表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/20

第二話 決意

「君がいてくれて本当に助かったよ。あの魔物は君がいなかったら危なかった。これはほんのお礼だよ」


 アリルエージュに着くと、ジャックは俺へとお礼と共に少しばかりのお金と剣をくれた。剣は先ほど壊した剣とあまり変わらないが、それでも全くないよりかは幾分かましで、とてもありがたかった。


 それにしても、ジャックは本当にいい人だ。

 積み荷はどうやら遠く離れた東から持ってきた極上の一品らしく、この町なら高く売りさばけると彼は語っていた。


「あの実力なら、お前もどうせ冒険者になるんだろう? もしもどこかで出会った時はよろしく頼むぜ」


 あの時、一緒に戦った冒険者はフォルミと言う名前らしい。

一緒に戦っていた時は鎧に包まれていて顔は見えなかったが、兜を取ってみるとかみひげを全て剃った笑顔がいい伊達男だった。眉毛が太く、とても男らしいのだ。


 俺はフォルミと握手をして別れた。

 どうやらフォルミもジャックの依頼が終わったので、いつもの冒険者業に戻るらしい。

 もしも俺が冒険者にまたなるのならば、彼と出会う事もあるかもしれない。



「べーーー、だ。あんたには助けられたから、一応、感謝はしておくわ。でも町で私に話しかけないでね。変態が移ると困るから」


 アレーナは町について別れる時でも態度は変わらず、舌を出して、手で目の下を引っ張っていた。

 全くもって生意気な女だと思ったが、彼女はきっと年下である。何故なら癖毛で、目がアーモンド上にくりくりと丸く、あどけない表情はまるで小猫の様だ。

 まだ十歳と少しばかりだとジャックは言っていた。


 俺は彼らと別れてからとりあえず 宿をとることにした。

 何故ならもう日も落ちている。

 今日はいろいろな事があった。

 ゆっくりと休みながら考えたかった。


 宿屋はすぐに取れて、狭い部屋の中で一人になることができた。

 固いベッドの上で横になる。


 ――不死人。


 その言葉が頭の中を駆け巡る。

 俺はドラゴンによって殺されて、モンスターとなって復活した。


 ああ、これは、まずい。

 とても、まずい。

 非常に、まずい。


 不死者と言うのは人々にとってモンスターと同義であり、冒険者にとってはモンスターと同じく討伐の対象だ。

 例え俺のように人と変わらない姿で、人としてまともな理性があったとしても、それは変わらない。

 俺自体は不死者に出会ったことがないが、不死者は――いずれ“狂う”と言われている。死の概念を超越した新しいモンスターである不死者になった人は、時と共に精神が狂い人を襲うみたいだ。


 だから人は不死者を狩るのだ。

 元々彼らが人間だったとしても。


 また会ったことはないけど、不死者を専門に狩る“不死狩り”と呼ばれる集団も存在すると聞いたことがある。

 彼らに出会ったら俺はきっと消されるだろう。


 絶対に嫌だ。

 せっかくまだ生きているのだ。

 だけど、俺は故郷においても、国においてもきっと死んだとされているだろう。勇者であるウイエが広めていると思った。


 目覚めた場所が勇者のいる町から遠く離れた場所なのは、きっと運がよかったのだろう。

 ここなら、誰の目を気にせずに生活することができる。


 さて、これからどうしようか。


 と考えた時に、俺が望んだ一つだった。

 元の生者に戻ることだ。

 不死者になったのなら、もしかしたら元に戻る方法があるかも知れないと思うのだ。


 いつまでもこのままではいられない。

 家族にいち早く会いたいし、勇者の事は殺したい気持ちでいっぱいだけど、他の仲間は大切な幼馴染だ。彼らとも会って、俺が無事だって、示したかった。


 俺はベッドに寝転がって天井を見上げたまま、静かに決めた。

 それは誰にも話すことはないが、胸に強く誓った。


 かつてのように大手を振って歩けるように、元に戻りたいと思った。


 だから生者に戻ろう、と。


 ――どんな手を使っても。


 ◆◆◆

 


 次の日の事だ。

 簡単に朝食を食べると、さっそくこの町の冒険者ギルドに向かった。


 昨日の夜、当面の目標を決めた。

 生者に戻ろう、と。

 その為には僕の正体が露見するという危険が伴うけど、冒険者になろうと思った。冒険者なら一般の人が得られない情報、秘薬、また禁則地への入場許可など様々な事を得る事ができる。


 パーティーのリーダーに殺された後だ。

 他の冒険者をあまり信用することが出来ないので、パーティーを組むと言う発想は俺の中にはなかった。

 そもそも他の冒険者とあまり馴れ合う気もない。

 正体がばれると、大変な事になるからだ。


 そんな事を考えながら人々が賑わう道を抜けて、町の中を真っすぐに南へと向かう。暫くすると、すれ違う人々が布の服を着た者達から鎧へと変わっていく。きっと彼らは冒険者だろう。

