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エキストラ! ~緑楠学園サイキック事件録  作者: 潮見若真
第3部 その一歩を踏み出すためには
81/88

81.白塚刑事、謎の現象に翻弄される。山崎は不審を露わに

 電話に呼び出されて室外に出て行った相方の帰りを待ち、憤然とソファにふんぞり返っていた白塚の耳に、どこか遠慮がちな、可憐なノックの音が飛び込んできた。


 ドアへと視線を走らせた白塚には目もくれず、立ち上がって応接セットに背を向けていた楠見が「どうぞ」と答える。

 顔をのぞかせたのは。いつだったか相原伊織と連れ立って歩いているところを見かけた、美しい顔をした女子高校生だった。


「理事長先生。お茶、持ってきました」

 弾むような軽い口調で言いながら、少女はいくつかのカップを載せた盆を手にし、肩でドアを押し開けて半身を室内に入れる。ドアの横に立っていた、これもなにやら綺麗な顔をした――先日の夜、自分のことを尾行していたらしい――少年が、無言のままドアを押さえて少女を室内に入れた。


「ああ。どうもありがとう」

 楠見は、白塚や相原伊織の座っている応接セットを背にし、横手の窓の外に視線をやったまま答える。


 その後姿ににっこりと笑いかけて、室内に入ってくる美少女。と――。


 白塚は目を疑っていた。

 少女の手にした盆から、ソーサーに載ったカップがひとつ、ふわりと浮き上がったのだ。


(……っ?)


 見開いた目から目玉の落ちそうな勢いで、ふわふわと自分のほうへ近寄ってくるカップを凝視する。そんな白塚には気づかぬ様子で、楠見は窓の外に体を向けたまま、

「ああ、どうぞ。召し上がってください」

 振り返りもせずに勧める。背後で起きている異常事態を察する気配もない。


 ティカップは、ローテーブルまでやってくると白塚の目の前に着地した。


「う、ああ」内心の狼狽は見せずに平常心を保とうと、白塚はそれまでと同じ調子の息をついて。カップに手を伸ばした時。


「はい。伊織くんも、飲んで?」

 少女が可愛らしく首を傾げるのと同時に、もうひとつのカップがやはりふわふわと宙を浮かびながらローテーブルの上にやってきて、相原伊織の前に着地した。


「あ。ありがと」

 伊織はいささか恐縮しながらも、カップが目の前に飛んでくるという不条理な光景を目にした後とは思えない自然な口調で礼を述べ、それに手を伸ばす。


 その自然さに負けじと白塚が、目の前のカップの華奢な持ち手に指を掛けた瞬間だった。

 パシッ――と。小さく音を立ててカップが割れた。


(……な、なにっ?)

 人差し指と親指で摘まんでいる格好になったカップの持ち手を呆然と見つめて、白塚は思わず口をパクパクさせる。

(今、カップが目の前で、弾けて……)


 カップだったはずの陶器の破片は粉々になり、ソーサーの周りに散らばっていた。中に入っていた紅い液体が、テーブルの上と足元の床に水たまりを作る。


「ああ、大丈夫ですか?」言いながらそこで、楠見が背後を振り返った。「少し、動揺されましたかね。さっきの話に」


 仕方がないな、といった微笑みを顔に浮かべる楠見。

「本当に。考えてもみなかった話でしょうからね」


「いや、これは――」この状況で、カップを落とすなどという粗相を犯したと思われては不本意である。「カップが、つまり」


「ん?」

 言い繕おうと言葉を探す白塚に、楠見は訝し気に片方の眉を上げる。

「まさか、カップが勝手に割れた、とでも――?」


「い、いやいや、まさか……そんなことは……し、失礼しました。高級そうなカップを」

 慌てて手に残っていた持ち手部分をソーサーの上に落とし、内心の釈然としない気持ちを隠しつつ詫びる。


「いえ、安物ですよ。お気になさらず」


(くそ――!)


