13.★オーウェンの煩悩
※オーウェン視点です
やっと書類で婚約をきちんと交わした今日、侯爵邸には残念ながらアデレイズは居なくて、侯爵と書類を交わして少々話し込んでいた。
「私は妻とのんびり出来れば良いからね。そんな好条件持ってこなくて良いんだよ。コレくらいで順当なんだよ」
「本当に?ではいつでも何かあれば声をかけてください。未来の花嫁の実家ですから、全力を尽くしますよ」
「ネイトにも伝えておくよ」
「この間手紙が届きました。私とアデレイズの婚約はまだ届いていない様ですね」
「商人に身を扮して、様々な所を渡り歩いているからね。我が侯爵家の危機回避能力は、実際に色んな貴族の危機を見て知って経験する事で培われてきたのだよ」
「経験がものを言う…ですね。知ったかぶりをしてふんぞり返るだけの貴族とは、道理で違うわけですね」
「その通り。ま、私から言えるのは一つだ。
……アデレイズを泣かせるな。分かったね?」
「はい。承知しました」
「オーウェン君、戦場に立つこともある君が死ぬ事もない様にしなさい。あの子が悲しむ」
「……はい」
そんな会話をして、取り敢えず王都邸へと帰ろうかと侯爵と廊下を歩いていたら、丁度アデレイズが帰ってきた所だった。
何だかシュンとしている気がするけど気のせいか?
侯爵の計らいで正式に婚約者となったアデレイズとお茶をする事になって、アデレイズの私室へと向かう時、俺は幸せを噛み締めていた。
ちょっとむくれた顔したアデレイズに、今日の出かけ先を聞くまでは。
「神様の花嫁になる為に、修道院へ」
は?????何言ってるんだ????
神?王族の次は神だと???
そうか、そんなに逃げたいのかアデレイズ……
仕方ない…………全力でアデレイズを惑わそう。清貧が美徳の神になんかくれてやるものかっ!
私室に入って、指示したものを持って来させた後、人払いさせた。1年と少しは一緒にここで暮らしていたんだ。アデレイズが甘味に弱いことなんて、俺にはお見通しだった。
さぁ、俺の長年のリサーチによるこの幻のチーズケーキに敗北を悟れ。
頑固な職人に無理を聞いてもらう対価に、辺境領の品種改良した高品質カカオの専用ルート確保と、最近ようやく出来た新種モロオレンジとキャビアライムの優先権もつけると「喜んでぇっ!」と目を血走らせながら差し出してくれた。持ち込んだ黒スグリでソースも作ってくれたんだぞ?気の良い職人たちだ。
勿体ぶるように小さく切り分けて、さぁ……っとアデレイズを誘うようにフォークを向けると……な、なんて顔しているんだアデレイズっ!
いつも凛とした猫の様な目が蕩けて、恍惚としていて。上気した頬、お祈りのポーズで寄せられた胸がレースの狭間からうっすらと見える。
…………予想以上に大きいんじゃないか?ゴクリ。
いや、俺が誘惑されてどうする。ていうかポジションが悪かった。
座っているアデレイズの側に立って、誘惑する様にフォークに刺した一口サイズのケーキを口に持っていくことで上からやや覗き込む姿勢になっていた。
勿体ぶる様にゆらゆらとフォークを動かす度に、あげる声が妄想を掻き立てる。切なく揺れる瞳、「ぁっ」という声。俺のオレが「出番?」と訴え始めている。
ちがう、今じゃないっ!
早く諦めるって言わせないと、色々とまずい。主に俺の理性と、俺のオレが主張し過ぎた後が。今日は長めのジャケットを着ていて助かった。かくなる上は、ソースと蜂蜜のダブル掛けだ!
「あー~~!あっっっ!!!諦めますわっ!!」
やっと言ってくれた言葉にホッとした。チーズケーキに夢中になっている隙に、椅子に座って誤魔化すことに成功する。
アデレイズは諦め悪く色々言っていたが、そのままのアデレイズを求めている俺にとってなんの問題にもならなかったけど、好きな人疑惑では目の前が真っ暗になった。
「よし、そいつをブチ殺そう」と思い至り、決闘しに行くと言えば、必死に胸に縋り付いて嘘だと言った。
頭に上った血が一瞬で引いて我に返ると、アデレイズが胸の中に居て、全身を密着させて涙を浮かべて俺を見上げている。
………………ご褒美が過ぎる。
慌てて様子を見にきた侍女は一瞬固まったものの、無言で去ったところを見ると、…コレはGoサインなのだろうか。
取り敢えずアデレイズの背中に手を回して、抱き締めて堪能しておこう。
……今日はコルセットを着けていないのだな。
キュッと身を寄せさせれば、ポヨンとした感触が何とも…せっかく治っていた俺のオレが、今度こそ出番か?と言ってきていて色々拙いが、この至福はもうちょっと堪能しても良い……よな?




