森を駆ける黒風
「というか、なんか凄いことになってるよね」
コメント欄を見ながらリーナが言う。
「倍速で追いかけたから何があったのかは大体分かってるけど、大丈夫だった?」
「大丈夫、ではないかな……」
一万人以上の視聴者に対して、現状は意識しないことでどうにかしてる。
実際は性格上意識しないことなんて出来ないので、戦闘とかに集中することで無理やり意識から外してる感じだけど。
つまり戦闘中でない今は嫌でも意識してしまって、すごく緊張してしまう。
とりあえず配信向けに何かしないとな……と考えて今のコメント欄を見てみると、特殊職に関する話とかボスモンスターのテイムとかそういうものがほとんどだった。
「えっと、とりあえずスキル見てみますね……?」
サクのスキルに関してのコメントも結構あるので、見てみることにする。
――――――
『クレセントスクラッチ』
爪による近接斬撃攻撃。
MP消費時、光属性魔法攻撃を伴う。
『ヴォーパルバイト』
噛みつき攻撃。若干のタメが必要かつかなり近づく必要があるが、高火力。
MP消費時、威力が上昇し稀に一撃で敵を戦闘不能状態にする。
『月狼の咆哮』
敵全体にデバフと確率で恐怖を付与する。
【魔爪】
攻撃ごとに自動でMPを消費するようになる
【群れの長】
同行しているモンスター(休眠状態も含む)の数に応じてステータスが強化される。
【騎乗適性Lv.2】
最大2人までプレイヤーを乗せて走ることが出来る。
――――――――
なるほど……パッシブスキルの【魔爪】が結構影響してくる感じなのかな。
MPがあるうちは常に強い攻撃が出せるみたいな感じで。
MPが尽きた時にどのくらいの差ができるのかはわからないけど、MP管理もしたほうが良さそう。
攻撃自体は爪と牙で、近接物理攻撃って感じでイメージ通りだった。
デバフを付与する『月狼の咆哮』も良い感じ。リーナがいるのでバフは間に合ってるけど、デバフは貴重だ。
一応アルルのパッシブスキルに敵を弱体化させるようなものがあったけど、パッシブスキルとアクティブスキルでは効果量が違うだろうし。
【群れの長】はどのくらいの数でどのくらいの効果があるのかは分からないけど、純粋にステータスが強化されるものなので嬉しい。
と、こんな感じでスキルを見てきたわけだけど……
「やっぱ一番気になるのは【騎乗適性】だよね」
狼の背に乗って移動するのってすごくかっこいいし、二人乗れるのも良い。
移動手段としての有用性は言うまでもない。
「サク、乗っても良い?」
聞いてみると、サクは「ガウッ」と返事をした。大丈夫そう。
ただ、ボスモンスターとして現れた時ならともかく今のサクは大型犬サイズになっている。
その状態で乗るのは大丈夫なのかな……と思っていると、サクの身体に黒いオーラが集まって来た。
厄災の霧……ではないみたい。禍々しい感じはしないし、むしろ黒いのにキラキラと輝いているような見た目をしている。
サクはそんなオーラを吸収して、それからボフッと音を立てて煙を放ち……巨大化した。
『えええええ』
『大きくなんの!?』
『元の大きさよりは小さいけどこういうのもできるんだな』
ひと回り大きくなったサクは姿勢を低くして、乗りやすいようにしてくれている。
二人まで乗れるので、リーナと一緒に乗ることにした。
最大二人までプレイヤーを乗せて走れるらしいけど、使い魔はどう言う判定なんだろう……三匹とも大して重くないから大丈夫だと思うけど。
まあいざとなったら休眠状態にできるしとりあえず乗せてみようかな。
というわけで、サクの背にまたがって落ちないように毛を掴む。私の前にはアリスがいて、アルルとカイルはいつも通り両肩に乗っている。
そして後ろに座ったリーナが私の腰に手を回している状態だ。
なんか私を中心とした陣形みたいになってる……。
「リ、リーナはなんでそんなに密着してるの……?」
「気にしないで!」
そう言われても気にしてしまうけど……まあいいや。
サクの命令付与ウィンドウを見てみると、移動方向を細かく指定できるみたいだったのでとりあえず真っ直ぐ進んでもらうことにした。
ボス部屋だし、ここから先はすぐにエリア外に出られるはず。
というわけでそんな指示を出すと、サクは出口に向かって走り出した。
進むごとにスピードが上がっていって、景色が勢いよく後方に流れていき、風に揺られて髪がなびく。
やがて空を覆う黒葉はまばらになっていって――
こうして私たちは、新たに増えた仲間と共に森を抜けたのだった。
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