止まらない喪失 world forget フタリ
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「すみません、間違い電話です…… 」トゥルン……
「すみません、間違い電話です…… 」トゥルン……
「またダメか…… 」
「またダメ…… 」
もう、二十件は超えたな……
あらゆる知り合いへ電話をかけながらの帰り道。
親友らだけでなく、父親にすらその存在を忘れられていた僕らは母親に会うことも出来ずに病院を後にした。
肉親からの忘却という普段の日常からは絶対考えられない凶器的出来事は、親友のものとは違うベクトルで僕らの心を抉り取る。既にポッカリと開いていた穴をより深く大きなものとして……
もう、これで立ち直れなくなってもおかしくなかった。
親友以上に長い時間過ごし、17年もの間自分を育て支えてくれた二人のうちの一人に忘れられたのだから、もうこれで立ち直れなくなってもおかしくなかった。
だが……
- ねぇ……、これって一人に戻った人全員が私たちのこと忘れてるんじゃ…… -
この最悪はこれ以上の最悪の可能性を示唆し、僕らに膝をつかせることさえ許さなかった。
僕らのことを忘れていた3人の共通点は距離の近さや大切さだけではなく、既に一人に戻った人間であったこと。それに気づけば自ずと全人類からの忘却が思い浮かんでしまう。
だから僕たちは電話をかけた。
スマホ内に登録してあった今昔クラスメイトの番号に。
同性から異性まで。
先輩から後輩まで。
普段つるんでいた奴らから、連絡先を交換しあってから音沙汰なしの奴まで。
でも……
「まさか、本当に誰ひとり…… 」
本当に誰ひとり僕らを知らなかった。覚えていなかった。
少なくとも一年は同じ学校にいたはずなのに……
クラスメイトだったはずなのに……
昨日まで一緒に授業を受けていたのに……
くだらない話をしていたはずなのに……
そして何より……
僕の声を知っているはずなのに……
トゥルン……
「これ以上は無駄か…… 」
僕は30人を超えた辺りでスマホを耳から離す。
連絡を取ろうと思えば後20人ほどは可能だが、ここまでの全てが空振りとなれば結果は実証されたも同然。それに聞き慣れた声による自分に向けての“誰ですか”はたった一言ながら心に来るものが大きい。これをあと数十人分耐えられるほど僕の精神体力は残されていない。
何か知っているはずの姉貴にも電話してみたが繋がることはなかった。敢えて出ないのか、もう僕を忘れているのかは分からないが……
「なぁ、 お前もそろそろ…… 」
僕は少し後ろで同じように電話をかけまくっていた女の自分に諦めを促す。
オサム達に忘れられた時の反応を見ると、おそらく彼女は僕よりもかなりメンタルが弱い。まぁ、こんな絶望的な状況に置かれた状況では強さも何もないだろうが、僕が今精神的に参りかけているのだから、彼女の心はそれ以上にボロボロなはずだ。でも当の本人は、
「……やだ。」
まだ探し出そうとしてスマホを離さない。
「まだ、覚えてくれてる子いるはずだもん…… 」
「いや、でも…… 」
今までの後ろの声を聞く限り僕よりも速いスピードで、僕よりもに多くの相手に彼女は電話をし続けていた。結果が目に見えているのは僕以上に彼女のはず。これ以上の連絡はただの自傷行為でしかない。
「女子の連絡網なめないでよ……、まだ宇都美先輩の妹とか、中2の時の試合相手の平川達とか、2年前に紹介してもらった永田とか、それに…… 」
女の僕がこれまでにどんな人脈を作ってきたのかは全く知らないが、今名前を並べている未連絡人達との距離の遠さは容易に想像がつく。
「そんな、この忘却現象がなくても覚えているか分からない人間を当てにしても意味がないだろ。」
僕は無謀に出ようとする彼女に現実を突きつけるが……
「そんなのわかんないじゃんっ!!!! 」
「っ……!! 」
彼女が今にも泣き出しそうな震えを纏った声で僕を怒鳴りつける。
「同じ人間のはずなのにあなたはなんで、ずっとそんな冷静なのよっ!! 私は性別が変わると薄情になるのかしらっ!!? 私はこんなにも必死で、こんなにも寂しくて、こんなにも……こんなにも……うう、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん……!! 」
膝から崩れ落ちて泣き出してしまった女の子に僕は返す言葉も、慰める資格もない。
確かに彼女の言う通りだ。
こんなにも絶望の淵に立たされ、その心を肉親や友人達からの喪失で打ちのめされた今も僕はまだ冷静でいられている。彼女のようにどんなに小さい可能性でも自分を覚えている人間を探し出そうとする方が今思えば当然の行動だ。
傷ついていないわけじゃないし、友人達が惜しくないわけじゃない。涙だって今すぐに流したい。もし一人だったら情けなく泣き叫んでいるはずだ。……なのに共に落ち込み続けるもう一人の自分の姿を見ているとまた謎の感情が湧き起こり、涙や激情を引き止める。
この義務感や使命感にも似たこの気持ちは一体どこからやって来ているのだろうか?
