「雪の家を作りました!」
「もーっ! 何やってるんですか師匠!」
「なんだいアプリコット、アンタ達が見たいって言ったから頑張ってやったんだろう?」
「だからってやり過ぎです! みんな雪塗れじゃないですかー!」
笑うシェリーに、アプリコットがプンスコと怒る。局地的に巻き起こった吹雪により、シェリー以外の全員が雪塗れにされてしまっていた。
「アッハッハ! でもそんなの、さっき自分達で雪に倒れ込んでいったんだから今更だろう? 舞い上がったのは粉雪だから、ちょっと叩けばすぐ落ちて濡れやしないさ」
「まったくもー! 師匠はまったく! みんな大丈夫ですか?」
「私は……きゃっ!?」
大丈夫と言おうとしたレーナの隣で、シフがプルプルと体を揺らして体についた雪を弾き飛ばす。それをモロに被ってしまい、せっかく雪をはたき落としたレーナの体が再び雪塗れになってしまった。
「こら、シフ! 大丈夫ですかレーナちゃん?」
「ご、ごめんなのだレーナ!」
「あぅぅ、また雪だらけになってしまいましたわ……」
「ほら、これを使うのじゃ」
「ありがとうございますわ、アンさん」
アンの差し出した白いハンカチを受け取り、レーナが顔や頭の雪を拭う。そうして全員が身支度を調え終えると、アプリコットが改めて口を開いた。
「はい! それじゃお馬鹿な師匠のせいで中断してしまいましたが、雪遊びを続けます!」
「誰がお馬鹿だい!?」
「なら師匠は、一〇歳の女の子におねだりされてこんなことをやっちゃういい大人が、お馬鹿じゃないと思うんですか?」
「うぐっ!? それは……」
ジト目で問うてくるアプリコットに、シェリーは言葉を詰まらせる。自分でも大人気なかったとは思っているので尚更だ。
「では師匠はお馬鹿だったということで、次は雪でお家を作りましょう!」
「家? 雪で家なぞ作れるのか?」
「いい質問ですね、アンちゃん! 勿論普通の家みたいな形じゃありません。積み上げた雪の内側に穴を開けて、こう……お鍋をひっくり返したみたいな形の家にするんです!」
「ほほぅ、それは面白そうじゃ!」
「具体的には私達は何をすればいいんですの?」
「まずはみんなで雪を転がして、大きな雪玉を作りましょう!」
「「「おー!」」」
アプリコットの指示に従い、レーナ、シフ、そしてアンの三人が吹き飛んでいない部分で雪玉を転がし、それをドンドン大きくしていく。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「このくらい平気なのじゃ! にしても、なんじゃろう? 単に雪玉を転がしているだけだというのに、何故か心が躍るのぅ」
「シフさん、それはちょっと大きくし過ぎではありませんか!?」
「わはは、我は最強だから、まだまだでっかくするのだ!」
メアリーとミミを引き連れるアンの側では、自分の身長より大きい雪玉を転がすシフに、控えめな雪玉を転がすレーナが驚いて声をあげる。そんな三人から少し離れたところでは、アプリコットが芯となる雪玉を作成していく。
「これでいいですね。じゃあみんな、こっちに雪玉を持ってきてください!」
「「「はーい!」」」
元気な返事と共に、三つの雪玉がアプリコットの側まで転がされてくる。全員の期待に満ちた顔を一通り眺めてから、アプリコットが改めて次の指示を出した。
「それじゃ、次です。みんなの作った雪玉を、私の作った雪玉にどーんとぶつけちゃってください!」
「勝負というわけじゃな? ならば先陣は妾じゃ! メアリー! ミミ! 妾の雪玉で、アプリコットの雪玉をどーんと砕いてやるのじゃ!」
「お任せください!」
「了解」
アンの指示で、使用人の二人がアンの作った雪玉をアプリコットの雪玉に勢いよくぶつける。だがアプリコットの作った雪玉は端が欠けることすらなく、アンの雪玉は儚く崩れ落ちてしまった。
「何じゃと!? まさかここまで一方的に負けるとは……」
「も、申し訳ありませんお嬢様! この罰は如何様にも……」
「メアリー、馬鹿なこと言わない。あれはそもそも砕けない。雪の密度が段違い」
