失われたフタリ lost memories
「な、なんで…… 」
怪我のことだけじゃない。
「どうして…… 」
人類二倍のことだけでもなかった。
「私のことまで…… 」
最も覚えていて欲しかったことを……彼は忘れていた。
タッタッタッ……ザッ
「オサムっ!!、アユリさんっ!! 」
衝撃を受ける私の向かいから、男の自分が走ってくる。
「やっぱり、一人に戻って怪我も治ったのか……? アユリさんっ、アユリさんっ!!」
状況を半分察した彼はまだ気絶して倒れていたアユリを抱き起こして呼びかける
「ん、ん……? 私なんでこんな所で……? 」
アユリがその声に気付いて目を覚まし、困惑する。
あの子も私のことを覚えていないのだろうか。オサム君の様子を見たところ、人類二倍以降の記憶がないってことになってるんだと思う。だから、超常より後に出会った私のことも覚えていない。
つまり、この二人は男の私がいる世界の存在なのかな? 私を覚えてて彼を覚えていない彼らが別にいて、その二人は元の世界に戻ったのかな……? と、戸惑いの中でなんとか推測したが男の私の顔を見たアユリの返答によって、それは完全否定され、事態はもっと複雑さを増した。
「君……だれだっけ? 私のこと知ってるの?」
「……!!? 」
「っ……!! 」
オサム君とは対照的に、アユリは男の私のことを覚えていなかった。
「本当に……、忘れてるのか…… 」
忘れられた彼はそこまで驚きを見せない。何故か既に記憶喪失を想定していた様に見受けられる。
「えっ? なに? いったい今ってどういう……あっ、鴉根君だ。 」
「あれ、薄明さんもここに? 」
倒れていた二人は立ち上がりながら、お互いの存在を確認し合う。
両方とも全ての記憶を失っているわけではないらしい。忘れたのはあくまで人類二倍や私たちのことだけ……
「ねぇ、なにが起きてるの……? 二人とも私を覚えてないならまだしも、私を覚えてないオサム君とあなたを覚えてないアユリが同時に存在してるっていうのは意味がわかんない…… 」
何か知っていそうな向かいの自分に理解不能の今についてを聞く。
この世界が元に戻ろうとしていると言うの割には残った存在が二つの世界でゴチャ混ぜだ。正常への回帰を目指しているとは思えない。
「いや、アユリさんの言う通りならこの二人は…… 」
彼の口が急に重くなる。いや、というよりは何かを覚悟し直した様な雰囲気を見せる。
やはり何かは知っているみたいだけど、この重い空気。どうしたのだろうか?
「はぁー、ふぅ……なぁ、一つずつ聞いていいか? 」
しばらく間を置いて深呼吸を終えた彼が口を開き始め、まずアユリと目を合わせる。
「……君は目の前の女の子を覚えているか? 」
「えっ? 」
そして次にオサム君の方を向き今度は……
「 そこの君は僕のことを知ってるか? 」
「えっ? 」
目の前の私は二人にまだ記憶の存在を確認出来ていない方の祇峰フタリについてそれぞれ質問したのだ。
一見無駄な問いに見えるが、それを聞いた私は……
「まさか…… !!」
その内容からあることを察してしまった。
とある最悪を感じ取ってしまった。
「いや…… 」
「ごめん…… 」
そんな私を他所に問われた二人は目の前の顔を見て返答する。
今までの10年以上の付き合いや……
私たちの想いを無視する……
信じがたい答えを……
当然の様に……
「……二人共知らない。」
「……二人共知らない。」
一人に戻った私たちの親友は、祇峰フタリという存在そのものの記憶を全て失っていた。