少なくともそのきっかけがもう一人の自分であることは分かるのだが……それによって僕の何が刺激されたのだろうか?
この気持ちはこの世界に関係が……?
「うぅ……ぐすっ、ゴメン言い過ぎた……、それに解決まで泣かないって決めたばっかりなのに…… 」
しばらくして泣き止んだ彼女が自分の言動を反省しだす。泣かない宣言ときよりも状況が悪い方向に傾きまくっているのだから、そんな後悔は全くないのに。
「謝らなくていい、本当のことだ。薄情ってわけじゃないと思うが。 」
「そう……でも、やっぱ私諦められない。残ってる子達との距離の遠さは分かってるけど、その分傷つくことはないだろうし、ダメ元でも確認だけは…… 」
ビシッ……!!
ビシッ……!!
「ん……?」
彼女の選択の言葉を遮って、突然何かに亀裂が入るような大きな音がした。
ガラスでも踏んだのかと自分や目の前の彼女の足元を見るがそんな音を発生させそうなものは何も無い。
おかしいな、すぐ近くで鳴った気がしたんだが……
「あれ……? こんなヒビ入ってたっけ? 」
連絡を続けるためにスマホを操作しようとしていた彼女が、その画面のヒビ割れに気付く。ほぼ横真一文字に入った大きな傷。普通に落としたぐらいじゃこんなことにはならない。
「なんでだろ、今さっきまではなんともなかったの……にっ!! えっ!! 何コレ!!? 」
急に彼女が驚きの声をあげる。
「一体どうし…… 」
ビシビシビシビシビシビシッ!!!!
ビシビシビシビシビシビシッ!!!!
「……!!? 」
「……!!? 」
彼女に驚きの理由を尋ねる前にさっきの亀裂音が連続して周りに響き渡る。
そしてそれと同時に僕も彼女を驚かせた衝撃の光景を目撃することになった。
「スマホが……、勝手に割れた? 」
「スマホが……、勝手に割れた? 」
そう。手に持っていただけなのに最初のヒビが独りでに全体へ広がり、画面だけでなくその機器全体を包んだのだ。
「な、何が起きて……まさか僕のも!? 」
亀裂音が二重だったことに気づいた僕は自分のスマホを見てみる。
案の定、彼女のものと同じように見るも無残なヒビだらけの破損状態だった。もちろん破壊した覚えはない。明らかに超常の一部だ。
「あなたのまで……、なんで私たちのスマホが? 人類二倍と関係があるの? 」
「全くわからん……いや、待てよ。スマホ同士ってことは……、まさかコレって……!! 」
僕はこのヒビ割れと人類二倍現象を重ね合わせ、ある推測を咄嗟に思い浮かべる。
だが、当たって欲しくない。間違っていて欲しい。コレが正しいと言うことは最悪はもっと底にあることになってしまう。
だが、無情にもその最悪推測を肯定するするように僕らのスマホはヒビ割れを続けて……
ビシビシビシビシビシビシッ…………パリンっ。サァ………
ビシビシビシビシビシビシッ…………パリンっ。サァ………
その金属製の本体を丸ごと粉々に散らせ、僕らの手から消え失せた。
文字通り跡形も無く、小さな光となって……




