51話 どちらも本性です
修は朝日と共に目を覚ました。
ポーラが修にしがみ付いたままスースーと寝息を立てている。
「あの野郎・・・」
修はゴッドスマイルを思い出して呟いた。
「・・・ぅ、・・・・おはようございます」
ポーラも目を覚まして、微笑んだ。
寝起きのポーラは髪が乱れていてエロイ。
修は一瞬で機嫌を直して微笑んだ。
修もちょろい。
「うん。おはよう、ポーラ」
「シュウ様」
二人で朝食を取っていると、ポーラが話しかけて来た。
「うん?」
修が、がっつく手を止めた。
「カマン様がPTメンバーを見つけられた時のために、装備を整えておきませんか?」
ポーラはとても正しいことを言った。
なのに、修は目から鱗が落ちる気分だ。
お気楽である。
「あ、そうだね。何がいるかな?」
植人をカマンにお願いしていたはずだ。
どういう育て方をするのかは、修には分からない。
盾を持たせようとしているくらいしか知らないのだ。
「大盾を準備しましょう」
案の定、ポーラが言った。
修は、ドラゴンの素材が金庫に眠っていることを思い出す。
「ドラゴンの素材あったよね。あれでいいかな」
高価な物をあっさりと使用しようとする。
ポーラは若干引いた。
「・・・使われるのですか?性能は十分ですが・・・」
奴隷に装備させるものではない。
しかし、ポーラも装備していたのだ。
そのことを思い出すと、あまり強くは言えない。
「溜めておいても仕方ないしね」
修は散財を気にした様子を見せない。
ポーラも諦めて頭を下げた。
「申し訳ありません・・・」
「気にしない気にしない」
修はカラカラ笑っていた
大盾はカマンにお願いするとして、残りの装備を探した。
残る素材的には、流石に一式揃えることは不可能だろうと判断したのだ。
しかし、ミラードラゴンと釣り合いそうな装備は見当たらない。
と言うか、見当たったら困る。
「良さげな鎧はないねぇ」
そんなこと気付きもせずに、修は残念そうにつぶやいた。
「・・・あんまり高いのは、どうかと思うのですが」
鉄の鎧を華麗にスルーする修に、ポーラが控えめに言った。
しかし、修はこだわりがあるようだ。
一式揃えれそうにないと聞いた時にも、とても悲しそうな顔をしていた。
「盾だけ立派でも厳しくない?」
せめて、性能的に差の無い装備を整えてあげたかった。
「それはそうですが・・・」
しかし、見つかるわけも無い。
辛うじて、ミスリルの盾が一つ置いてあるくらいだ。
防具屋のおっさんも、笑顔の裏で「一式なんてねーよ」と思っていた。
「まあ、カマンさんにお願いしておこう」
結局修は、丸投げすることにした。
「・・・はい」
カマンも大変だ。
カマンにお願いして来た。
大盾は快く頷いてくれたが、素材が足りないらしい。
よって、ポーラの盾を回収して大盾に改造するそうだ。
ポーラは代わりに、ミスリルの盾を買ってもらった。
そしてカマンは、修に同じくらいの装備を一式欲しい、と言われて笑顔が引き攣っていた。
ポーラはこっそり、「ミスリルとかでも・・・」と耳打ちしておいた。
ポーラもカマンには優しいのである。
ミスリルでも性能は劣るが、それでも十二分に強い物だ。
一式揃っているのは、先日初めて見たくらいだ。
それでも結構時間はかかるだろう。
ポーラはそう思った。
それから迷宮に向かった。
さて入ろうかと言うところで、突然声をかけられた。
「おい!」
「はい?」
修は振り向いた。
「・・・・・?」
ポーラもびっくりした顔で振り向いた。
そこに居たのは、探索者風の男達が三人居た。。
修は見たことが無いはずだ。
ポーラをちらりと見ても、ポーラも首を傾げている。
「・・・何でしょうか?」
とりあえず平和的に聞いてみた。
「あんたじゃねぇ。そっちの女だ」
男達は、ポーラを見ている。
何だか険しげな顔だ。
しかしポーラは困惑顔だ。
無理も無い。
彼等は、ポーラが調味料を買いに行ったときにすれ違った男たちなのだ。
ポーラは顔すら認識していなかった。
「・・・人違いではないでしょうか?」
よって、ポーラはそう言い放った。
本当に、心底そう思っている顔だった。
男達が青筋を立てた。
「人違いじゃねぇよ!前に無視してくれただろうがっ!」
男達が騒いでいる。
修はこっそり鑑定したが、レベルは12、12、11だ。
小物である。
しかし三人とも顔が似ている。
おにぎり顔だ。
修は心の中で、端から順に、梅干し、シャケ、昆布と名付けた。
「・・・?」
ポーラが更に首を傾げる。
うんうんと記憶を辿るが、思いつかないようだ。
「・・・いつお会いしました?」
思いつかなかったポーラは素直に聞いた。
梅干しが青筋を立てながら、呻くように言った。
「・・・・・・三日前だ」
三日前。
ポーラはまたうんうんと唸って考えた。
「ツインスネイクと戦った時だよね」
修が助け舟を出した。
ポーラも、そこまでは覚えている。
後覚えているのは、マーマンが臭かったことと、調味料を買い忘れていたことくらいだ。
悔しさがこみあげて来た。
しかし、彼等に出会った記憶は無い。
「・・・すいません記憶にありません」
梅干し、シャケ、昆布は切れなかった。
正確には、切れかけていたが、修の言葉に思い留まった。
彼等が戦っているのは九層。
ツインスネイクは見たことが無い。
つまり、修とポーラは彼等よりも上の階層に行っているのだ。
下手にケンカを売れば、畳まれる。
そう考えた。
「・・・そうか。お前ら、何処まで行ってるんだ?」
念のため確認する。
10層とかなら、行けると思ったのだ。
「迷宮ですか?15層ですね」
15層。
つまり、10層の壁を越していると言うことだ。。
「・・・・そうか」
梅干し、シャケ、昆布は懸命にも、喧嘩を売ることを諦めた。
弱者の知恵である。
「あの、私が何かしたのでしょうか?」
ポーラが申し訳なさそうに三人に問いかける。
控えめに見えるが、修が居なければ殴り倒していたかもしれない。
ポーラさんは実はアグレッシブなのだ。
「・・・いや。あんた急いでただろう。その時にぶつかったんだよ」
梅干しは、今度は覚えられていないことをいいことにでっち上げた。
「・・・・?・・そうですか。すいません」
ポーラは考えた。
急いでいたと言うことは、間違いなく調味料を買いにいった時だろう。
何かにぶつかったと言う記憶は無い。
避けた記憶ならある。
しかし、修の前ではお淑やかキャラを貫くポーラは素直に頭を下げた。
修に見えない眼光は鋭い物だった。
「失せろクズ共」と言う意思に満ち溢れている。
「お、おう。謝ってくれるならいいんだ・・・」
梅干し、シャケ、昆布はそう言って、すごすごと引き下がった。
面倒くさいのを追い払えて、ポーラはほっとした。
「ポーラ、ぶつかったらちゃんと謝らなきゃ」
しかし、修に注意されてしまった。
「・・・はい。申し訳ありません」
ポーラは修に頭を下げながら、心の中に三人の顔を刻み込んだ。
次絡んで来たらタダじゃおかねーと、伏せた顔に書いてあった。




