剣先の挑戦状 reliable back
「ハハハハッ!! まさか水浴びただけでこんな回復するとはなぁ!! 」
真向いの壁で水をかぶった一人の男が耳障りな大声と共に立ち上がる。
せっかく命からがらでぶっ飛ばして、アスファルトにその体を数バウンドさせたとは思えないピンピンさの槍使いだ。
「マジかよ……! 」
「まだ戦うの……? 」
「うえぇ!!? 私の能力、初お披露目で早速敵に悪用されちゃったのぉ~!!!? 」
ご愁傷様だけど言ってる場合じゃないです、アユリさん。
しかし、一体なんで水瓶は弾かれて……?
『おおっ!! ホントに治ったなっ!! 突っ込んでったかいがあったぜ!! 』 ビュン!!
「あっ!! あいつ……!! 」
僕らの後ろから棒状の何かが言葉と共に超速で通り過ぎる。
宙に浮く自立可動ができて、喋る長物なんてこの空間どころか世界でも有数。(干支なら、おそらく十二本。)
その姿を見れば、正体もアユリさんの水瓶を弾き飛ばした犯人であることも明らかだ。
「えぇ!!? あの槍、自分で動けるのっ!!? 」
初見のアユリさんがひとりでに持ち主の元へ戻る午の槍に驚愕する。
「なるほど、フタリの傷が回復していくところを見られてたか…… 」
オサムの冷静な分析。僕もそれに同感だ。
動けなくなった主人をどうにかしようと、アユリさんの回復の水に目を付けたってところだろう。
ガシッ!!
「よく分からんが、ありがとよ疾駆っ!! これで俺様はまだ戦えるっ!! 」 ガシャン
『だが、無理はするなよっ! 全快とまでは言えないからなっ!! 』
馬鹿の槍使いが自分のもとに飛び戻ってきた武器を掴み取り、こちらに矛先を向ける。
アユリさんが覚醒から間もないせいか、水をかぶっても所々にまだ傷が見える不完全体。だが、そんなのお構いなしの完全戦闘態勢だ。
「さてさてさてさてっ!! まだ生きてるみたいだからトドメといこうかっ!!!! 」
「ど、どうすんの? またあの鎧の姿になられたら勝てないわよ……!! 」
妹がトラウマを呼び起こす様に、ここからの展開を危惧する。
僕の負った大怪我にまだ責任と後悔を感じているみたいだ。
「鎧? 槍使いじゃないのか? 」
「あの槍が鎧に変形してハチャメチャに強くなるの。 私も一瞬でやられちゃって……逃げるのが一番かも。 」
妹は武器と話の戦闘スタイルに違和感を覚えた様子のオサムに敵のフルパワーを伝え、逃走を提案する。かなり大雑把な説明だが、僕が話してもあんまり大差はない。僕らの理解が追い付かないほどの強さと速さだったので詳細の捉えようがなかったのだ。
回復しつつあるとはいえ、それほどの敵を相手にボロボロの体でもう一度戦うのは厳しい。何故か後ろで次元の裂け目が出来ているし、彼女の言う通りあそこから逃げた方が……
「そうか……、なら俺の出番だな。」ガシャン
「話聞いてたっ!!? 」
彼女が逃げるべきだと言ったばかりなのに、オサムはそれを無視するが如く担いでいた長い黒剣の先を敵の矛先に向ける。どう見ても戦う意志しか感じないし、そんな構えはもうほぼ果たし状。それを見た戦闘馬鹿はもちろん……
「ほぉ、ただの“呼んで日々いる松の虫”かと思ったがその剣、お前も星のゾディアックに目醒めたらしいなぁ……いいぜっ!!俺様が相手になってやるっ!!!!」
馬鹿丸出しでその挑戦を受けてしまう。
「お、おいっ!! 何考えてんだお前!!? 」
僕は上半身を軽く起こしながら、オサムの選択の意図を問いただす。
「そうだよっ!! 試合とは違うんだよ? そんなの無謀だよっ!!!! 」
敵の実力を身をもって理解している妹もオサムを責め立てる。
「無謀って、アレから背中向けて逃げる方が無謀だろ。しかも、怪我人二人背負ってだぞ? 」
「そ、それは…… 」
「そ、それは…… 」
そうだった……ただ逃げるのだって命懸けなのだ。
オサムの適格な言葉に、戦いを避けることだけ考えていた僕らは二人揃ってぐうの音も出ない。
「薄明さん、俺が戦うからこの二人の治療を頼む。その後に隙があれば逃げてくれると嬉しい。」
「……うん、任せて。」
自ら危険に飛び込もうとするオサムの頼みに少し迷いを見せつつも、アユリさんはそれを聞き入れて頷く。
「でも、気を付けてね。またフタリちゃん泣かせちゃダメだよ? 」
「ああ、分かってる。誰かさんみたいに大穴開けられるのは御免だしな。」
「うるせぇ、皮肉ってる余裕なんてすぐになくなるからな? イケメン面が恐怖で鼻水だらけになっても知らないからな? 」
「ハハッ。親友さん、わざわざ忠告どうも。」
「死なないでね……? 死んじゃ嫌だからね……? 」
「フッ……まぁ、心配するなって。俺はお前ら帰宅部と違って現役バリバリの剣道部員。しかも、運命的に神の力も剣ときた。剣を手にした俺が簡単に負けるわけない。いや…… 勝って見せつけてやるよ。」
今はオサムに槍使いの相手を任せることしか出来ないと渋々理解した僕らはそれぞれの言葉で戦いに送り出す。
その僕らに向けたままの頼もしき背中に無事を祈りながら。
「全国十本の指に入る俺の実力っ!! この蟹座の剣、キャンスラッシャーでっ!!!! 」




