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その拳にご注意を  作者: ろうろう
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87話 水風船

遂に温泉が完成した。

宿とは思えぬくらいの大きさの建物がドーンと中心に建ち、周りには小さなお店が建てられている。

街でもある程度裕福な商人が分店として出しているのだ。

狙いは勿論温泉客。

街の近くとはいっても、買いに行くのを面倒だと思う人は居るのだ。


温泉が完成し、初日からたくさんの人であふれた。

主に女性が美肌の為に訪れ、更に湯上りの女性を見たい男達が集まったのだ。

ファウスといったお偉い方も、VIPなルームに訪れている。

彼等は専用の温泉に入って楽しんでいるのだ。




そして修も、当然の如く温泉に居た。


「うおおおおおおおお!!」


何度も何度も、この湯には浸かっているが、完成品を見るとまた違う趣がある。

テンションはどえらいあがっていたが、ちゃんと体を洗ってから温泉に入った。


「はぁ…やはり、良い物ですね…」


ポーラさんも当然混浴している

惜しげも無く肌を晒して、修に抱き付いた。


カファも入っている。

だと言うのにポーラがこれだけ開放的なことには、もちろん理由があった。

ポーラはこの専用部屋を作るのを手伝った。

そして堂々と、温泉内に仕切りを作ったのだ。

仕切りと言っても、板を立てかけて完全に遮断したわけではなく、布で仕切っただけだ。

しかしそれでも、安全だ。

何せ、カファは性欲が無いし、動く気もあんまりない。

わざわざ覗くようなことはしないのだ。


「……」


ポーラの思惑通り、カファは静かに温泉に浮き、ひたすらお空を眺めていた。

水死体と間違われないか不安になって来るが、顔が出ているの大丈夫だ。


そして安堵しきったポーラは段々と大胆になって来た。

擦り寄るだけでは我慢できなくなり、自ら修に唇を重ねた。

実に情熱的だった。

ポーラの顔が少しだけ離れ、修とポーラが見つめ合った。


「…温泉ではしないよ?」


ポーラの濡れた瞳を見て、修が苦笑した。


「……はい」


ポーラはそう言いながらも、また顔を寄せて来た。

情熱的に、何度も何度も。

修の顔中にポーラが唇を押し付けてくる。

こ、これはいかん。

危うく修のメーターも振り切れそうになって来た。


「シュウ様、シュウ様…」


ポーラははぁはぁと荒い息を吐きながら、全身を激しく艶めかしく擦りつけて来た。

頭の中は、もう完全に桃色になっている。

修が我慢できず、ポーラを抱き寄せて口を塞いだ。

実にけしからん。

もう堪忍ならねぇ!と修の理性が外れかけ、ポーラがそれを感じて喜びに身を震わせた時。


「……?」


まず修が気付いた。

何かがおかしい。

スースーする。


修の視線が、ポーラから離れて周囲を彷徨った。

ポーラはそれに少し不満げに眉を寄せたが、理性が帰ってきたことでポーラも気付いた。


「……え!?」


ポーラも慌てて周囲を見回す。

温泉に肩まで使っていたはずだ。

いや、ポーラは背中とかお尻とかが結構出てましたけどね。

しかし、それにしてもだ。

水位が、減っている。

良く見れば、水に流れが出来ている。

何かに吸い込まれているのだ。

まさか初日から水漏れか!?

と、修は慌てて流れの先を追った。

仕切りを越えた。

ポーラも、早技で布を体に巻き、修の後に続いた。


穴は開いていなかった。

しかし、お湯は吸われていた。


カファは木人だ。

下半身、特に膝から下に根の様な機能があるらしい。

最悪足を地面に埋めるだけで生きていけるのだから凄いことだ。

そう、カファがその足でお湯を吸っていた。

供給量を、明らかに上回る速度で。

当然とてつもない量だ。


その代償として、カファはめっさ肥えていた。

来た時とは別人としか思えぬ。


「カファ!!ストップ!!ストップだ!!」


修が慌てて叫んだ。

最初は水漏れの心配をしていたが、今はカファが破裂しないか心配になってきた。

しかし反応を返さない。


「カファ!!起きなさい!!」


ポーラ教官が怒鳴った。

なんと、カファは寝ていたのだ(※真似してはいけません)

寝ながら吸収し続けていた。


「……?」


カファが目を覚ました。

目を開けたまま寝ていたので、修には違いは分からなかったが、気配的に目を覚ました様な気がするのだ。


「……うぷっ」


そして吐きそうになっていた。


「うおおおおおおお?!」


お風呂の中でリバースされると、とても困る。

修は慌ててカファを引き上げた。

たっぷたぷだった。




桃色空間をカファに破壊されたが、怒るよりも前に介抱せねばならなかった。

介抱とは言っても、ポーラが人工呼吸の様にカファの腹を押さえた。

カファの口から、ピューツ!、と噴水の様に温泉が噴き出していた。

ありえないが、金魚が混じっていることを期待してしまうくらい見事な噴水だった。

しかも噴き出しているのはそのまんま温泉水。

変なものが混じっていなくてよかった。

それでも、温泉には落とさなかったが。


カファはギャグマンガの様に、元の体型に戻って行った。

何と言う便利な体なのだろうか。

そして最後に、ポーラは温泉で寝ることは、固く禁じていた。




ポーラとカファは、順調に迷宮を進んでいた。

そもそもポーラは一度攻略済みであるし、レベルも装備も十分だ。

しかし、サクサクと進めることはしなかった。

カファの戦闘経験を増やすことが目的なので、ゆっくりと進み続ける。

朝から昼まで、昼から夕方までの2回も潜っている。

代わりに、修との訓練は休止中だ。


----------------------------


LV.16

ボス・バーサクラッコ


----------------------------


相変わらずシャコ貝を振りかぶって襲って来るラッコにポーラがカファをけしかける。


「カファ!!」


「……はぁ」


カファはやる気の足りない返事を返しながらも、ちゃんと駆け出した。

サボろうとして燃やされかけたこと数回。

もう骨身に染みている。


シャコ貝と、盾が衝突した。

あっさりと砕け散ったのは、当然ながらシャコ貝の方である。

しかし、バーサクラッコはシャコ貝の中身を貪る。

そしてトリップして、凄まじい勢いで殴って来る。


「……」


カファはそれを受け続ける。

ポーラがバーサクラッコを倒すまでは、防ぎ続けなければならない。

だというのに、鬼教官は剣を抜き放ちながらも、見学している。

カファが疲れるまで防がせ続けるつもりなのだ。


「……」


カファがちらちらとポーラを見ても、手を出す様子も見せない。

それが出来るくらいの余裕は産まれていた。

しかし、相変わらずポーラは見ているだけだ。

一応、危険がないか様子は伺ってはいるようだが。


「……」


カファは、バーサクラッコの様子を伺った。

そして、タイミングを見計らって、ラッコを蹴り飛ばした。


「あ!?」


ポーラがびっくりした。

蹴り飛ばされたラッコを背に、カファが駆け出した。

実に迅速に、ポーラの後ろに駆けこむ。


「こ、このっ!」


ポーラがカファに文句を言おうとした。

が、ラッコがポーラめがけて駆けて来る。


「あとで覚えていなさい!!」


ポーラがラッコと戦い始めた。


カファは骨身に染みていなかったし、実に良い性格をしていた。

そして後ほど、猛烈な説教を受けた。

普通に燃やされかけた程だ。

おかげで、遂に骨身に染みついてしまった。

至極当然のことだが。

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