薄明アユリ friend of 双凛
「おはよぉー、双凛ちゃーん。」
5月20日 午前7時半
川沿いを登校中の私の背中におっとりとした声が投げかけられた。
クラスメイトの薄明 鮎璃がいつもの可愛らしい声で挨拶してきたのだ。
さすが私の友達兼マスコット。
その相変わらずキュートなエンジェルボイスは昨日から母親の死について悩み続けていたせいで大きくなっていた心の暗がりを少し晴らしてくれた。
今病院では引き続きお父さんが付き添いをしてくれている。
昨日は私も病院に泊まったのだが、お父さんはお昼に泣き崩れてからずっと放心状態だった。
そんな姿を見て今日は私だけが残った方が良いと思ったのだが、今朝にはいつものお父さんに戻っていて私を学校に行かせてくれた。
無理をさせてしまうが、悲しめない自分がこれ以上病院に止まるのは母親に対して失礼に思えた私はそのまま送り出しの言葉に甘えてしまった。
でもあの状態のお父さんは多分夕方ぐらいまでが限界。喩え失礼になっても学校が終わったら付き添いを引き継いであげるべきだと思う。
そんな風に放課後の予定を決め途中だった私はアユリに
「グッモ 」
と、オリジナル省略挨拶をいつも通りに送り返した……つもりだったのだが、
「あれ? もしかしてお母さんになんかあった? 」
「ブフッ!? 」
まさかのどストレートにピンポイントな発言に思わず漫画みたいに吹き出してしまう。
まだ相談するかしないかを悩む段階にも達していなかったので不意打ち中の不意打ちだ。
「えっ? 何で? 何で一発的中? まだ私挨拶しただけでしょ? まだ3文字ぐらいしか喋って無いのよ??? 」
長年の付き合いを考慮してもクレイジーすぎる的中に対して私は大量のクエスチョンマークをほぼ同時に連投する。
「いや、こないだお母さんの体調が悪くなった時もおんなじような顔してたと思ってね。でもホントだったんだぁ。ふふん! 我ながらすごい推理だったねぇ。」
彼女はメガネのフチを上げながら得意気になって見せる。
「それ推理じゃ無くて勘でしょ?……っていうか私が顔に出やすいのかな?」
アユリの発言を訂正しつつ、一連の流れで生じた疑念を軽くぶつけてみる。
「そだね。ホントわかりやすいもんね、双凛ちゃん。」
「あっ、そんなガッツリ肯定しちゃう?」
そんなことないよと否定してくれること期待していたのだが、それと裏腹展開である。
「だって、振り向かれた瞬間にわかっちゃったもん。」
なるほど。どうやら平然を装うスキルが致命的に欠けているらしい。
……でも、それはもう10年以上友達してるこの子の前だからなのかもしれない。
親友の顔を見れた時も、悩んでる事をあり得ない速さで見抜かれた時も、私の心には余裕が生まれてそれが大きくなり続けていた。
そう、こんな1分も経ってないやり取りの中でかなり大きな安心感を与えられていたのだ。
薄明鮎乃は小学校からの同級生。
何がきっかけだったかなんてもう覚えてないが、今年で11年目かな? それぐらいずっと友達してる。
それに田舎の学校だけあって中学までクラス替えがなかったしね。おかげで文房具並みに身近な存在だった。
また彼女は私達のマスコットでもある。
あまり目立つタイプでは無いけれどそのおっとりした声とふわふわとした雰囲気はいつも私や周囲を癒してくれるのだ。基本的に溜まったストレスはこの子を見る、撫でる、揉む等を繰り返せば跡形もなく溶かせる。
正に究極のマスコットキャラクター。
ただ、そんな属性を魅力的に感じてしまう男子がいないはずもなく、まぁまぁな頻度でアプローチを受けているらしい。
正直みんなのアユリを独占しようとするカスモンキーどもは極刑モンの罪人ではあると思うが、当の本人が
「なんか恋愛欲っていうのいかな? そういうのがあんまり湧かないんだよね。 というより満足してる気もするんだよね。恋人いるわけでも無いのに不思議だよねぇ。」
と、ぶっちゃけ言ってるのか分かんない理由で毎回玉砕させてるので一応見逃してる。(そういう不思議ちゃんキャラが見れるのもたまんないし♡)
まぁ、そんな萌え萌えとした要素が大きいけれど、私にとっては母親のことで度々相談にのってもらえる頼れる存在でもある。
特にアドバイスをくれるとかでは無いけれど、話を聞いてくれる、一緒に悩んでくれる、抱きしめてくれる。
数いる女友達の中でも恥ずかしげなく親友と呼べるベストフレンド。
そんなのはこの子ぐらいだと思うな。
だけど今はあまり相談することに気が進まない。
今までは体調が不安定なるくらいだったけど、今ははっきり母親の死を宣告されている。
多分この子に相談してても困らせるだけに思える。そんな迷惑はかけたくない。
だから、
「流石だね。でも今回もたまにあるやつだから。多分大丈夫だから。心配は大丈夫だから。」
と、それなりにしっかりとした嘘をついたつもりだけれど、アユリはなんか微妙な表情をしている。
明らかに信じてない。
「んー。ま、ほんとに困ったらちゃんと言ってね。力になれるか分かんないけど。」
普段はほとんど見せない真剣な表情だった。
納得してくれたようには思えないけれど、これ以上深掘りはしてこなかった。
私が回避させたというよりは彼女から回避してくれたという感じかな。
こういう気遣いを当たり前のようにやってくれる人間はなかなかいない気がする。
やっぱり、一生モンのいい友達を持った。
そんなやりとりを考えているうちにいつの間にか校門前についていた。
すると後ろから突然
「お、祇峰さん、薄明さん、おっはよぅ。」
私たちより頭ひとつ分大きな背を持つ栗毛の男子が挨拶してきた。




