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すれ違う光 beginning of disappearance



 タッ……、タッ……、タッ…… 




 「お姉ちゃん…… 」




  グスっ……

 ・

 ・

 ・



 タッタッタッ……


 「イッつ…… 」


 置いて来てしまったアユリさんたちのもとへ早く向かいたいのだが、身体のあちこちが痛くて思うように走れない。特に関節が重症。痛みの酷さを除けば成長痛みたいな感覚だ。

 

 「まぁ、当然か…… 」


 この痛みに関しては大して不思議はないので、僕は納得する。


 さっきの激闘で目覚めた双子座の力。それは2倍の力も含めて、僕の身体能力を今までと比べ物にならないほどのレベルに飛躍させた。

 もちろんそのおかげで僕らはこうして生存できているわけだが、それは僕の身体にとってはあまりに突然で、あまりに強大な力。そんな非現実能力を使うために人間は作られているわけがないだから、負荷がかかって節々が痛むのも当たり前だ。変な力を得てもまだ人間であるという証拠と思えば歓迎すべきものなのかもしれない.



 ヒラッ


 「おっと…… 」


いろいろな痛みを堪えながら走る僕の腕からアユリさんに巻いてもらったハンカチが落ち、僕は地面に着く前にそれを掴み取る。真っ白の布だったはずなのに僕の怪我による鮮血で染まっていた。激しい動きが多かったから、それで結び目が緩んでいたのだろう。


 「そういえば、今は全然痛まな……ん?」


 決して浅くはなかったハンカチ下の傷が何故かほぼ塞がっていた。


 「なんでだ……? 覚醒した時に治ったのか?」


 しかし、そんな治癒機能があるなんて説明は頭の中のやつからも杉佐多達からもなかった。

 それに、戦いの最中に負った細かいかすり傷などはそのまま残ってる。そんな便利能力があるならこの辺の傷なんて真っ先に治りそうなものだが……


 「ダメだ、コレもわからん。」


 思えばあれだけ衝撃的なイベントばかりだったのにも関わらず、それらによって増えたのは謎ばかりだ。主に分かったことなんて、姉貴がゾディアックだったことと杉佐多や黒羽さんという星座の味方が存在してくれていること。あとは副会長や馬鹿みたいな敵がいることぐらいか。

 しかし、分かったと言ってもこの三つに関してもまだ謎の方が多い。判明とするには明かされてなさすぎる気もする。


 「それに、この力…… 」


 そう。それ以上に大きな謎とも言えるのが、この力。そしてこの世界だ。

 

 最初にこの双子座の力を理解したときは、人類二倍現象の原因であると一瞬確信したのだが、落ち着いてよく考えると力と世界はいろいろ噛み合ってない。


 本当に人類が二倍になったのであれば、この力が原因で間違いないと思えただろう。

 だが人類が二倍になったという捉え方自体がそもそも正しくないのを僕らは知っている。自分自身、祇峰フタリの身体がそれを証明している。

 僕らの性別の違いを見るに人類は二倍に増えたのではなく出会ったんだ。僕の性別で分岐した2つのパラレルワールドの住人たちが、もれなく全て一斉に。

 つまりこの超常は1×2でなく1+1。()()()()ではなく、()()()()と表すのが相応しい。


 だから二倍であって二倍じゃない。


 “ジェミニック・トゥワイス”があらゆる物を二倍に増やす能力だとすれば、それだけでこの世界を作り上げる事は不可能なはずだ。それに……


 カチッ ヴン


 試したいことがあった僕は走りながらブレスレットに触れて、グローブを顕現させる。

 そして側にあった石に向かって右手をかざし、軽く叫んでみた。


 「ジェミニック・トゥワイス!!」


 ……何も起きない。


 「 やっぱ、ダメか。」


 さっき馬鹿に投げつけた破片の同じようには、この石は二つに増えてくれない。

 つまり触れた物にしか効果がない。もしこのグローブで人類を二倍にしようとしたら地球上の70億人にタッチしてくる必要があるのだ。そんな事、僕の人生全部を全て捧げたとしても出来るか分からない。というかそこまでして二倍にする動機がない。

 それに多少タイムラグはあったが、倍増が起こったのは全員ほぼ同時だった。増えたタイミングが同じという事は触れられたタイミングも同じという事。実現には世界中に届く70億本の腕がいる。そんなの千手観音でも絶対お手上げ案件だ。


 これらを鑑みれば、”ジェミニック・トゥワイス”はこの超常とは関係がない。


 ……としか考えられないのだが、何故か無関係を否定する出来事が一つ存在している。

 戦いの途中で僕が自分の体を二倍にしようとした際に鳴った音声、“Already completed”。この世界が二倍世界でないのにも関わらず、僕は既に二倍済みだとか抜かしやがった事だ。二倍は全く同じもう一人の男の自分がいないと成立しないはずだから全く意味が分からないのだが、この事実によって双子座の能力が何かしらの形で邂逅世界に関わっていることだけは分かってしまう。


 人類が戻りつつあるならこれ以上鼠算式に増えたりはしないようだが、矛盾や不明事項だけはそれぐらいの勢いでどんどん増えていく。謎が謎を呼ぶとはまさにこの事だ。



 いったい誰が、

 いったいどうやって、

 いったいどんな力を利用して、


 こんな世界中を巻き込む超常を引き起こしたのか?


