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ヴァンパイア/ジェネシス(勘違い)  作者: H&K
第三章 緑の愚者編
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第48話 「はじめてのともだち」

 黄金剣の長さはアルテの身長のおよそ七割。重さはぎりぎり片手で振るえるほど。

 切れ味は鋭く、人体くらいなら容易に両断できる。

 対して、吸血鬼の短剣は手先から肘までの長さ。

 重さは黄金剣の十分の一くらいか。

 リーチと手数。

 それぞれが違った面で長けている中、有利に立ったのは吸血鬼だった。


「どうした! 威勢の割にはこんなものか!」


 銀色の軌跡が中空に多数刻まれ、黄金剣との間に火花を散らす。

 余りにも多い剣筋がアルテを徐々に押し切っていく。ここ数日の疲労が、暗殺教団に対する気疲れが、アルテの剣を鈍らせているのか。

 否。

 それは違う、とアルテは苦戦の理由を己に求めなかった。

 以前相対したときよりも遙かに早い短剣の動き。そしてこちらの懐に隙あらば入り込もうとする俊敏さ。

 どれをとっても間違いなくこの吸血鬼は強くなっていると、アルテは結論づけた。

 そしてその理由はおよそ推測できる。


「お前、あれから何人喰った!」


 剣を振り切って、一度吸血鬼を遠ざける。黒い瞳で射殺さんばかりにアルテは吸血鬼を睨んだ。


「……五人だ。五人が我が血肉となり、貴様を殺すだけの力を与えてくれた」


 言葉を受けてアルテの顔が歪む。

 吸血鬼の吸血行為は生き物としての根源的欲求を満たす食事という意味合いがある。

 けれどもそれ以外に、一時的な能力強化として魔の力に溢れた血を取り入れることもあった。

 つまり食事でも何でもない、ドーピングとして吸血を行うこともあるのだ。

 そして目の前の吸血鬼はそれをした。


「お前……っ!」


 怒りにまかせて剣を振るう。

 だがその剣筋は鈍らない。むしろ、より俊敏さが増して吸血鬼にあっという間に肉薄した。

 驚愕したのは吸血鬼だ。知覚できないような速度で懐に入り込まれた吸血鬼は焦りも込めて短剣を繰り出した。

 アルテはそれを素手で受け止める。

 短剣を繰り出した吸血鬼の腕を止めたのではない。短剣の刃を腕に突き刺して、無理矢理止めたのだ。


「!」


 黄金剣が唸りを上げる。金の軌跡が夜の闇と共に、吸血鬼の腕を切り裂いた。

 虚空に鮮血と一本の腕が舞う。


「貴様あっ!」


 怒りを見せたのは吸血鬼だ。それに対してアルテは先ほどまでの怒りを説き伏せて、追撃に走る。

 吸血鬼ハンターとしてこれまで、何度だって戦ってきた。

 何人も殺してきた。だから思考は冷えている。あと何手振るえば、何合切り結べば詰みなのか、恐ろしく冷静に考える。


「もう、終わりだ。お前は」


 アルテが吸血鬼を蹴倒す。足裏で--吸血鬼ハンターが持つ怪力で踏みつけて地に縫い付ける。吸血鬼に殺された被害者の血だまりが波打った。

 黄金剣が吸血鬼ののど元に突きつけられる。


「……答えろ。目的は何だ。何故、殺す。何故、この街にいる」


 仮面越しの瞳が苦痛に歪む。アルテが踏みつける足裏から煙が吹き出した。彼の行使する太陽の毒が吸血鬼を焼いていく。


「生きていくだけならあれほど殺す必要はなかった筈だ。ただ力を得るだけでも、緑の愚者の街ではリスキーだ」


 アルテの疑問は、彼が常に持ち続けていたものだ。

