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見習い聖女の鉄拳信仰 ~癒やしの奇蹟は使えないけど、死神くらいは殴れます~  作者: 日之浦 拓
第八章 王都での日々

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「再会しました!」

 秋の節も終わりを告げ、いよいよ冬になるというギリギリ一歩手前。アプリコット達は遂に王都へと辿り着くことができた。遙か向こうまで続く立派な壁に空けられた大きな門には、今も大量の人や馬車が行き交っている。


「漸く辿り着きました!」


「何とか雪が降る前には間に合いましたわね。でも……」


「うぅぅ、ちょっと寒いのだ……」


 せっかく高い山を下りても、その分北上していては寒さが和らぐことはない。曇天の空は厚い黒に覆われ、今にも雪が降りそうな気がする。


「ならさっさと町に入って、教会に向かいましょうか」


「ですわね。この人出では『最初の一歩』もできないでしょうし」


 冬が近いせいか、門を出入りする人の姿は忙しなく、門番の人も忙しそうだ。流石にこの状況で足を止めて「最初の一歩」をさせて欲しいとは言いづらい。


 なのでアプリコット達はごく普通に入町の列に並び、そのまま流れに乗って町に入っていった。そのまま大通りに出ると、アプリコットが数歩前に出て二人を先導し始める。


「さあ、こっちですよ!」


「むぐぅ、匂いが多すぎて頭がグルグルしそうなのだ……」


「ほら、シフさん! はぐれないように手を繋いで行きましょうですわ!」


「お、それはいい考えですね! なら私も手を繋いじゃいましょう!」


 人いきれに酔いそうになったシフをアプリコットとレーナが両サイドから手を繋いで引っ張り、三人は町を歩いて行く。そうして二〇分ほど歩いて立派な教会に辿り着くと、アプリコットは早速近くにいた神子さんに声をかけたのだが……


「えっ、いないんですか!?」


「はい。シェリー様は現在、外で活動しておられます。冬には戻るとのことでしたので、もうそろそろお帰りになるとは思うのですが……」


「むぅ。師匠もいい歳なんだから、そろそろ落ち着いているかと思ったのですが……」


 まさかの不在に、アプリコットが困り顔で唸る。だがその背後に大きな人影がひっそりと忍び寄ると、アプリコットの脳天に巨大な拳骨が降り注いだ。


「誰がいい歳だい!」


「ふぎゃっ!?」


「な、何ですのいきなり!?」


「ぐるるるるるるるる!!!」


 突然の理不尽な暴力にレーナが驚き、シフが唸り声をあげてその女性を睨む。だが殴られたアプリコットは涙目になりながら振り返ると、その女性に無造作に飛びついていった。


「師匠!」


「おう、アプリコット! 相変わらずちんちくりんだねぇ」


「師匠がそうやって殴るからですよ! っていうか、何でいきなり殴られたんですか!?」


「そりゃ人のことを年寄り呼ばわりしてるからだよ! なにがいい歳だい! アタシゃまだまだ現役だよ!」


 抗議するアプリコットに、シェリーはニヤリと笑って力こぶを作ってみせる。するとそんな二人に、レーナがおずおずと声をかけてきた。


「あの、アプリコットさん? そちらの方は……?」


「ああ、紹介します。この人が私がお世話になった聖女様で……」


「アタシはシェリー・ブロッサムだよ。アンタは多分、レーナだね? で、そっちの唸ってる子がシフかい?」


「えっ!? 師匠、レーナちゃん達のことを知ってるんですか?」


「ああ、知ってるよ。こんなところで立ち話ってこともないし、向こうでゆっくり話そうじゃないか。エリス、ちょっと奥の部屋を借りるよ」


「あ、はい。わかりました」


 近くで様子を見ていた神子の人にそう断りを入れると、シェリーはアプリコット達を引き連れ、教会の奥の部屋へと移動した。アプリコット達が四人掛けのテーブルに着くのを待つと、シェリーが全員の前にカップを置き、自分もまた湯の入ったポットをテーブルに置いてから席についた。


「外は寒かっただろう? ほら、飲みな。ま、教会だから白湯だけどね」


「ありがとうございますわ、シェリー様」


「おいおい、様付けなんてよしとくれよ。アタシはそんな偉かないさ。普通にシェリーでいいさね」


「そうなのですか? ではシェリーさん。いただきますわ」


「はい、どーぞ」


 砕けた笑みを浮かべるシェリーに、レーナが少しだけ緊張した様子でカップの中のお湯を飲む。その隣ではシフもお湯を飲んでいるが、その目は未だにシェリーに対する警戒が抜けていない。