 こともあろうに、この俺を慰めるみたいな言い方を。柔らかく笑みを浮かべる若造に腹立ちを覚えつつも、それよりも目の前で起きた出来事が信じられず、切り返しなど考える余裕がない。

 再び背を向けて窓の外へと目をやった楠見に隠れ、白塚はそっと太い息を吐き出した。


(……まさか、な。そうだ。手が滑ったんだ、そうだった、そうだった)


 自分に言い聞かせているところで、

「あら、大丈夫ですか?」

 美少女が、形の良い眉をかすかに寄せながら近寄ってくる。その手には、あらかじめ準備でもしていたかのようなタイミングの良さで数枚のタオルや布巾が載っているのだが、そのことについて深く吟味する間もなく白塚はまたも唖然と動きを止めていた。


「火傷されませんでした?」

 テーブルの脇に膝をつき、タオルを差し出してくる美少女。テーブルの上では、布巾が勝手に天板の上を動き回って、こぼれたお茶を拭い取っていた。


「……」


 その動きに目を奪われている白塚に、美少女は可憐に首を傾げる。

「刑事さん? これで濡れたとこ、拭いてください」

「あ、ああ……」


 心ここにあらずでどうにか答え、タオルを受け取ってお茶のかかった背広とズボンをポンポンとおざなりに拭くようにする。そうしながら、念のため体を屈めて白塚はテーブルの下を覗きこんでみた。なんの仕掛けもあるようには見えなかった。


(これじゃ、まるで……)


 白塚にも、少年時代はあったのである。漫画を読みもし、アニメを見もし、級友とテレビ番組の話に盛り上がりもした。あの頃にそれらで見たり聞いたりした、これは――


(まさか! 超能力なんてあるはずないだろうが!)


 一瞬でもそんな連想をしてしまった自分を叱りつつ、テーブル周辺を見回す。

 テーブルの上では茶を吸い込んだ濡れ布巾が、今度は割れたカップの破片を集めて隅に寄せ、そこで動きを止めた。


(いや……何か細工があるはずだ)


