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見習い聖女の鉄拳信仰 ~癒やしの奇蹟は使えないけど、死神くらいは殴れます~  作者: 日之浦 拓
第八章 王都での日々

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「勇者軍団と戦いました!」

 ゆっくりと空が赤みを増し、誰しもが一日の終わりを意識し始める頃。戦場である雪の広場には、阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡っていた。


「ワッハッハ! また捕まえたのだー!」


「きゃーっ!」


 悪の大幹部シファードの手により、雪玉の勇者の一人が捕縛される。そのまま全身をコチョコチョとくすぐられると、もはや助からぬとばかりに戦場の外へと送り出された。


「やられちゃったー!」

「ミコちゃん、こっちこっちー!」


「はーい、捕まえられちゃった子は、こっちに来て下さいですわー!」


「手が冷えてしまった子には、温かいお茶もありますよ」


「飴もある。一人一個ずつ。お嬢様のおやつだけど、今回は大放出」


 戦場の外では、女神レナレナの慈悲により戦死した魂が保護される。流石にもうココアやチョコレートはないが、女神の眷属達により差し出される温かいお茶と甘い飴を受け取って、疲れ切った魂を癒やしながら残った勇者達の戦いを応援するのだ。


「ほらほら、どうしました? 私はまだ一歩も動いていませんよ?」


「くそっ、くそっ! 何で当たんねーんだよ!」


 そんな魂が見守る中、もう一人の悪の大幹部アプリールの挑発に、ツンツンした髪型の少年がムキになって聖なる雪玉を投げつける。だがその全てはアプリールの腕により防がれてしまい、弱点である顔にはかすりもしない。


「ぬぅ、あれほどおった勇者も、残り一〇人と少し……のう女神よ、流石にそろそろ打開策がないと厳しいのではないか?」


「そうですわね……ではそちらの勇者の方々に、シファードの弱点を教えて差し上げますわ」


 大将軍アンの要望に応じた女神レナレナが、ひょいとその場を立ってシファードと戦っている勇者の側に行き、こそこそと耳打ちをする。すると勇者達がニンマリと笑い、シファードに向けて一斉に雪玉を投げた。


「何だそんなもの! いっぺんに投げたからって――」


「その雪玉の中には!」

「マーマレードジャムが!」

「はいってるかもー?」


「何だと!? ふがもがっ!」


 勇者達の言葉に、シファードは飛来する雪玉全てに食らいついた。だが中には当然ながら何も入っておらず、口の中には雪の味しかしない。


「何も入ってないのだ!?」


「でも、顔に当たったから、私達の勝ちー!」


「ぬがーっ!? 何という……この世には夢も希望もないのだ…………」


 バタリと地面に倒れ伏したシファードが、怨嗟の声を漏らして動かなくなる。それを見たアプリールはピクリと眉を動かすと、軽く空を見てから慌てた声を出し始めた。


「うわぁ、相棒であるシファードがやられてしまったー! これでは私の無敵を支えていたモフモフパワーが途切れてしまうー!」


「くらえー!」


「ぎゃふん! み、見事だ勇者よ……」


 時間的にもそろそろかなと判断され、突然油の切れた歯車のようにギクシャクとした動きになったアプリールの顔に、少年勇者の雪玉が命中する。するとアプリールもまた雪の大地に倒れ伏し、これにて悪は去ったかに見えたが……


「おうおう、情けないねぇ。まさか大魔王であるこのアタシが引きずり出されるとは……」


 ズシンという音を立てて奥から現れたのは、身長一八〇センチを超える筋肉の巨人。その全身から発する威圧感に勇者達は本能的に怯えてしまい、腰が引けてちょっとだけ涙目になる。


(師匠、師匠! もうちょっと加減しないと、子供達が怖がってますから!)


(そ、そうかい? えーっと……こんなもんか?)


 巨大な熊から大きめの犬くらいまで威圧感の減少した大魔王に対し、今度は子供達が勇気を出して雪玉を構える。するとそれを見た大魔王シェリドンは邪悪な笑みを浮かべて構えを取った。


