表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見習い聖女の鉄拳信仰 ~癒やしの奇蹟は使えないけど、死神くらいは殴れます~  作者: 日之浦 拓
第八章 王都での日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/142

「美味しいおやつを食べました!」

 王都到着から、五日後。普通に奉仕活動をしながら生活していたアプリコット達は、その日遂にフランソワに紹介された友人に会うため、なかなかに高級そうな宿の前にやってきていた。


「ここが待ち合わせの場所ですね」


「立派な建物ですわー!」


「そうか? フランソワとかリョーシュのおっさんの家の方が立派だったぞ?」


「シフさん、それは流石に……」


「さ、入りましょう! こんにちはー!」


 比較対象に容赦のないシフにレーナが突っ込みを入れるのを聞き流しつつ、アプリコットは宿の扉を開いて中に入る。そうして受付の人に通された部屋には……


「よく来たのじゃ!」


 派手ではないが質のいい家具に囲まれた部屋の奥。そこにある立派な椅子に、一〇歳くらいと思われる少女が座っていた。輝く金髪を後ろに撫でつけ、可愛らしいおでこがピカリと露出している。身に纏っているのはフリルのたっぷり付いた薄い青のドレスで、見るからに高貴な出で立ちだ。


「おお、何だかちっちゃい子がいます!」


「誰がちっちゃいじゃ! お主だってちっちゃいじゃろうが!」


 アプリコットの第一声に、少女が思いきり反論する。なおどちらの身長も一四〇センチほどで大差は無い。


「はうっ!? わ、私はちっちゃくないですよ!? ちっちゃいって言う方がちっちゃいんですー!」


「ならお主が先に言ったのではないか! やーいちびっ子!」


「ぐぬぬぬぬ……レーナちゃん! レーナちゃんはどう思いますか!?」


「えぇ……?」


 悔しそうに話しかけてくるアプリコットに、レーナは心の底から戸惑った声をあげる。レーナとしてはアプリコットのことを「ちっちゃくて可愛らしい」と思っているのだが、この流れでそれを告げるわけにはいかない。


 然りとて「そりゃあもう山のように巨大ですわ!」と心にもない褒め言葉を口にするのも憚られる。キュッと眉根を寄せてレーナが困り果てていると、それを見かねたのか少女の隣に控えていた女性が少女に声をかけた。


「あの、ひ……お嬢様。話が進みませんので、そのくらいで……」


「おう、そうじゃな。ではメアリー、頼んだぞ」


「畏まりました……では皆様方、こちらへお掛けください。今お茶の用意を致します」


 身長はこの場で一番高く、一六五センチほど。茶色の髪を肩の下辺りまでまっすぐに伸ばし、黒地の服に白い前掛けという使用人そのものな服を着た大人の……と言っても二〇歳と少しくらいだろうが……女性がそう口にして、近くにあったソファに腰掛けるよう手で促す。それに従ってアプリコット達がフカフカのソファに腰を下ろすと、その正面のテーブルに湯気の立つカップを三つ並べてくれた。


「何ですかこれ? 紅茶……じゃないですよね?」


「何だか甘い匂いがしますわ」


「ちょっとどろっとしてるけど、甘くて美味しいのだ!」


「南方の異国から輸入しております豆を使ったお茶で、ココアと申します。同じ豆を使ったお菓子でチョコレートというのもございまして……こちらもどうぞ」


 そう言って、メアリーが黒い板きれのようなものが乗った皿を、アプリコット達の前に追加で出してくる。それをパキッと囓ってみると、アプリコット達の口の中に豊かな香りと甘み、そして僅かな苦みが走った。