「ハハハ、そんなに睨まなくてもいいだろう? 別にアンタに何かしたわけじゃないじゃないか」


「そうですよシフ。師匠はがさつで乱暴でいい加減で乱暴で、大抵のことを殴って済ませようとするような人ですが、悪い人じゃありませんよ!」


「アプリコット……アンタもう一回殴られたいのかい?」


「フフフ、次はちゃんと受け止めてから反撃します!」


 ジロリと睨むシェリーに、アプリコットが不敵な笑みを浮かべながらシュッシュッと拳を突き出して見せる。そんな二人のやりとりを見ても、しかしシフは微妙に落ち着かない様子だ。


「二人の仲がいいのはわかったし、別に我はシェリーが嫌いとか怒ってるとか、そういうわけでもないのだ。でも何かこう落ち着かないというか……」


「あー、ひょっとして獣の本能がアタシを警戒してるのかね? ならまあ、そのうち慣れるさ。焦って無理に気持ちを押し込めなくても平気だよ。今はそのままにしとけばいいさ」


「そう言えば、師匠って動物とか割と好きなのに、大体怖がられて逃げられてましたもんね」


「だねぇ。近所の子供に仲良しの猫を紹介されたのに、一度も撫でさせてくれなかったのは苦い思い出だよ……って、何言わすんだい!」


「イタッ!? もー、そんなだから師匠は怯えられるんですよ!」


「なにをー! そんなことを言う悪い子には、こうしてやる!」


「痛い! 痛いです! やめてー!」


 ペチンと引っ叩かれたアプリコットが抗議の声をあげると、今度はシェリーの拳がアプリコットのこめかみをグリグリと刺激し始める。ニヤニヤ笑う師匠の蛮行にアプリコットが悲鳴をあげるが、楽しげに笑っている顔を見れば本当に嫌がっているわけではないのは一目瞭然だ。


 そうしてじゃれ合う二人の様子を見て、レーナがそっとシフの手を握りながら声をかけた。


「ふふ、大丈夫ですわよシフさん。確かに迫力のある方ですけれど、シェリーさんは絶対いい人ですわ!」


「まあ、うむ。そうだな」


 膨らんでいたシフの尻尾が、少しだけシナッとなる。それとほぼ同時にアプリコットがシェリーの手を振り払うと、軽く口を尖らせながら改めてシェリーに話しかけた。


「まったく師匠は……それより、どうして師匠はレーナちゃん達のことを知ってたんですか?」


「ハッハッハ……それかい? 実は外回りをしている最中に、アンタ達に出会ったって聖女の子と知り合ってね。タチアナって子なんだが……」


「タチアナさん! 懐かしいですわ!」


「師匠、タチアナさんとも出会ってたんですね。お元気でしたか?」


「ああ、元気だったよ。そこでアンタ達の話をちらっと聞いたんだけど、そのなかにアンタ達がここに向かってるって話があったから、少し早めに戻ることにしたんだ。本当なら一〇日前には戻ってるはずだったんだが……」


「? どうかしたんですか?」


 首を傾げて問うアプリコットに、シェリーが苦笑しながら答える。


「いやね? この近くにアマネクテラス神殿のある山があるだろ? 少し前にそこから光の柱が立ち上ったってことで、お偉いさんから事前調査を頼まれたんだよ。それにちょいと時間がかかったってところさ」


「まあ、シェリーさんはネムさんのところにも行かれたのですか!? ということは……」


「ああ、色々と面白い話を聞けたよ。最初は警戒されてた感じだったけど、アタシがとあるちんちくりんな小娘の名前を出したら、大層協力的になってくれてねぇ……」


 シェリーの目が、ジロリとアプリコットの方に向く。するとアプリコットは俯いて無言になり……だが次の瞬間、まるで悪の親玉のような怪しい笑い声を零す。


「クックック、知られてしまったからには語らないわけにはいきませんね……さあレーナちゃん、シフ! 私達の大活躍を、師匠にお話ししてわからせてあげましょう!」


「お任せですわ! アプリコットさんの凄いところなら一晩だってお話しできますわ!」


「そうだな! アプリコットは凄く凄いのだぞ!」


「ほほぅ、そいつは楽しみだね。精々頑張ってこのアタシを驚かせてみな」


 楽しげに笑うシェリーに、アプリコット達は全力で巡礼の旅の思い出を語っていくのだった。

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