 白塚はソファから降り、床に膝をついた。その体勢でテーブルの天板に手をついて、また屈みこんで今度は間近から天板の裏を覗く。


「あら! そこまだ濡れてますよ!」

 美少女が声を上げた瞬間、床に近い場所にある白塚の顔のすぐ前を、一枚のタオルが床にこぼれた茶を拭うようにして通り過ぎる。


「ひっ――!」

 思わず小さく声を上げてしまい、タオルを避けて、テーブルとソファの間に尻餅をついた格好になった。


 悲鳴などというものではない、かすかなつぶやき程度のものだったと思うが、楠見は耳ざとくそれを拾いとめてまた白塚を振り返る。そうして心底不審そうに首を傾げ、

「どうされたんです? どこか火傷でもされましたか?」


「い――いや。その……」

「確認してご覧になったほうがいい。手当が必要なら早いほうが。キョウ――」


 楠見は心配そうに言って、入り口ドアの脇に立っている少年へと顔を向ける。

「洗面所にご案内して差し上げなさい」


「ん」

 少年は頷いて、ドアを開けた。

「刑事さん、こっち」


 行動を指図されるような形になるのに抵抗を感じつつも、ともかく一旦この場所から離れたくて、白塚は仕方なく少年に続き部屋を出る。

 少年の背についてたどり着いた洗面所は、L字に曲がった廊下を右に折れてすぐの場所にあった。


「ああ、ありがとう。先に戻っていてくれるかな」

 洗面所の扉を開けながらだいぶ気持ちを仕切りなおし、いつもの鷹揚な口調――になっていたと思う――で言うと、少年は、「ん」と頷いてくるりと踵を返し戻っていった。


 手洗い台の縁に手をついて、白塚は大きく息を吐き出す。

 目の前の鏡に映る自分の姿を見ると、少しばかり落ち着きを取り戻す。

 そうだ。何かの間違いだ。まさかそんなことがあるはずが――。


 思った瞬間だった。


 背後で窓際に一番近い個室のドア周辺が、派手な音を立てて木っ端みじんに砕け散った。







「お嬢、グッジョブだ」

 楠見があおいに向けて、満面の笑みで親指を立てる。あおいは得意げに唇の端を上げた。


「伊織くんも、良かったよ。大役お疲れさま」

 笑顔を向けられて、伊織は強張っていた心がわずかにほぐれるのを感じる。

 白塚の前では緊張のあまりほとんど味の分からなかったお茶が、今度は美味しく乾ききっていた喉を潤した。


 ほっと息をつき、人心地を取り戻してカップをソーサーに置い時だった。巨木に雷でも落ちたような音が聞こえ、伊織の肩はまた跳ね上がった。


 楠見はドアを開けて戻ってきたキョウへと顔を歪めて、

「おいキョウ、お前、何をした」

「ん? ついでにトイレのドア壊しといた」


 額に手を当てて、楠見は大きくため息をついた。

「お前……そりゃやりすぎだ。学校を壊すのはやめろとあれほど……」


「そっか?」不満そうに口をへの字にするキョウ。


 それを額に当てた手の下から横目で見て、

「まあ……カップを壊したのは、よくやった。お前、コントロールの腕を上げたな」


「ん。練習の成果だ」

 キョウは途端に満足そうな笑顔を作った。


「――あとは、向こうだな」

 隣室のドアを目線で示して、楠見はニヤリと頬を歪めた。







「そ、相談って……」


 ガタイの良い男子生徒と日本人形のような女子生徒を従えるように、腕を組んでソファに座っている少年――神月悠に、山崎は不信感を隠しもせずに聞く。


「まあ、座ってください」

 ハルは向かいのソファを勧めたが、山崎はそれを一瞥しただけでハルへと目を戻した。


「このまま聞こう。あちらの話が途中でね。すぐに戻らなくては」

「あっちの話はあれで終わり。ここからが本題です」

「終わりってことはないだろう? 妙な話でけむに巻かれたままなんだよ」


 彼らに話しても仕方ないだろうが、腹立ち紛れにそう言っていた。するとハルは、万事心得ているとでもいうかのように、にっこりと笑う。


「犯人は相原哲也くん。火をつけたのは彼の発火能力。動機は両親との言い争いから、能力のコントロールを失って。――相原家の火事に関して伊織くんが知っているのは、そのくらいです。彼の話はもう終わりです」

