祇峰家 desired future
「ハッ……!! ここは…… 」
眠る直前に起きた出来事を夢として見ていた私は突然目を開く。
見覚えのある部屋、窓から見える久々の夕暮れ、体に付けられたたくさんの機械……
そうか、私……
役割を終えて、目覚めたんだ。
「起きたか、マユコ…… 」
声のする方へ顔を向けると、保育園からの幼馴染で、いつの間にか結婚まで持ち込まれたあの人の顔が見える。
「久しぶりだな…… 」
「セイジさん……老けた? 」
シワの増えた懐かしい顔、そして、常に頭の中にあった顔の一つだ。
「そりゃあ、最後に顔合わせたのが十七年前だからな。」
十七年前……なんとかあの子達が高校生になるまでは世界を維持できたみたい。
「上手くいったの……? 」
私は眠る前に託した、双子達の運命の行方を聞く。
「途中で想定外の戦いに巻き込まれたみたいだが、何とか乗り越えたらしい。後は二人がこの世界にいるかどうかだけだ。」
「そう……ユイガはどうしたの? 」
「今、僕の車で二人を探しに行ってる。」
「車……あの子もいつの間にか、そんなに大きくなったのね。」
免許の存在から、あの子の大きな成長を感じる。
あの時に五歳だったから、もう二十二歳……小さいころから知的だったユイガの事だからすごい大学に進学してそうね。
でも、それを知れなかったことが、見守れなかったことが、どうしても心苦しく感じる。ユイガの成長も、二人の成長も。
「いろんな事たくさんお願いしちゃったり、大変な思いさせちゃっただろうけど、ありがとね……あなたも、ユイガも。」
「君の頑張りに比べれば、大したことないさ。ユイガのおかげで記憶が保てていたのに、二人のこと知らない振りをするのは結構心にきたがな…… 」
「そこまでしてくれたんだ……、二人きりの時間を作るためとはいえ、あの子達自身にもたくさん辛い壁にぶつけさせちゃったね…… 」
「でも、信じてたんだろ? あの子達が強く育って、超常を乗り越えてくれるって。」
「フフッ、そうね…… 」
二人の最後に顔を見たのは、生まれて一日も経たないころ。
そのすぐ後には、自分の精神や生命力を注がないと維持できないという二倍世界のために眠りに就いてしまった。
だから、あの子達がどんな子に育ったのかも、どう育つのかも当然分からなかった。それでも、こんなにも深く信じられたのは自分の子供だから。それに……
「あなたとユイガの傍で育つんですもの、強さも優しさもちゃんと兼ね添えてくれるって分かってたから…… 」
あの子達を信じ、ユイガを信じ、セイジさんを信じた十七年。
その先の奇跡を信じ、世界を二つに保ち続けた十七年。
五人家族が一度でも揃うことを信じた十七年。
だったけれど、私はもう……
「いって……しまうのか……? 」
「ええ、十七年も精神すり減らしたからね…… 」
ゾディアックの力は体力以上に精神力がカギとなる。
そう聞いていたから、私でも世界を維持出来ると判断したけれど、精神の消耗は徐々に体を蝕んでいた……流石に体力も限界かな。
「二人にもユイガにも会いたかったけど、ここまでみたい。世界中の人たちを巻き込んじゃったから、天国に行けるか分かんないけど…… 」
命の限界を悟った私は天井に向けて右手を伸ばす。
「ずっと、あっちで見守ってる…… 」
家族みんなへの愛をその手に乗せて、
「絶対に生きてるって信じてる…… 」
子供たちの将来を願って、
「私はそこにいられないけど…… 」
ここで終わる命を悔しく思って、
「みんなで仲良く、みんなで支え合って…… 」
それでも、二人の命を繋げたことを信じ、誇りに思って、
「素敵な家族であり続けてねっ…… 」
そして、私の伸ばした手は力なく落ちて行く……、
限界を迎えた私の儚い命と共に……
祇峰家の幸せを願いながら……
ガシッ
「ジェミニック・トゥワイス……!! 」
「ジェミニック・トゥワイス……!! 」
「えっ……? 」
力尽きて下ろしたはずの右手が、ベッドに落ちる前に二つの手によって掴み取られる。
「はぁ、はぁ……何とか間に合ったみたいね。」
「倍率を増やしたジェミニック・トゥワイスで寿命を倍にしたから、しばらくは大丈夫なはずだ。」
同時に眠りつつあった私の意識を呼び覚まして。
閉じられつつあった視界をはっきりとさせて。
「あ、あなた達は…… 」
「フッ……父さんは来てくれるって信じてたぞ。二人共。」
私の手を掴んで、こっちを向いていたのは見覚えのない男の子と女の子。