 この街は暗殺教団が治安維持をし、緑の愚者が権勢を振りまいている。そんな街で吸血鬼が暗躍するなど、不自然極まりない。

 つまりこの吸血鬼がこの街で活動するに足る、別の要因が存在していると踏んでいるのだ。


「……そうか、お前はそうだな。狂気と激情で生きているのかと思えば、妙に頭が回ることがある。それがあの人に気に入られるゆえんか」


 アルテの問いに吸血鬼は答えない。ただ、一人で納得したかのように笑って、こう続けた。


「だから気に入らない。だからお前を殺してやりたくなる。骨の髄まで食らい尽くされろ、狂人め」



      /



 一歩目の回避は正直言って殆ど間に合わなかった。

 その証拠に、吸血鬼から飛び出してきた影に押し倒され、その顎門あぎとで喉元を食い破られそうになる。


 そう。


 吸血鬼の侮蔑に満ちた言葉と同時、こちらに襲いかかってきたのはイルミが使役するような影の魔物だった。

 イルミの狼によく似たそれの牙と牙が、俺の喉から数ミリのところでばちん、と噛み合った。

 即死を免れたのは、ひとえに吸血鬼ハンター特有の怪力で、すんでの所で踏み止まれたからである。

 だがそれ以上事態が好転することはない。

 俺を殺し損ねた、と知った影の魔物――狼のような怪物が再び大きな口を開けた。影に塗りつぶされて真っ黒なのに、何故かそこに生々しい捕食者としてのおぞましさを見てしまう。


 今度こそ、殺される――


 そう覚悟したとき、救いの手を差し伸べたのは奴隷の少女が自分につけてくれた、元祖二匹の影の魔物だった。


「がっ!」


 のし掛かられていた重みと、死に対する絶望感が狼たちの突進によって払拭される。イルミの狼たちはそれぞれ吸血鬼の魔物に食らいつき、俺の真上から吹き飛ばしたのだ。


「よくやった!」

 

 直ぐさま体勢を立て直し、隻腕になった吸血鬼に躍りかかる。

 魔物が一匹しかいないと確定していない以上、さっきまでのように常に肉薄するのは得策ではない。

 こちらがいつ斬りかかるか、パターンを読まれないように、不規則に剣を振るう。

 吸血鬼の魔物とイルミの狼が組み合う中、俺も吸血鬼と再び切り結ぶ。

 異色の乱戦だったが、決してこちらに分が悪い戦いではない。

 さらに一つ、こちらに有利に傾くようなピースがようやく到着した。


「まさか本当に吸血鬼だとは!」


 夜を穿つのは赤い神速の槍。黄金剣の一撃を回避した吸血鬼の脇腹を赤い突撃が抉り取る。

 俺と吸血鬼との殺し合いに殴り込んできたのは、遅れてきた援軍。暗殺教団の実力者、エリムだった。


「狂人、お前は奴の右から攻めろ。俺は左からいく」


 一人だけ走ってきたのだろう。他の戦士達はまだ到着していない。

 だが息も涼やかにこちらに指図してくる彼は、油断なく吸血鬼を見据えている。


「隻腕のあいつは左からの攻撃に弱い。ならばリーチに長ける俺が仕留める。お前は精々逃げられないように押さえ込め」


 こちらの返事をエリムは聞かなかった。

 直ぐさまその場から消え失せ、槍を吸血鬼に向かって振るった。こうしちゃいられないと、俺も吸血鬼の右側から退路を断つように剣を振り下ろした。

 

 いける、これはいける!


 焦りの表情をありありと瞳に刻んだ吸血鬼には、俺たちとの斬り合いで生傷が徐々に増えていく。

 いくら回復力に優れる吸血鬼であっても、エリムと俺の嵐のような猛攻では、ダメージの蓄積の方が遙かに早い。


 ここままいけば、じきに仕留められる――

 