 

 やがて見えてきた冒険者ギルドの建物は、荒くれ者たちが使うにしては分不相応に覚えるほどだった。レンガを一つ一つ積んで、まるで立派な聖堂のようも思えるが、中から聞こえる大きな笑い声は明らかにがさつであり、神官たちらしくないのが冒険者ギルドらしい。


 扉のない入り口を抜けると、エントランスが広がっていた。冒険者たちが受付のお姉さんに話しかけたり、掲示板の前でいい依頼がないか張り付いてみたり、また併設されている喫茶店でパーティーメンバーを必死に勧誘している冒険者もいた。


 それぞれが思うように活動している姿に、思わず俺は嬉しくて笑いそうになる。


 かつてはあのような冒険者の活動に憧れた者だ。

 だが、勇者がパーティーにいた俺たちは、あまりこういった施設を使う事はなかった。依頼にしても、貴族や国からのものが多かったからだ。

 

 いや、そんな事は思い出さなくてもいいな。

頭をぶんぶんと振ってから受付にいるお姉さんに話しかけた。


「新しく冒険者登録ってできますか?」


「あら、冒険者志望?」


 俺がカウンター越しに話しかけた女性は、白シャツとジャケットを着こなしたかっこいい大人の女性だった。


「はい。そうです」


「そうなの。お名前は?」


 受付のお姉さんは羽ペンで手元の書類に何かを記載しながら言う。

 胸元にある名札にはロジエと書かれている。


「僕は“ルージュ”って言います。よろしくお願いします」


 俺は頭を下げる。

 もちろん、ルージュは偽名だった。

 先ほど思いついた名前だった。

 フラムと言う名前から、遠く離れた土地で死んだ僕の事を連想されては困るからこのような名前を使うのだ。


 もしもジャックさん達に会った時には、フラムというのは家名として説明しようと思った。


「分かった。ルージュ君ね。ルージュ君、推薦状などお持ちかしら?」


「持ってません」


「じゃあ、他の町などで冒険者活動はしていた?」


 冒険者というのは、町ごとの職業であり、国一律の団体ではない。

 そのためもしも冒険者で活動したかったら、町ごとに登録を行わなければならないのだと言う。


「――いいえ。していません」


 だけど、ここで一つ俺は嘘をついた。

 過去の自分が調べられたらもしかしたら何かの拍子に死亡している人間だと分かり、不死者だと疑う者もいるかも知れないからだ。


「いい? ルージュ君、よく聞いてくれる? 他の町で冒険者をやっていたならともかく、あなたがいきなり冒険者になろうと思うとそれは難しいの」


「つまり、俺は冒険者になれない、ってことですか?」


 それは困る。


「いいえ。違うわ。 “すぐ”に冒険者になれないというだけよ。安心して。このギルドで冒険者見習いとして、先輩の冒険者の指導を受けた後にはちゃんと冒険者としての資格を発行するわ。それでいいかしら?」


 俺のいた町にはなかった制度だ。

 もしかしたら似たような制度があったのかも知れないが、勇者がパーティーにいたためには特例としてそういう事を排除されたのかも知れない。


「はい。大丈夫です。よろしくお願いします」


 俺は死んだ身だ。

 もう一度、最初から始めるのもいいかも知れない。

 俺はこれまで培った経歴を捨てる事に、全くプライドは邪魔しなかった。まるであどけない子供のように、素直に頭を下げる事ができた。


 むしろ純粋に楽しいとさえ思ってしまうのだ。

 子供の頃に憧れた冒険者にもう一度零から挑戦できる。

 以前は勇者と言う特権を何度も使って、


「いい返事ね。じゃあ、登録しておくわね。ただ、ごめんなさいね。こちらにも準備があってね、これからあなたにつく冒険者を探さなくてはならないの。だからあなたをすぐに冒険者見習いにするのは難しいわ。一週間後まで待ってくれる?」


「分かりました」


「じゃあ、また一週間後にここにまた来てもらえるかしら。あ、そうそう。家名も合わせて教えてくれるかしら?」


「――フラムベルジュです」


「ルージュ・フラムベルジュ君ね。分かったわ。それじゃあ、あなたにまた会えるのを楽しみにしているわ」


 ロジエさんは優しく微笑んでいた。

 俺は新人らしく、大きく頭を下げて返そうとしたのだが、隣の受付にいる冒険者から大きな声が聞こえた。


「どうして私はすぐに冒険者になれないのですか?」


 それは怒りに満ちた声だった。

 女性の声である。

 声量は大きくなかったが、あまりにもはっきりとした美しい声が響いたので、俺だけではなくエントランスにいた他の冒険者も彼女の方を向いていた。


「だから規則ですので――」


 受付のギルド職員はあたふたとしながら彼女に対応しているが、彼女はもう一度強く言った。


「私はすぐに冒険者になりたいのです。いえ、ならなければなりません――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