1代目 22
まったりとした時間。
ソファーに寝そべる俺の横にはテーブルと、その上には半分程残ったコーヒー。
軽く目を閉じると聞こえて来る正確な時計の秒針。
寝るな、と言う方が無理な話だ。それなのに、毎度の事ながらやって来る悪魔の一言。
「寝るんですか?だったら……」
笑わせてみろ。
「笑ったらアカンで」
ソファーの前に正座して、真正面から俺を見てくる真剣な目を見つめる。
「はい!」
勝負だ。
「昔々ある所に、お爺さんとお婆さんと桃がありました」
「ふっ……」
早っ!
「笑った」
「今のはセーフですよ!セーフ」
そのルールの基準はなんだ?今のは完全にアウトだと思うが……まぁ、まだ話し初めだし良いか。
「……お婆さんは桃をパカンと割りました」
「はい」
「すると中から猿と犬とキジと桃が出てきました」
「桃……」
グッと唇を噛んで笑いを押し込めようとしている1代目。そこを畳み掛けるように話しを続ける。
「お爺さん、お婆さん、それでは僕達は鬼退治に行ってきます。と、猿が言いました」
「ふ……」
笑っている。だけどまだ弱いか?指摘してしまうと話が止まってしまうから、もう少し続けよう。
「……しかし桃は歩けませんので……」
「ぶっ!」
吹き出した。これは誰が見たって完全にアウトだ!
「笑った」
「えぇ~。続き……」
そんなにこの話の続きが気になるのだろうか?
「次やな」
とは言ってみたが、続きなんて考えていない。それでもソファーに横になると物凄く期待に満ち満ちた顔で見られるのだ。
「……笑ったらアカンで」
「はい!」
何も考え付いていないがとりあえず話し出してソファーに座ると、1代目もいつものように正座した。
「昔々ある所に、お爺さんとお婆さんと桃がありました」
「初めから?」
途中から話し出しても世界観って言うのか、想像?出来ないと、面白くも何ともないと思う。だから初めから。
「……お婆さんは桃をパカンと割りました」
「はい」
同じ所で、また笑ってくれると助かるのだが……
「すると中から猿と犬とキジと桃が出てきました」
「はい」
そうはいかないらしく、1回目の時は笑いを堪えていた所で1代目は無表情だ。
「お爺さん、お婆さん、それでは僕達は鬼退治に行ってきます。と、猿が言いました」
「は、はい……」
あ、ここは2回目でも少しは面白いのか。
「しかし桃は歩けませんので……」
「ふっ……」
「桃は猿が背負う事になりました」
「はい」
「しばらく行くと、お腹が空いてきました。猿の背中……」
「桃ぉー!!」
ビックリした……。
「叫んじゃいましたか」
「あ。ふっ、あははははははは」