「甘い……けど苦い? あ、でも、その苦い感じがココアに合います!」


「凄いですわ! 美味しいですわ! 私こんなもの初めて食べて……シフさん? どうかなさいましたか?」


 二口三口囓ったところで無言で俯いてしまったシフに、レーナが心配そうに声をかける。するとシフは拳をワナワナ震わせながらその口を開いた。


「……我はとても恐ろしいことに気づいてしまったのだ。これにママを乗せたなら、最高に最強になるのではないか?」


「あー、確かに合いそうですね。ただその場合は、もうちょっと苦いやつの方がいいかも知れません」


「アプリコット! お前は天才なのだ! おいねーちゃん、この板きれのもうちょっと苦いやつはないのか!?」


「えっ!? あ、はい。作ることは可能ですが、今すぐにというのは……」


「くぅぅ、最強は遠いのだ……でも我は諦めないのだ! いつかきっと、これよりちょっと苦いチョコレートとやらに、ママを乗せて食べてやるのだ!」


「頑張ってくださいシフ、私も応援しますよ! そして一緒に食べます!」


「私もですわ……って、違いますわ! ご挨拶すらせずにいきなりお茶とお菓子と雑談は、流石に失礼すぎますわよ!」


 ハッと我に返ったレーナが、慌てて少女の方に顔を向ける。すると少女は微妙な苦笑いを浮かべながらアプリコット達の方を見ていた。


「何というか、お主達は本当に自由じゃなぁ。まあフランソワの奴が紹介してくるくらいじゃから、ある程度覚悟はしておったが」


「も、申し訳ありませんでしたわ! ほら、アプリコットさんもシフさんも、一緒に謝ってください!」


「あうっ、ごめんなさいです」


「むぅ? よくわからないが、すまなかったのだ」


「あー、構わんのじゃ。では、改めて自己紹介するかのぅ。妾はアン…………アンじゃ!」


 何故か自分の名前を言い淀んだ少女に、アプリコットが首を傾げて問う。


「アンアンちゃんですか?」


「アンじゃ! なんじゃその卑猥な名前は!」


「卑猥……?」


「ぬがーっ! なんじゃその反応は!? それじゃ妾だけが卑猥な感じになってしまったではないか! 違うぞ! 妾は断じて卑猥などではない! 純粋無垢で可憐な乙女なのじゃ!」


「お嬢様、そのくらいで……私はお嬢様のお世話をさせていただいております、メアリーと申します。宜しくお願い致します」


 興奮するアンを宥めつつ、メアリーが丁寧に頭を下げる。するとそれを受けて、アプリコット達もすぐに自己紹介を始めた。


「私は見習い聖女のアプリコットです! 巡礼の旅の途中でフランソワちゃんと知り合って、お友達になりました!」


「私はレーナ。アプリコットさんと同じく見習い聖女ですわ!」


「我はシフなのだ!」


「うむうむ、アプリコットにレーナにシフじゃな! ま、よろしく頼むぞ!」


「よろしくです、アンちゃん! メアリーさん!」

「宜しくお願いしますわ!」

「よろしくな!」


 そうして挨拶が終わると、三人は再びお茶……というかココアとチョコを楽しみ始めた。そこにアンも加わり、メアリーの手から湯気の立つカップが渡される。


「うーむ、やはり寒い日はココアに限るのぅ」


「でも、南の国からの輸入品ってことは、かなりの高級品なんじゃないですか?」


「なんじゃアプリコット、そんなことが気になるのか? せっかくの歓談に飲み食いするものの金銭を気にするなど、無粋じゃのう」


「はわわ、お金持ちの発言ですわ!」


「むぅ、レーナまで……そういうものなのか? なあメアリー、ちなみにこれは、一杯で幾らぐらいするのじゃ?」


「嗜好品としての少量の輸入なので、正確な金額は出ませんが……そうですね、おそらくは金貨一枚くらいかと」


「ぶほっ!?」


 メアリーの言葉に、レーナが思い切りココアを吹き出す。その飛沫がアンの顔にひっかかるのを白い前掛けで素早く防いだが、それを気にする余裕すらなく悲鳴のような声をあげる。


「き、金貨!? 私、そんな高いものを飲んでしまいましたわ!? それにココアが高いなら、同じ材料のチョコレートも……だ、駄目ですわ! アプリコットさんもシフさんも、これ以上食べては――」


「いえ、どのみちここで飲み食いしない分は処分することになりますので、遠慮せずにお召し上がりください……というか、何故お嬢様まで驚いていらっしゃるのですか?」


 アタフタするレーナにそう告げつつ、メアリーは何故かポカンと口を開けているアンに問いかける。


「いや、じゃって、向こうで飲んだ時はそんなに高くなかったじゃろう!? 言ってもただの木の実で、しかも山ほど生えておったんじゃぞ? それが何故そんなに高いのじゃ?」


「費用のほとんどは輸送費ですね。それに国を三つほど超えておりますので、その関税分も加わっております」


「ぐぬぅ、それは盲点じゃった……」


 長距離輸送にはお金と時間がかかるうえに、国を超える度に関税もかかる。なので現地では一山幾らで買えるようなものでも、遠い地では高額になるというのはありがちなことだ。


「しかし、そうか……ならば妾も、もうちょっと大事に飲むべきかのぅ。ってコラ! レーナは遠慮したのに、何故お主達は今の話を聞いて、チョコをパリパリ食べられるのじゃ!?」


 吠えるアンの前で、アプリコットとシフは特に気にすること無くココアを飲み、チョコレートをパリパリと食べ続ける。


「え? だって残ったら処分してしまうって言ってたじゃないですか。なら残さず食べた方がいいかなーと」


「美味いものが早い者勝ちなのは、常識だぞ?」


「ええいお主等! それは妾のじゃー!」


 豪華だが派手ではない落ち着いた宿の室内に、子供達の無邪気な声が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白い、続きが読みたいと思っていただけたら星をポチッと押していただけると励みになります。

小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