でも、分かる。記憶なんて超えた先の母としての本能が、この子達を知っている。
「初めましてだね…… 」 ギュゥ……
「初めましてだね…… 」ギュゥ……
「フフッ……実は初めましてじゃなくて、十七年ぶりなんだよ……? 」
そう、この二人は、この二人の名前は……
「とっても大きくなったね、フタリとフタリ……!! 」
「ああ、フタリだよっ!! 母さんっ!! 」
「うん、フタリだよっ!! お母さんっ!! 」
「……そっか、生まれてすぐのときは一緒にいてくれてたんだ。」
「ええ、今とは比べられないくらいの小さな体の時にね。 でも、そこから一日たたずに眠っちゃったから……ゴメンね、いろんな事押し付けちゃって、一緒に暮らせなくって。 」
「一緒には暮らしたかったけど、僕らの命を救うための壁を押し付けなんて思わないさ。」
「現にこうやって、二人共同じ世界に来られてるし。謝られることなんてないよ。」
「そう……信じてた通り、ちゃんと生き残ってくれたんだね。世界の排除からも、戦いからも……ところで、なんで体操服? しかも、薄明と鴉根って? 」
「あー、新世界に来るとき、その世界の排除に服を全部とられたんだ。おかげで二人共全裸で外に投げ出されてて…… 」
「それで、一緒にいた友達に借りたの。その子達のおかげで体は通行人に見られなかったけど……あーあ、アンタが私を制服ごと求めてくれればこんなことにはならなかったのに。」
「服を愛するなんて出来るわけないだろっ!? それに僕も裸だったから、お前も人のこと言えないからな。」
「私の場合は、コイツどんな腹筋かなーっていう雑念が混じっただけよ。一緒にしないでっ。」
「するわけないだろっ!? なんで、あのタイミングで兄の腹筋に興味持てるんだっ!!? 」
「ハッ!? まさか、あなたも私の裸を見ようとしてワザと……!!? 」
「いや、全く興味ないからそれはない。」
「何、真顔で否定してくれんのよ。」
「ウフフッ……、もうとっくに仲良しさんなんだね? 」
「どこが…… 」
「どこが…… 」
「違うの? 」
「いや、でも、面白くはあるよコイツとのやりとりは。」
「いや、でも、面白くはあるよコイツとのやりとりは。」
「じゃあ、これからも二人は心配なさそうね……、そういえばユイガは? 」
「それが僕らを見つけて、車でここまで送り届けてくれたんだけど…… 」
「自分は五歳まで一緒にいられたから、初めましての私達だけで話せばいいって言って、どっかに行っちゃった。」
「もうっ、あの子だって十七年間会えなかったのは一緒なのに。いろいろ気を遣って我慢する性格はそのまんまだと思うと、安心するような、心配なような…… とりあえず、あの子と会うのは次目覚める時になっちゃったね…… 」
「ん? 次の目覚め……? 」
「ん? 次の目覚め……? 」
「うん。寿命を増やしてくれたみたいだけど、体のいろんな所がその寿命についていけてないみたい。残念だけど、もう少し眠らせてもらうことになるかな…… 」
「まさか、死んじゃったりしないよね……? 」
「大丈夫、これからは命を懸けた眠りじゃなくて、休息のための眠り。でも、それなりに長くなっちゃいそうだから、もう少しこの子達をお願いね、セイジさん。」
「ああ、任せてくれ。でも、僕のシワがこれ以上増える前には戻って来いよ。今度はユイガも連れて、みんなで来るから。」
「うん、楽しみにしてる。これからも神様の力関係とか学校生活とかで大変なことがあるかもしれないけど、それも全部乗り越えて、楽しい思い出話をまた次の時にたくさん聞かせてね、それじゃあ…… 」
「待ってっ……!! 」
「待ってっ……!! 」
「うん……? どうしたの? 」
「眠る前にちゃんと伝えさせて欲しい。」
「超常が起こる前から、言うって決めてた言葉があるから。」
「二人共…… 」
ギュッ……!!
ギュッ……!!
「僕達の命を繋いでくれてありがとう…… 」
「私達の世界を守ってくれてありがとう…… 」
「僕達を出逢わせてくれてありがとう…… 」
「私達に戦う力をくれてありがとう…… 」
「フタリという、素敵な名前をくれてありがとう…… 」
「フタリという、素敵な名前をくれてありがとう…… 」
「そして、なにより…… 」
「そして、なにより…… 」
「この世界に僕達を産んでくれてありがとう……!!!! 」
「この世界に僕達を産んでくれてありがとう……!!!! 」
「ぐすっ……ええっ!! こちらこそ、生まれて来てくれてありがとうっ!! フタリとフタリっ!!!! 」