      /



 転機が訪れたのはエリムが到着して、数十秒のことだった。

 つまりは二対一に持ち込み、アルテとエリムが猛攻を始めて僅か十数秒のことである。

 エリムは自身の指示通り、常に吸血鬼の左側――失われた腕の方から槍を繰り出していた。

 これまで彼が何十万と繰り返してきた、修練の成果である。

 ともすれば音速すら超える突きは、吸血鬼の肉体に複数の穴を穿ち、夜空に粘りけのある血糊を刻みつけた。

 彼は別に焦ったわけではない。

 堅実に手数を踏んでいけば、確実に吸血鬼を仕留められるところまできていたし、それは間違いなく事実だった。

 吸血鬼を逃がさないように牽制するアルテの動きも想像以上で、吸血鬼は完全に逃亡の機会を失っていた。

 勝てる。あと四手だ。あと四手で仕留められる。

 エリムの脳の、戦闘を司る部分はそう結論づけた。奇遇なことに、アルテもまったく同じ結論に達していた。

 その最初の一手。

 勝利を確実に手にするための、初手。

 彼は槍を吸血鬼の顔面に繰り出した。

 それまで吸血鬼の肉体の、隙のある部分を狙っていた彼からすれば、本来ならばありえない、殆ど意味のないように見える悪手。

 実際吸血鬼はそれを紙一重でかわす。

 たとえ傷つき、弱っていても、そこは夜の絶対強者。見え見えな大ぶりの一撃など、回避することに問題はない。

 だがエリムは確信していた。

 この一撃で数瞬でも吸血鬼の意識を逸らすことができれば、アルテが黄金剣で残された右腕を切り飛ばすことが出来ると。

 アルテもその意図を本能的に理解していた。エリムが繰り出した突きを回避するために吸血鬼が身を捻る。こちらに対する警戒心がゼロにはならなくとも、十が七くらいにはなった。

 

 今だ。


 エリムの視線がこちらに訴えかける。こちらも瞳の動きだけで同意を返す。


 アルテが黄金剣を凪いだ。エリムの槍が吸血鬼の顔面から数ミリ離れたところを通過する。

 事は成る。

 剣が吸血鬼の腕に食い込んだ。人間よりも遙かに強靱な組織で構成されていたが、それをバターを切り裂くように、切断していく。

 エリムの槍が生み出した衝撃波が吸血鬼の顔面を浚う。

 否。

 顔面ではなく、吸血鬼が身につけていた仮面を、エリムは槍によって吹き飛ばした。

 吸血鬼の右腕が落ちる。鮮血が吹き出し、アルテの足下を汚した。

 エリムが体勢の崩れた吸血鬼に再び突きを繰り出す。吸血鬼はそれを再びぎりぎりで回避する。

 三手目。

 そして腕を切り落としたアルテが剣を引き戻し、エリムと同じように突きの体勢を見せた。

 四手目。

 詰みだ。


 アルテとエリムはそう思った――。


「ああ、まさかこれを剥ぎ取られてしまうなんて。俺が思っていたよりも、お前達は相性が良いな。いや、良いというものじゃない。良すぎる」


 夜の通りに凜、とした声が木霊する。

 それは女の声だった。


「仮面はいいものだ。これをつけていれば内面を悟らせることなく、その正体をひた隠しにして遊びに興じることが出来る。性別だって偽れていただろう? 一時の戯れにはもってこいだ」


 腕をなくした吸血鬼は通りに立ち尽くしていた。

 剣と槍を構え、不自然な体勢で動きを止めたアルテ達も、また立ち尽くしていた。


「けれども此度は至極重要な――、戯れで済ましてはならない一夜だったのだな。俺の本体が――あの人が警告していた意味がようやくわかった。お前達は今日、そのわだかまりを捨てる切っ掛けを手にするのだったな。だとしたら私はなんたる道化か。ティンダロスの猟犬まであの人から頂いたのに、危うく殺されるところだ」


 吸血鬼の影から影が沸き上がる。質量を持った影が泉から溢れ出す水のように沸き上がる。

 やがてそれは吸血鬼の失われた二つの腕に結びつき、漆黒の腕を作り出した。


「今日はお別れだ。狂人と強人よ。お前達を侮っていたこと、見くびっていたことは謝罪する。追いたいのならば追えば良いが、仮面を壊された今、手加減することはもう出来ないと思う。もしも次があるならば、覚悟してくることだ。まあ、そこの狼を召喚した小娘辺りがいれば、何かが変わるかもな」