「お、よくわかりましたね。確かに私の雪玉は、芯にするために凄くすごーくギュッと固めてありますから、壊れません!」
「ぬあっ!? それは卑怯じゃ! 妾に負けるとわかって勝負を挑ませたというのか!?」
「いや、勝負じゃないですし。ただ雪を集めるだけだとつまらないと思ったので、雪玉にしてもらっただけですから……まあでも、もし万が一私の雪玉が負けたら、その雪玉が雪の家の中心になりますけどね」
「つまり最強の雪玉ということだな? ならば次は我がやってやるのだ! どーん!」
巨大な雪玉を抱え上げたシフが、それをアプリコットの雪玉目がけて放り投げる。弧を描いて飛んだ直径二メートル近い巨大な雪玉がボフンと音を立てて落下し……だがやはりアプリコットの作った雪玉には敵わず、単なる崩れた雪に成り果ててしまった。
「ぐぅぅ……負けたのだ! 悔しいのだぁ!」
「フッフッフ、甘いですねシフ……さて、最後はレーナちゃんです!」
「私は普通に添えさせていただきますわ……えいっ!」
最後のレーナは、コロコロと雪玉を転がしてアプリコットの雪玉に寄り添わせた。そのままギュッと押しつけると、レーナの雪玉はホロホロと崩れ落ちる。
「うんうん、これだけ雪が集まれば十分ですね! では私の雪玉に、周囲の雪をこれでもかとギュウギュウ押しつけて固めてください!」
「次は壁作りというわけか。なかなか手間じゃのう」
「でも、その方ができたときにありがたい気がしますわ!」
「今度は負けないぞ! 我がギュウギュウのギューにしてやるのだ!」
「私もみんなと一緒に壁作りです! ほら、師匠も!」
「は? またアタシに何かやらせるつもりかい?」
すっかり保護者モードに入っていたシェリーが、アプリコットの誘いに怪訝な声をあげる。だがアプリコットはそんなシェリーの態度にこそ、口をとがらせ言葉を投げつける。
「だって一人だけのけ者なんて、つまらないじゃないですか! あ、でも、今回はちゃんと手加減してくださいね? これを壊されたら、みんなションボリして泣いちゃいますからね?」
「わかってるよ! ったく、人を何だと思ってるんだい!」
「ちょっとお馬鹿で調子に乗りやすい師匠ですが?」
「ぐっ……アプリコット、明日の朝稽古を覚えておきなよ?」
「望むところです!」
四人娘と大人が一人、アプリコットの作った芯の雪玉に目一杯雪を押しつけ固めていく。途中メアリーが何処からともなく用意した水をかけたりしつつ作業を続けると、程なくしてこんもりと盛り上がる雪の小山が出来上がった。
「上出来ですね! なら最後に入り口のところを少し掘って、私の雪玉を引き抜けば……えいやっ!」
カチカチの雪山の正面を少し削り、中にあった鋼鉄のように固い雪玉を外に引っ張り出すと、雪山のなかにゆとりの空間が生まれる。そこに軽く頭を突っ込み、内側の壁をペチペチ叩いて強度を確認すると、外に出たアプリコットが満面の笑みを浮かべて宣言した。
「雪の家、完成です!」
「「「わー!」」」
外は寒いというのに、結構な作業量で額に汗を浮かべていた皆が、その言葉に拍手を送る。そのまま我先にと出来上がった雪の家に入っていくと、子供四人で小さな雪の家はギチギチになってしまった。
「フフッ、壁も天井も全部雪なんて、何だか素敵ですわ」
「むぅ、狭いな。もう少し広く作ればよかったのではないか?」
「即席でそこまで大きいのは無理ですよ。普通に崩れちゃいます」
「むむむっ!? 中は外よりちょっとだけ暖かい気がするぞ!?」
「暖かい!? 雪が解けてしまうのではないか?」
「それは大丈夫です。小さなものなら中で火を焚いたって平気ですからね」
「そうなのか!? 凄いもんじゃのぅ。と、そういうことなら……メアリー!」
「何のご用でしょうか?」
雪の家から顔を出したアンの呼びかけに、家の外で待機していたメアリーが即座に答える。
「せっかく苦労して家を作ったのじゃ、ならばやることは決まっておるじゃろう?」
「アンちゃん、何をするつもりなんですか?」
アンの背後からひょっこり顔を出すアプリコットに、アンが振り返ってニヤリと笑う。
「勿論、お茶会じゃ!」