「アタシは逃げも隠れもしない! 立ち向かう勇気があるなら、かかってきな!」


「や、やってやる! てーい!」


 少年の雪玉が、大魔王シェリドンの顔に命中する。だがシェリドンは何の痛痒も感じていないとばかりに、パッパッと顔に付いた雪をはたき落とす。


「効かないねぇ」


「な、何で!? 顔が弱点じゃねーのかよ!?」


「えーっと、大魔王は凄ーく強いので、弱点に雪玉を一〇〇〇発当てないと倒せませんわー!」


「ズリー! そんなのありかよ!?」


「ドンドン投げろ! って、うわっ、こっち来た!?」


「ハッハッハ! 逃げろ逃げろ! でも大魔王からは逃げられないよ!」


 勇者達からの雪玉を雨あられと受けながら、怯まぬ大魔王がズシズシ歩いて勇者達を捕まえていく。


「くそっ、離せよ筋肉ババア!」


「誰がババアだい! そんな悪い子は……」


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 シェリドンに脇を掴まれた少年が、頭上に抱え上げられて悲鳴をあげる。二メートルちょいの高さは、少年の目には雲の上より高く感じられたのだ。


「た、たすっ、たすけっ!?」


「ほーら、このまま放り投げて――っ!?」


「させません!」


 と、そこで突然、さっきまで倒れていたアプリールが大魔王シェリドンの体にしがみつき、その動きを止めた。更にシファードが風のように舞って、シェリドンの腕から少年を助け出す。


「大丈夫か?」


「お前達、何で……っ!?」


「私達を倒した勇者が、他の人に倒されるなんて我慢なりませんからね……さあ、今のうちに攻撃するのです!」


「ここが好機か!? 女神よ、妾は<たった一度の請求権(アンリミテッド)>の使用を宣言するぞ!」


「はーい、わかりましたわ! それじゃ皆さん、戦場に復活していいですわよ!」


「「「わーい!」」」


「さあ、総攻撃じゃ! 皆で大魔王シェリドンを討ち果たすのじゃー!」


 アンの願いが叶い、戦線離脱していた全ての勇者達が戦場へと舞い戻る。そうして集った勇者達が次々に雪を掴むと、大魔王に向かって投げつけていく。


「えーい!」

「やっつけろー!」


「わぷっ!? ちょっ、お前等!?」


「それそれー!」

「やっちまえー!」


「ナッハッハ! やはり戦は数なのじゃ! 妾も投げるぞ! ほれほれー!」


「ふがっ!? は、鼻に!? くぉぉぉぉ……」


「あの、えっと……こんなこと、本当はよくないとわかっているのですけれども……」


「ぬ? 女神も参戦するか? よいぞ、来るのじゃ! 余興なんじゃから、思いっきり楽しまねば損じゃぞ!」


「そ、そうですわよね! じゃあ……えいっ!」


「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 みんなが楽しそうに雪を投げている姿に我慢できなくなった女神レナレナが参戦し、手にした雪玉を思い切り投げる。するとそれが大魔王シェリドンの眉間命中し、蛙が潰れたような悲鳴をあげながら、シェリドンがドシーンと音を立てて仰向けに倒れ伏した。


「えっ、えっ!?」


「やったぞ! 女神の一撃がトドメとなって、遂に大魔王を倒したのじゃ!」


「やったー!」


「でも、一〇〇〇発当てないと倒せないんじゃなかったの?」


「ばっか、女神様の一発は一〇〇〇発分くらいあるんだよ!」


「おねえちゃん、すごーい!」


「よーし、女神レナレナよ。勝ち鬨をあげるのじゃ!」


「えっ、えぇぇ!? えっとえっと……か、勝ちましたわー!」


「「「わー!」」」


 右手を挙げて宣言するレナレナに、勇者達が歓声をあげる。そうして沸き立つ子供達を余所に、倒れ伏した大魔王は真っ赤に染まった空を見上げて呟く。


「ハァ、何でアタシがこんなことを……」


「いいじゃないですか。師匠だって割と楽しかったでしょ?」


 くっついたまま一緒に倒れ込んだアプリコットが、シェリーに添い寝するような形のまま顔を上げて言う。クックッとイタズラっぽく笑う様は、何とも愛らしくて憎らしい。


「馬鹿言ってんじゃないよ。こんなのはもうこりごりさ」


 なのでシェリーは、アプリコットの頭を乱暴に撫でてからそう言って苦笑した。ああ本当に、こんな温くて幸せな世界は、自分には似合わない。だが……


「それでアプリコットよ、これで約束の雪で作る美味しいママのおやつは食べさせてくれるのだな?」


「ええ、勿論。まあ雪じゃなくて、雪みたいな感じに削った氷ですけど。こう、フワフワの氷の上にマーマレードジャムを乗っけて食べるのは、多分美味しいと思うんです」


「うむ! ママはどうやって食べても美味いからな!」


(こんな世界を守れるなら、もうちょっとくらいはこの老体に鞭打ってみるのもいいのかも知れないねぇ)


 自分の体の上で楽しげに話す二人を眺めながら、シェリーは静かに、その魂に決意を漲らせるのだった。

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[一言] アンリミテッド使ってる!?
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