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望まぬ不死の冒険者  作者: 丘/丘野 優
第9章 下級吸血鬼

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第134話 下級吸血鬼と部屋

 鉱山ミナゴブリンの解体だが、採れる素材はたかが知れている。

 武器と防具、それに魔石くらいしかなく、それ以外は活用の方法がない。

 後は右耳を切り取って行けば討伐報酬がもらえるくらいだが……今は討伐依頼が出ていたかな。

 冒険者組合(ギルド)で見た記憶がないので、おそらくは無駄だが、一応持っていくことにした。嵩張らないし。

 武器と防具については、鉱山ミナゴブリンがこの岩山の坑道において《魔鉄》を採掘し、鍛えて作り上げたものだが、その冶金技術は正直、大したものではない。

 《魔鉄》の精錬も武具の鍛造も中途半端で、サイズも鉱山ミナゴブリンのものであるから、持って行っても大した値段にはならないだろう。

 まぁ、せいぜい素材として再度、溶かして使うくらいだろうが……改めて精錬しなければならないだろうし、そうなるとただ《魔鉄》入りの鉱石を持っていくよりも安い値段になる可能性が高い。

 これは放置だな、と決める。


 魔石についてはそこそこの大きさと質であるため、これはしっかりと採取しておくことにする。

 短杖ワンドの素材としても使えるだろうし、それが無理なら売却してもいい値段で売れるからだ。

 こんなところかな……。

 

 俺は改めて坑道を歩き出す。


 ◇◆◇◆◇


 大分深いところまで来た、と感じたのは、空気の淀みが強くなってきているように感じられるからだ。

 坑道の常で、有毒なガスなどがここでも発生しないわけではない。

 それほど頻度は高くないが、たまに有毒ガスが大量に充満して立ち入り禁止になることもあると聞いた。

 今はそういった注意は冒険者組合(ギルド)から特に出されてはいないものの、全くガスが出ていないと言うことは保障されていない。

 つまり、今ここにおいて、おそらくそう言ったガスが多少出ていると思われる。

 ただ、俺はこういった毒には滅法強い。

 毒関係は全くの無効だからだ。

 下級吸血鬼レッサー・ヴァンパイアになってもその強みは全く失われず、こういうときもさくさく進んでいけるこの体はありがたい。

 

 とは言え、どこまでも万能という訳にはいかないらしいのは、再生の件で分かったことだが……。

 最近、不死者アンデッドだから、と思って普通なら死にそうな行動をとっても大丈夫、という意識が強すぎたかもしれない。

 危機感が希薄と言うか……これくらいじゃまだ死なない感が凄くあるのだ。

 不死者アンデッドになったからなのか、それともただの過信なのかははっきりとは分からないが、ここは過信だと思って、しっかりと安全を確認しながらやっていくことにしようと思う。


 そんな俺の目の前に、今、大きな扉が出現している。


 ――さて、どうしよう。


 というわけなのだが、どうしたらいいだろうか?

 明らかにこの向こうにはボスがいるなぁ、という感じなのだが、入ってもいいだろうか。

 不死者(アンデッド)的な感覚で言うのなら、さぁ行こう今すぐ行こう、なのだが、昔の感覚で言うのなら、いや、やめておこうぜ、もう少しこの辺の魔物と戦って、地力を上げてから勝負が安全なんじゃないか、なのだ。

 しかしなぁ……行けそうなんだよなぁ。


 よし、行こう。

 危なかったら戻ればいいのだ。

 流石に第四階層で脱出不可能型ということはないだろう。

 そういうのは、四十層を越えたくらいから、というのが一般的だ。

 まぁ、以前《水月の迷宮》でのことを考えるとその常識が絶対的に正しいとは口が裂けても言えないのだが……あれはあくまで特殊な例だ。

 別にあのときのように、隠された通路があり、転移魔法陣が設置してあって……というような状況ではなく、単純にボス部屋ですよと主張する扉が目の前にあるだけなのである。

 これは、特殊な部屋ではない。そうに決まっている。だから大丈夫……。


 と、俺は自分に言い聞かせ、扉に触れてしまった。

 不用意かな……という不安はぬぐえなかったが、十中八九、これは問題ないボス部屋である。少なくとも逃げられるタイプだ。

 しかし俺自身の不運体質のゆえに、なんだか違うかもしれない、という気がしているだけだ。

 冒険者をしている以上、多少のイレギュラーが起きる可能性は常にあり、それをいつも気にしていては究極的には何もできなくなってしまう。

 だから、いいのである……そう、俺は間違っていない……。


 そう思いながら、俺はごごごご、と重い音を立てながら開く扉を見守ったのだった。


 ◇◆◇◆◇


 推測は間違ってはいなかったな。

 扉の向こうを覗き、俺はそう思った。

 ただ……扉の向こう、部屋の中心に鎮座しているボス魔物モンスターが問題ではあった。


 てらてらと光る鱗、四本足で地に足をついたその巨体、頭部に生えた鉱石で出来た角……。

 いずれもその存在の強力さを示していて、なるほど、戦って楽勝だな、とはとても思えない相手だったのだ。


 ――地亜竜テラ・ドレイク


 竜族の下位種族である亜竜(ドレイク)、その中でも地下を住処とする存在がそこにはいた。

 下位種族とは言え、それは竜族なのだ。

 一般的に言って、かなり強力な魔物の一種であることは間違いない。

 第四階層で出るような魔物か、と言われると……微妙なところだ。

 というのも、部屋の中心にいる地亜竜(テラ・ドレイク)のサイズはあまり大きくない。

 いや、俺と比べれば遥かに巨大ではあるのだが、通常、成体とされるサイズのものと比べると、大体四分の一ほど、つまり四メートルくらいなのである。

 あれなら、俺にも何とかできるのではないか。

 そう思わせる、絶妙なサイズ感であった。

 基本的に竜族は、長く生きれば生きるほど大きくなり、また強くなっていくと言われており、あの大きさなら、まだそれほど強力ではないはずである。

 だから……というわけだ。


 俺はよくよく考えて、扉を見ている。

 あまり分厚くなく、いざとなれば叩き割ることも出来そうな厚みである。

 ということは、このボス部屋は脱出不可能型ではない、と思っていいだろう。

 まぁ、特殊な素材であって、破壊がかなり難しいという場合もなくはないが、周囲の岩と比べて特別な様子はなかった。

 初めから逃げることを考えるのもどうかと思うが、いざというときの対策は大事である。


 これなら……いいだろう。

 そう思った俺は、ゆっくりと部屋の中に入っていく。

 中心近くに向かっても、後ろの扉が閉まる様子はなく、やはり逃げようと思えば逃げられるようだった。

 俺はそのことに深く安心しつつ、剣を抜いて、そこに魔力を込め始めた。


 四つん這いでこちらを見ている地亜竜テラ・ドレイクはまだ、動かない。

 俺を観察しているのか、それとも俺が近づくまでは動かないようになっているのか……。

 ともかく、これなら先手を取れそうに思われた。

 俺は徐々に速度を上げ、そして走り始める。


「グルギャヤァァァァァ!」


 という耳障りなが叫び声が、耳に入ったが俺は足を止めない。

 俺はそのまま地亜竜(テラ・ドレイク)の頭部を狙って、剣を振りかぶった。


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新作 「 《背教者》と認定され、実家を追放された貴族の少年は辺境の地で、スキル《聖王》の使い方に気づき、成り上がる。 」 を投稿しました。 ブクマ・評価・感想などお待ちしておりますので、どうぞよろしくお願いします!
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