 吸血鬼がアルテとエリムの間を通り抜けていく。

 二人は目の動きだけでしか、吸血鬼を終えない。


「ああ、それと狂人の方。どうやら馬鹿姉がシュトラウトランドで世話になったらしいな。旨い飯を食えたと大層喜んでいたぞ。それに中々律儀な一面があるじゃないか。馬鹿姉が寄越したその指輪、ちゃんと身につけていることを馬鹿姉が知れば、もっと喜んでくれる。ああ、でもヘルドマンからの指輪の隣は頂けない。馬鹿姉は気にしないが、ヘルドマンは烈火の如く怒るだろう。あの可愛らしい小娘の機嫌を損ねたくなければ、外してネックレスにでもして隠しておくんだな。親が浮気相手との指輪をしている光景なんて、この世の不条理の最たるものだ」


 吸血鬼が夜の闇に消えていく。

 アルテとエリムはまだ動けない。イルミの狼たちも尻尾を垂れて、その場に伏せた。


「ただ――まあ、いろいろと腹立たしいことはあるが」


 吸血鬼が手を振った。

 それが最後の合図だった。

 そして別れの言葉を残す。


「――楽しかったよ。お前たちとのお遊びは」



      /



 吸血鬼が去ったのと同時、一迅の衝撃波が俺とエリムを襲った。

 その場にいた余りにも巨大な存在が消えた穴を埋めようと、世界が風を吹き込んだかのようだった。

 衝撃波に煽られて、俺は壁に叩きつけられる。エリムは丁度正反対の方向、水路の側へと吹き飛ばされていった。

 水音が静寂を支配し、やがて周囲の音は何も聞こえなくなる。

 自身の心臓が嫌に、ばくばく、と鳴っているのが聞こえて、まだ自分が生きているということを教えてくれた。

 

 見覚えのある顔だった。


 吸血鬼の仮面が引きはがされて、そこにあったのはシュトラウトランドで見た女によく似た顔。

 姉様と言っていたのだから、もしかしたらあの女と今回の吸血鬼は姉妹なのかもしれない。

 シュトラウトランドで出会ったときは、そんな感じは全くなかったから、俺が騙されていたのか。


「くそっ」


 零れたのは弱々しい悪態だった。

 どう控えめに見ても、完敗だった。

 吸血鬼から仮面を引きはがした瞬間、奴の本性を垣間見た瞬間、恐怖で身体がそこに縫い付けられた。

 どれだけ動けと身体に命令しても、指一本、言うことを聞いてくれなかった。

 こんなことは初めてではない。

 けれども、久方味わってこなかった感覚だ。


 吸血鬼を怖いと思ったのは、本当に久しぶりだった。


「くぅん」


 気が付けばイルミの狼たちが鼻先をこちらの頬に押しつけていた。もしかしたら慰められているのかもしれない。自分たちだって恐ろしかっただろうに、健気なものだと思う。


「ありがとう、助かった」


 狼達をそっと抱き寄せる。たとえそれが紛い物の生命であっても、今は何かしらの暖かみが欲しかった。

 自分がまだ生きているという実感が欲しかった。

 

