表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/20

第十九話 間抜け

 仮面の男の場所へ、無数の魔法や矢が当たって爆発した。

 煙に男は包まれる。

 地面へと倒れた男はナイフを持ったまま立ち上がった。不死殺しをかけていない攻撃だとやはり通じない。


 だが、太ももの傷は治っていないので、不死殺しは効いている筈だ。

 男の傷は治らない。

 しめしめとパンは思っている。


 しかしながら男の反応は違った。


「くくっ……」


「何がおかしいっ!」


 思わず笑った男に、パンは動揺を隠せなかった。


 自分たちは圧倒的に有利なはず。


 不死者の仲間は既に逃げて、残るは不気味な仮面をかぶった男だけ。パンの攻撃によって男の足には穴が開いた。男のスピードが騎士たちを超えていようと、怪我をした状態では満足に走れない。


 あとは男を取り囲んで嬲り、最後は自分の不死殺しでとどめを刺す状況まで追い込んだ。


 状況は誰が見ても自分たちが有利であり、それは不死者にも分かっている筈。


「いいものをくれたと思ったんだよ。このナイフ、これには不死殺しの力が込められている――」


 仮面の男はまるで宝物を触るかのように、不死殺しの加護がかけられてあるナイフの刃を人差し指でなぞり、薄く血を出して治っていない指をなめた。


「その通りだ。その力で貴様は死ぬのだ」


「いいや、私は死なない。それよりもありがとう。君のおかげで不死殺しの武器が手に入った」


 男はふらふらで立っているのもやっとな状況なのに余裕そうに告げた。

 とても嬉しそうである。


「いつまでその余裕が続くかな?」


「どういう意味だ?」


「不死殺しの武器がそのナイフだけだと思っているのかな? それ以外にも不死殺しはある。例えばこの剣――。私たちには君を殺す武器が沢山あるのだよ。それが分かったら絶望して、這いつくばるように逃げてほしいな」


「どうしてだ?」


「そちらの方が殺し甲斐があるからだ――」


 憎き不死者の哀れな姿を見た方が、胸がすっとするとパンは語る。


 だが、男は変わらずに逃げる事も、戦う事もせずに右手を上げながら言った。


「では、もう少々痛めつけてもらおうか。私は不死者だ。この程度の痛みではゆりかごにいるだけに過ぎない。もっと痛みを! 私に絶望を味合わせてくれ! 君たちに――そんな勇気はあるかな?」


 男はパンを挑発するように言った。


「なるほど。君はさっさと死にたいらしい。いいだろう。跡形もなく、殺してやる。だから――剣で殺すのは止めよう」


 パンはそう言うと信者の一人に剣を渡して、大きな弓矢を用意させた。それは百二十センチほどの大きな弓矢であり、矢もそれと同じく大きなものだった。

 ただ通常の矢とは違い、矢じりは鉄ではなく黄色に輝く石によって作られていた。形はいびつで、まるで太古のように石と石で削り合って作られたようだ。


「それだけか?」


 男は嗤う。

 それがパンにとっては癪だった。


「ふん。お前のような不死は知らないだろうが、これも不死殺しだ。どんな不死も当たるだけで爆散するようなものだ。恐ろしくないのかね?」


「ならば、そこにいる騎士共はただのデクの棒という事か。いや、給金泥棒か。これだけの人を集めておいて、私のような不死を殺すのに何も役に立たず、そこにいるだけ。やけにお前たちの教会は無駄が好きなようだな――」


 男はくっくっとせせら嗤う。


「無駄ではない。お前を逃がさない為だ。我が騎士たちよ、構えよ――」


 パンの言葉と同時に、騎士たちは魔術を詠唱して矢をつがえて弓を強く引いた。もちろんパンも弓を強く引いている。


「我は不死者だ! 我は死なぬ!何度でも生き返る!!」


 その瞬間、怪我をした足が痛んだのか、地面に手をつくように倒れた。

 もう立てない、とパンは判断する。


「所詮は戯言よ! 皆のども、弱っている奴をやれ!!」


 パンの言葉と同時に、全ての攻撃が男へと降り注いだ。

 騎士たちには何も見えなかった。

 騎士たちの全ての攻撃による爆発が土を舞い起して爆発したので、男の姿が見えなかったのだ。


 そして土埃が晴れた後、右足の足首から先のみが現場に残った。

 それを見たパンは言った。


「さあ、奴らの首謀者は死んだぞ! 残党狩りだ!!」



 ◆◆◆



 俺は強化した耳で遠くから「残党狩りだ」とあの神官が叫んでいるのを聞いた。

 どうやら俺は死んだという事になっているらしい。


 予想以上にあいつらは間抜けだったらしい。

 というよりも、あんな演技に引っかかって全員で攻撃をしてくれたパンには感謝をしている。

 彼のおかげで、俺は疑われる事無く地面を叩いて土埃を発生させることが出来たのだ。多分、あいつらは自分の攻撃によって土埃が起こったと思っているだろうけど。


 確かに俺の足は不死狩りによって傷が治らなくなった。正直、あのままでは逃げるのも大変だっただろう。


 だが、今の俺は五体満足である。

 どうやってあの場から逃げ出したと聞かれると簡単である。

 足の付け根を全力で引きちぎって、あの場に置いて逃げ出したのだ。


 不死殺しの傷は確かに治らなかったが、どうやら不死殺しにあった部位を捨てると再生するようだ。

 まるでとかげのように。


 あいつらの攻撃が届く前に足が再生するどうかだけが不安だったけど、あまり問題はなかった

 早く治れーという思いを込めて、ダメ元で傷を治す付与術を使ったら瞬時に治ったし。


 どうやら不死と言う肉体にはまだまだ秘密があるようだ。


 俺は右手に持った不死殺しのナイフを右手に持ちながら、夜の草原をスキップした。


 目当ての物を手に入れたぜ。

 やったぜ。

 これで不死殺しの秘密が一つ分かる。


 騎士たちはすぐに門から出て、俺よりも先に出て行った不死者を探しているらしいが、きっと見つからないだろう。


 何故なら俺の力によって、彼女たちは森の奥底に隠れたからだ。

 もうなかなか見つからないと思う。


 俺は彼女たちに合流しようと夜の草原をスキップで走る。


「ひゃっはーー!!」


 全てがうまく行って、俺はとても気分がよかった。

いつも読んで頂き、ありがとうございます!

もし作品を見て面白いと思われたら、下にあるブックマーク、評価、感想を頂ければとても嬉しいです!


また「@otogrostone」というアカウントでツイッターもしておりますので、よかったらフォローお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