝いでやってきた、レ、リ、ルーナですわ! とっても普通の女の子ですわ!」


「我の名前はジフなのだ! 祖父ちゃんの名前なのだ!」


「お、おぅ……?」


 色々と突っ込みどころの多い名乗りに、衛兵の男が引きつった笑みを浮かべる。するとアプリコットがそっと衛兵の腕を取り、その袖口に何かを入れた。


「ん? 何やってんだ嬢ちゃん?」


「ふっふっふ、黄金色の袖の下です!」


「とっても綺麗に美味しくできたのですわ!」


「うむ! ママの飴は最高に最強だぞ!」


「袖の下って……あー、そういう遊びってことか? ったく、誰に教わったんだか……まあいいや。ほら、通っていいぞ……割と美味いな」


「「「わーい!」」」


 レーナが収集した情報を見事に生かし切り、飴を舐めながら許可をくれた衛兵の男に手を振ると、アプリコット達は堂々と王都の外へと出ることに成功した。ならばと最後は外壁に沿って歩いて行き、草むらに隠されながら壁に立てかけられた木の板をコンコンと叩く。


「…………何だい?」


「籠一杯のリンゴをくださいな」


 聞こえてきた老婆の声にあらかじめ取り決めていた暗号を告げると、木の板がずらされて麻で編まれた籠が出てくる。アプリコット達が今来ている服を脱いでそこに入れると、一旦籠が引っ込み、次いでいつも自分達が来ていた白いローブが入った籠が戻ってきた。女の子達に貸したのはシフがクローゼットから借りた新品の方なので、こっちには最近めっきり使わなくなった回復薬の類いや、シフの尻尾穴などもある。


「ここは本来、貧民街の子供達が外から食料を持ち込むための場所なんだよ? あの子達に頼まれたから協力してやるけど、こういうのはこれっきりにしとくれねぇ」


「ありがとうございます。無理を言ってすみませんでした」


 暗がりの向こうから聞こえる老婆の言葉に、アプリコットは素直に頭を下げる。王都を出入りする物品にはほぼ全てに税金がかかり、そこには当然食料品も含まれる。


 が、貧民街の子供が町の外で探してきた果物や木の実などにまでいちいち税金をかけていては手間が掛かりすぎるし、却って出費の方が高く付いてしまう。とはいえ例外を作ってしまうとその穴をついた悪徳商人などが出る懸念もあり、妥協点として生まれたのがこの「お目こぼし」なわけだが、今回アプリコット達はその存在を自力で突き止め、本来の用途とは違う目的で利用したことになる。謝罪するのは当然なのだ。


「……ま、あの光の巨人のおかげでろくでなし共が随分と逃げ出したから、貧民街も少しは暮らしやすくなったけどねぇ。ヒェッヒェッヒェッ」


「え!? あの、それはどういう……あっ」


 何となく意味深な物言いをする老婆にアプリコットが問いかけたが、老婆はその質問に答えることなく空になった籠を引っ込めると、木の板を元に戻してしまった。


「むぅ、これは色々知られている気がします」


「なら早く移動した方がいいですわ?」


「そうなのだ。ちゃんと逃げ切るまでは警戒を緩めてはいいけないのだ!」


 慌てて着替えたアプリコット達は、来た道を戻って街道に出ると、それに沿って歩き始める。まずは一番近くの村まで辿り着いたら、そこで改めて保存食などを調達し、その後は本格的に遠出を……と考えていた、まさにその時。


「おいおい、何処に行くんだい?」


 三人の前に立ちはだかったのは、白いローブにムキムキの筋肉を忍ばせた、身長一八〇センチを超える老齢の聖女であった。

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[一言] 師匠をぶちのめして脱出成功させるんじゃーい むりむりむりー٦(´ε`)٢
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