「そうはいくか! そんな話が警察に通用するわけないだろう!」

「通用してもしなくても、そうなんだから仕方ない」


 目を大きくして軽く肩を竦めたハルに、山崎の苛立ちは募る。


「……そういう話だったら、俺は向こうに戻らせてもらうよ」

「だけど、向こうじゃできない話があるんです」


 ドアに向けて足を進めかけた山崎の背中に、ハルが声を掛けた。


「哲也くんから掛かってきた電話のこととか」

「……なに?」


 肩越しに振り返ると、微笑みをしまってこちらをじっと見つめているハル。

 彼は、山崎に視線を据えたままソファの上に置いてあった一台の携帯電話を取り上げた。


「これ。相原伊織くんの。さっき借りました。見せようと思って」

 ひとつふたつボタンを押して、着信履歴の残る液晶画面を山崎に向ける。


 表示されたのは「公衆電話」の文字。

 次にハルの発した一言に、山崎は目を見開く。


「これ、哲也くんから伊織くんに掛かってきた電話です」

「は……! なんだと! きみ、それは――」


 慌てて携帯へと伸ばそうとした山崎の手をかわすように、ハルはひょいとその電話機を高く掲げた。


「おととい――ああ、日付的には昨日ですね。金曜日の午前二時過ぎ。哲也くんはどこか公衆電話から伊織くんに電話を掛けてきた」


「ちょっと待ってくれ」強い口調で繰り返した。「相原哲也からの電話を受けたって? さっきはそんなこと一言も……」


「すみません。ここから先は話が厄介になるので、あっちの大きな刑事さんに聞かれると面倒だなって」

「面倒って……」

「ちょっと急いでいるんです。一連の事件の背景から、理解してもらうまで説明している時間はない。だから、それに触れそうな部分は端折はしょらせてください」

「ど、どういうことなんだ、それは……きみたちは、『一連の事件』について背景まで知っているっていうのかい?」

「そう聞こえませんでしたか?」


 落ち着き払って言うハルに、山崎は一瞬言葉を失う。


「なので、話を進めさせてもらいます」

「ちょっと待て! その……電話の要件は」

「前に刑事さんたちの言っていた、『伊織くんに伝えたいこと』。それを言うために、連絡を取ってきたんでしょ」

「彼らは連絡を取ることができないと聞いていたはずだぞ? それがなんで今――」

「状況が変わったんです」

「そんな説明で済むか! もういい、向こうで相原くんから直接話を聞くよ」


「無駄ですよ」ハルは眉を上げる。「聞いたって理解できるもんじゃないと思うから。ああ、公衆電話の場所を電話会社に照会するなら、番号は教えます。どうぞ、調べてください。ただし、そこを調べても哲也くんは捕まえられませんよ。警察には哲也くんを捕まえるのは、無理です」


 断言するハル。


「な、……なぜだ」

「さっきの話を聞いていなかったんですか?」


 呆れたような声音で、ハルは言ってソファの背もたれに背中を戻す。


「哲也くんは、念じただけで家を一軒焼き払えるほどの火を発生させることができる。そんな人間を、普通の人間が取り押さえることができますか?」

「……」

「しかも、それ以前に、彼はテレポーテーションの能力を持ってるって。聞いてました? 警察に見つかったってなったら、その場から消えていなくなりますよ。捕まえられるわけないじゃないですか」


「ば、馬鹿な!」

 山崎はほとんど叫んでいた。

「超能力だと? そんな話を信じろっていうのか?」


「信じるのも信じないのも、ご自由にどうぞ。でも、それを前提にしないと説明のつかない部分があるんじゃないですか?」


「馬鹿な……」

 無自覚に、繰り返していた。


「火がついた原因は? 発火場所は? あれほど早くに家が一軒全焼までした理由は分かりましたか?」

「それは……いま捜査しているところだし、分かったところで、きみに教える義理はないよ」

「それなら」


 ハルは視線を鋭くして、

「哲也くんが、どうやって現場から逃げたのか」


「……なんだって?」


 それこそは、今もっとも警察を悩ませている問題――けれど、なぜそれを知っている? 事件の詳細は、報道もされていなかったはずだ。

 憮然と吸い寄せられるように目の前の高校生を見つめる山崎に、彼はかすかに目を細める。


「警察の『科学的な捜査』で、それらに説明が付くのかな」

「つ、付くさ。そのために今、捜査を進めているところだ。こんなおしゃべりに付き合っている暇は俺たちにもないんだよ」


 ぴしゃりと言うと、ハルは「ふう」と大げさに鼻から息を吐き出した。


「あっちの刑事さんよりはハナシが分かるかと思ったんだけど……まあ仕方ないな。これも想定内だ」

 また軽く肩を竦めて。それからハルは、軽い調子で両手を開いた。

「でもね、これは刑事さんたちだけの事件じゃないんですよ。いずれもっと広範囲な事件と繋がる。もうすぐです」


 山崎は満面に訝しさを浮かべてその少年を睨む。

「……どういうことだい?」


 眉を寄せながら、思わず聞いていた。茶番の続きだ。どうせ下らないことを言い出すに違いない。心の中ではそう思いながら、少年の確信的な口ぶりに、つい反応してしまったのだ。


