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鴉根オサム returns home with me

 


 「なぁ? 恋ってしたことってある? 」


 おい俺、なんだそのファーストコンタクトは?

 

 フタリさん達に見送られての帰り道。

 俺は目的地から姿までの全てが共通しているもう一人の俺と二人で歩き始めたのだが、開口一番がまさかの完全予想外。

 思考回路は共通のはずなのに不意打ちを喰らうとは思わなかった。

 

 「ほぼ初会話だぞ? もっとまともな質問はなかったのか?」


 俺は初対面にしてはデリケートすぎるチョイスに文句をつける。


 「いや、まともな質問と言われてもこれ俺 対 俺の会話なんだぞ。 お前のことで知らないことも、知りたいこともほぼないんだよ。そっちもそうだろ?」


 ……言われてみればないな。全くないな。

 なんたって自分自身だ。何もかも知ってるし、知らないことの方が分からない。

 だがそれを踏まえても……


 「で? なんでせっかく見つけた問いがそれなんだ? まさか恋したことないのか? 」


 「ない。」


 「えっ、ないの!?」

 

 即答された。

 当然だと言わんばかりに。

 でもなぜだ? コイツも俺自身なんじゃないのか? 何もかもが同じじゃないのか?

 確かに俺は”あの人”のことを……

 ……

 ………

 ……………

 ………………そうか、いないのか。


 アッチの世界に”祇峰双凛”は存在してないのか。


 俺の知っている祇峰双凛。

 俺の同級生の祇峰双凛。

 俺の友達の祇峰双凛。

 そして俺が……


 その全員の姿をこの俺は知らない。存在すらしていないのだから、知るわけがないのだ。


 「やっぱその様子だとお前は恋したこと、というより()()()んだな、今。」


 はっきり認めるのは自分相手でも恥ずかしい。

 だって今は思春期なのだ。そんな簡単に素直になれたら苦労しない。

 でもここは……


 「……ああ、してる。ずっと……してるよ。」


 認めるべきだと思った。そうしないとダメな気がした。

 そしてこの答えに目の前の俺は、


 「そうか。それは……良かった。そっちでは俺も……恋できてるんだな。」


 安心したように穏やかな笑みを見せた。

 まるで何かから解放されたように。


 「辛かったのか? 恋しないって辛いのか? 俺と同じならお前もたくさんの女子にアプローチを受けてるんだろ?その中の誰か別の人じゃダメだったのか?なんで今まで……?」


 今の表情を見て俺は思わずクエスチョンマークを連投する。

 ”彼女”の存在がない世界。

 そんな世界をこの俺はどう生きて来たのか? 何を支えとして来たのか?

 それを俺は想像できない。想像もしたくない。だから、不思議でしかない。


 「ハハッ、大袈裟なんだよ。恋なんかなくても別に死にはしない。」


 俺の興奮気味なテンションに反してあっさりと笑い含みで返された。

 まぁ、そりゃそうなんだろうが……


 「”青春は恋が全て”みたいな奴も身近にいるけど、少し友達がいれば学校は楽しいし、映画とかみればドキドキ感も十分味わえる。どうせ恋が苦しいっていう奴も水があれば乾きは潤うし、腹が減れば嫌いなものでも喉を通る。眠れない夜も一晩耐えれば自然と睡魔に襲われる。恋なんて生きる上での必要不可欠からは程遠いんだろうって思うよ。」


 んな感情のないロボットみたいなこと言われても……


 「でも、したくないわけじゃ無かった。不必要とは分かっていても、毎日恋で喜んだり、恋で悩んだり、恋に挑んだりするフタリとか薄明さんを見てるうちに恋に憧れる自分がどこかに生まれてはいた。」


 「なら尚更なんで……? 」


 「さぁ? お前のせいかもな。」


 あの……切ない顔で真剣に話してるとこ悪いけど、それは流石に冤罪だぞ? 今まで俺はそっちの世界に関われてないどころか存在も知らなかったわけだし。


 「いや多分そんなことはないんじゃないか? お前の存在を知ってから思ってるんだが、俺たちの心はどこかリンクしている気がする。」


 「えっ? リンク?? 」


 この俺は何言ってんだ? 自分同士なのについていけねぇ。


 「お前さっき俺があえて恋してないみたいに言ってたけどさ、俺は恋しないんじゃなくて、恋出来ないんだよ。」


 恋出来ない……?


 「うーん、”出来ない”っていうのはなんか違うか。説明しにくいな。なんというか、その、俺の中に”既に恋してる”っていう感覚がどこかにあるんだよ。 」


 既に恋してる……??

 ダメだ。さっきからセリフ復唱しか出来ない。なんだ? 同じ人間なのにあっちの方が頭いいのか?


 「別に誰かを好きになったわけでもないのに俺の運命の人的な枠が何故かもう埋まってる気がするんだよ。だから誰にもときめけない。」


 詳しく説明してくれたからさっきよりは理解できるが……共感は全く出来んな。

 ”運命の人が埋まってる”ねぇ……ん? そういえば薄明さんが前に同じようなことを言ってなかったか?

 なんで薄明さんと同じことを俺が? いや待て、あっち側の薄明さんはさっきの様子を見る限り男のフタリさんに……

 

 「そういうことか。」


 やっと向こうの自分の言いたいことがわかった。


 「つまり理由はわからんが、俺の恋してる感情がお前にも共有されてしまってたわけか。その想い人がそっちに存在していないにも関わらず…… 」


 確かにそれなら俺のせいっちゃ、俺のせいだ。なら俺は……


 「なんか……ゴメン。」


 「謝るなよ。別に恨んでなんかいない。 それ以上にそっちで俺が恋してるって知って安心したんだぞ? 俺自身が恋できないわけじゃないってことが分かって。」


 そうか。そう思うのか。安心してくれるのか。

 それを俺のおかげと言ってくれるなら、罪悪感からは少し救われる。

 でもやっぱり、恋できないという不安に陥れていたのなら申し訳ないと思わざるをを得ない。


 「でも、せっかく申し訳ないと思ってるなら……」


 他人の謝罪をせっかくとか言うな。あっ、本人だからいいのか。


 「お前の恋の話……というよりか俺の知らないあの人の話、聞かせてくれるか? 」


 ハハッ、もう誰なのか察してんじゃねぇか。

 まぁ、紛れもない俺自身なんだもんな。そりゃバレるか。


 だからこそ、答えはもう決まっている。


 この二つ以外にどれだけ並行世界があって、俺という人間があと何人いるかはわからない。

 だが何人いたとしても全員が平等に幸福で、平等に不幸で、平等に俺であるべきだ。

 俺史上最高の幸せを知らない俺なんて見てられない。認めるわけにはいかない。


 「ああ、聞かせてやるよ。お互い赤面必至だから覚悟しとけ。」


 「ハハッ、分かったよ。よろしく頼むわ。」


 その夜、俺は俺に祇峰双凛という恋を伝え尽くした。

 


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