 そこにどんな目的があり、世界が戻りつつある今、それはもう達成されたという事なのか?


 そしてなぜ僕達自身、祇峰フタリだけが例外なのか?


 たった16時間の中の出来事なのに知りたい事、聞きたい事は尽きない。

 だが自分たちで考えても分からない。

 全部知ってそうな姉貴はよく分からないヒントをくれるだけで全然教えてくれない。なんなら謎を深めてくる。

 頭の中の奴に至ってはさっきから呼び出そうと念じたりしているのだが、力をくれた時以来コンタクトが取れない。まぁ、呼び出したところで姉貴に脅されてるっぽいから大した情報はくれない役立た……


 



 ビュンッ!!!





 「……っ!!? 」


 突然、走りながら思考を巡らせていた僕の横をあるものが猛スピードで通り過ぎ、それに驚いて思わず立ち止まる。

 それは一人に戻った馬鹿な槍使いを包んでいたものと同じ光の塊。そして僕はその中にいた無意識のままでくの字状態の人間を強化された目のおかげでギリギリ捉えることが出来ていた。



 「今の……オサムだったよな? 」

 


 あの光を発していたって事はアイツも一人に戻ると言う事なのだろうか?

 もしそうなら、おそらく女の僕が行った方向でも同じことが起こっている。

 これによってどっちが残って、どっちが元の世界に帰るのかは分からないが馬鹿の例通りならこれで怪我が治る可能性が高い。超常から脱しつつ傷も完治出来るなら何も問題はないし、喜ばしいことだ。病院にも行く必要もないだろう。でも何があるか分からないし、アユリさんに会った後でちゃんと確認しに行くか。


 タッ


 オサムの光を目撃した僕はもう一度走り出す。怪我の心配ををしなくてよくなった分、結構足取りが軽くなった。


 しかし……馬鹿の時から少し思っていたんだが、なんであんな戻り方するんだ?

 どっちかを元の場所に帰すなら片方が光ればいいだろうし、わざわざ両方を引き寄せる必要があるのか?

 あんなの二人を別れさせると言うより、合体に見えるんだが……




 「フタリくんっ!!!! 」




 聞き慣れた声が叫びとなって、突然前から聞こえる。



 ビュン!!



 「……!!? アユリさん!? 」



 まさかの友達が二人連続である。

 すごいスピードで光を放ちながらアユリさんが宙に浮いてこちらに向かって来ていた。

 オサムと違って意識はあるようだが、あの様子どうも尋常じゃない。あの状態で落ち着いていろって方が無理かもしれないが……泣いている? 泣いていて……こっちに手を伸ばしてる?


 「……っ!! 」


 ガシッ!!


 彼女の悲しく必死な表情に気付いた僕は通り過ぎる直前に伸ばされた手を右手で掴む。それを彼女も離さないでと言わんばかりに強く握り返してきた。


 「くっ!! 引きずられる……!! 」


 ゾディアック状態にも関わらず、その光の速さに対して踏ん張りが効かない。近くにあった電柱に左手を回してなんとか耐えるが、それでもかなり限界に近い。なにがなんでも戻らせたいと言う強い意志を感じる。


 「いやだ……いやだ……いやだ……いやだ!! 」


 耳を澄ますと、光の中のアユリさんはずっと同じ言葉を繰り返していた。

 明らか自分の状態に驚いている顔じゃない。何かを悲しんで、拒否しているのが分かる。


 「うっ……!! アユリさん!? いったいどうした!!? 」


 僕はなんとか手を離さないようにしながら、心配の言葉をかける。



 「フタリくん、私……忘れたくない!! 」



 ……忘れる? 忘れるって、いったい何を?



 「あなたことも……!! 」



 え……?



 「フタリちゃんのことも……!! 」



 は……?



 「その思い出も……!! 」



 な、何言って……



 「大切な人が……!!



 「大切な時間が……!!


 

 「全部薄れて…… !!


 





 「消えていっちゃう…… 」




 



 「……っ!!? 」


 スルッ…… ビュン!!!!


 限界をむかえた僕らの手が解け、戻り行く彼女は再度高速で離れていく。



 「待って、アユリさん!!!! 」



 だがそんな呼びかけは虚しく、僕は既に遠くなった彼女を眺めることしか出来ない。




 彼女が残した言葉の意味に不吉な予感を覚えながら……


 

 


 

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