「燃焼促進剤。見つからなかったでしょう? 相原家の火災現場から」


 その言葉に、山崎は動きを止めた。


「不思議不思議。火のついた場所も原因も分からないのに、家を丸ごと一軒焼き払うほどの火事になった。ガソリンも油もなしに、ですもんね」

 視線を斜め上にやって軽い調子で言うハル。


「なぜそれを……?」

 そのことについても、報道では触れられていなかったはずだ。


「同じような事件が、都内でも数件起きているんです」

 ハルは山崎の疑問を無視して続けながら、目の前のテーブルの上に大きな紙を広げた。

 東京都の地図だ。白地図に、ところどころ印がつけられている。


「三月の上旬からです。八王子。青梅。それに」ひとつずつゆっくりと指さしながら、「大田区蒲田。少なくとも三件は、空き家が全焼している。相原家と同じ。家全体が突然火に包まれて、あっという間に燃え落ちる。消防車も間に合わなかったそうです。こちらは幸いけが人はいませんでしたが……似ているでしょ? しかも三件とも、燃焼促進剤は未検出。火元は不明。もちろん未解決です。被疑者さえ浮上していない」


「きみは……なぜ、そんなことを?」

「調べていたんです」


 なんでもないことのように、ハルは軽く答えた。


「刑事さんたちが最初に話を聞きにくる前。ううん。相原家の火事が起きる前から」

 ハルは前屈みになってテーブル上の地図に両手を置いて、目線だけ山崎に向かって上げる。

「都内で起きている不思議な火事について、調べていたんです。相原家の事件があって、確信しました。都内での三件の空き家火災を起こしたのは、相原哲也くんだって」


 不審を露わに、眉を寄せながら山崎はハルの手の下にある地図に目を落とした。

 ハルは三か所しか示さなかったが、地図上にはほかにもいくつものマーキングがある。

 山崎の関心に気づき、ハルは山崎に見せるように地図から手をどけた。


「どうして俺たちがそれを調べていたのか。哲也くんがなんのためにこれらの事件を起こしたのか。そこらへんは、今は話しません。理解してもらえないと思うから。とりあえず、こちらの分かっていることだけ、起きたことだけをお話しします」


「ちょっと待ってくれ。理解してもらえないって? そこの説明を聞かなけりゃ、今の話が信用できるかどうか判断できない」

「言ったでしょ? 時間がありません。今だって白塚刑事さんが聞きに来ちゃったら話が面倒になりそうだし、それでなくても俺たち急いでるんです。まず聞くだけ聞いて、信じるか信じないかは、帰りの車の中でもお風呂の中でも寝る前でもゆっくり考えればいい」


 ハルが目を上げた瞬間だった。

 唐突に、雷でも落ちたかのような大きな音が響き渡り、山崎はびくりと背後を振り返った。


 それまで黙っていた藤倉が、同じようにドアの外に目を向けて、

「ちゃー。なーにやってんだ、あいつは」


「はあ」ハルは嘆息し、顔を歪めた。「建物は壊さないようにって言ってるんだけどねえ」


 山崎は首を戻し、まったく動揺する素振りのない三人を怪訝に見回す。

「……なんだ? 今の音は」


「さあ」困った顔で肩を竦めるハル。「トイレのドアでも壊したんじゃないですかね。この階であんな音立てて壊れそうなものって言ったらそのくらいだし。たぶん今頃、向こうで楠見に小言を食らってますよ。それよりこっちの話、続けましょう」


 今の音になどまったく興味ないというように、マイペースに地図に目を落とすハル。

 副理事長の名を呼び捨てにしたことが気になったが、咎める前に彼は続きを話しだした。


「哲也くんが起こしたと思われる、都内での火事の話です。おそらくこの、この三件だけじゃない。都内だけでもない。神奈川でもあるかもしれない。相原家の事件にも……それに哲也くんの捜索にも、大きな関係のあることです」


 きっぱりと言い切ったハル。茶番だ(、、、)どうせ(、、、)下らないことだ(、、、、、、、)。そんな分別は、その強い眼差しに一瞬どこか頭の隅のほうに追いやられて。せめて精いっぱいの強がりで、


「聞くだけ、聞こうか」


 せいぜい気のないような口ぶりで言ったつもりだが、ハルは微笑んだ。


「座ってください。首が疲れちゃうし、地図も見せにくいから」


 言いなりになるのも気が進まないが、たしかにそのテーブル上の地図には気持ちが引かれ、仕方なく山崎は示されたとおりハルの向かいに腰を下ろした。

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