 ……やはりこの世界は広いと思う。

 愚者でもないのに、可視化する魔の力でもないのに、あそこまで格の違いを見せつけられるような相手が存在するなんて、世界は広すぎだ。

 自分が掲げる「赤の愚者」の討伐が、如何に途方もなく馬鹿らしいことなのか、その身に刻まれた思いだった。


「帰ろうか」


 今から追いかけても、あの吸血鬼は見つからないだろう。

 というよりも、追いかけて勝てるほど優しい相手ではない。これから討伐するにしろ、諦めるにしろ、とにかくは一度戻って体勢を整えねば。

 と、そこまで思い巡らせて、エリムが姿を見せないことに気が付いた。

 まさかあれしきの衝撃波で死んでしまうほど柔な男ではないし、俺だけをほっぽって帰る程小さい男ではないだろう。

 なら、何処に行ったのか。


 数秒間、その行方について思案する。そして、まさに、血の気が引く音がした。


「水路か!」


 黄金剣を外套を脱ぎ捨て、ブーツすらも脱ぐ。そして重たい身体を引き摺りながらも、水路の淵に立つ。

 例え月明かりに照らされていても、静かな水を讃えたそこは深淵そのもの。


「忘れていた……」


 そう。ここ最近は水辺が少ない地域で活動していたせいか、月の民にとって水がどんな意味を持つのかすっかり失念していた。

 水は魔の力を殆ど保有しない。そしてこの世界の住人は魔の力を通して世界を知覚し、身体を維持している。それはつまり、水中で彼らは上も下もわからないまま、満足に身体機能を維持できないままおぼれてしまうのだ。

 単純な話、月の民は九十九パーセントカナヅチなのだ。


「ふっ!」


 精一杯息を吸い込んで水路に飛び込む。自分が想像していたより倍の深さがあったそこは、僅かな月明かりが水面を照らすだけだった。

 水底には何があるのか全く見えない。

 けれども幸か不幸か。

 エリムは俺が考えている以上に冷静な男だった。

 俺以上に何も見えないであろう、漆黒の闇の中、緑髪の男は静かに槍を掲げていた。赤色の槍の穂先が水面からの光を受けて輝いている。

 エリムの姿は殆ど見えないが、そこに彼がいることは明らかだった。


「がぼぼっ」


 冷静な男を見て、冷静になれなかったのはこちらだった。既にどれくらいの時間が経過したかはわからないが、悠長にしている暇がないことくらい理解できた。

 慌てて槍の元へ泳ぎ着け、その根元に手を伸ばす。

 エリムの、彼の硬い腕を掴んだと思えば、無我夢中で水面へと引っ張り上げていた。


「「ぷはっ!」」


 新鮮な酸素を吸い込む口が二つ。這々の体で水路から上がり、ずぶ濡れの身体のまま、二人して路地に倒れ込んだ。

 全身で息を繰り返すエリムが、胡乱げにこちらを見る。


「……まさか本当に助けに来るとは。お前は水が怖くないのか」


「……あの女に比べればまだマシだ」


 よくよく考えれば無茶なことをしたと思う。溺れている人間の救助経験なんてこれっぽっちもないくせに、何も考えないままに飛び込んでいた。

 エリムが大人しくしていたから良かったものの、彼が少しでも暴れていれば共に死んでいただろう。


「そうか」


 言葉数は少なく、エリムはのっそりと立ち上がった。

 未だに立ち上がれないこちらを尻目に、濡れた服を絞り、槍を振るって水滴を飛ばす。


「俺たちは十分程度ならば呼吸を止めていられるよう訓練されている。何もお前がそこまで慌てる必要などなかった。もう二分待てば俺の部下が来て、あの暗闇から引っ張り上げてくれただろう」


 確かに、言われてみればその通りなのかもしれない。

 けれども暗殺教団の訓練内容なんかこちらは知らないし、必死だったのだ。やっぱりこの男、取っつき難くて、どうも苦手だ。


「……けれども部下に助けられるより、友に助けられる方が気持ちがよいな」


 一瞬耳を疑った。

 友?

 FRIEND?

 友人? 

 ぱーどぅん?


「さあ立て、我が友アルテよ。今日は惨敗を喫したが、それで心折れるお前ではあるまい。その内面に荒れる暴風の如き闘志、十分信頼に値する」


 手が差し伸べられる。

 それはこの世界に来て初めてもらった、友人からの好意。

 取らない選択肢など、あるはずもなかった。


「戦おう、友よ。負けたままではいられない。次こそはあの女、お前の剣と俺の槍の錆にしてくれよう」 


 


 



 


人はこれを吊り橋効果という

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― 新着の感想 ―
[一言] たしかにー。吊り橋効果だね。でも、けっこうこのシーン好きです!いやー、アルテに友達ができるとは。驚きですね。美しき光景ですね!面白いです!応援しています!!
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