毛むくじゃら 22
先週は片頭痛のせいで花見が出来なかったので、日曜日に大きな公園まで行こう。と言う事になっていた。
テクテクと歩いて辿り着いた公園には様々な種類の桜の木がある……筈なのだが、如何した事なのか、その木々には薄ピンク色の花ではなく、青々とした葉が咲き乱れているではないか。
先週大阪に出ていた大雨洪水警報、激しい雨と共に花も流れ落ちてしまったらしい。
「葉桜!」
と言う事で急遽予定が変わり、毛むくじゃらと2人で買い物に行く事になった。
こうして駅前にあるショッピングモールに向かい、真っ先に目に入ったファストフード店の看板。
たまには、フライドポテトが食べたいな……。
そう強請るよりも先に少々人相の悪い目が俺を見てくる。
「なんやって?」
まだ何も言ってない。
「喉渇いたなー。座って何か飲みたい」
ガコンッ。
俺達はショッピングモールに入る前に自動販売機でジュースを買い、ベンチに座って飲んだのでしたとさ。
次は、少しお腹が空いたとでも言ってみようかな?
「飲んだ?」
グイーッと自分のジュースを飲んだ毛むくじゃらがそう言いながら手を伸ばしてくるから、俺はまだ半分ほど残ったジュースの缶を渡した。
「もう飲まれへん」
「な?店入っても1人前絶対無理やろ?」
満足げに俺の分のジュースまでグイーっと飲み干すから、何か言い返したいのに何も言えない。
毛むくじゃらの言う通りだ。今の俺ではバーガーセット1人前は難易度が高い。
「ポテト美味しいのになぁ」
「じゃあ美味しいの作って」
ファストフードのポテトが食べたいって言ってるのに、作れって発想が可笑しいわ!しかも、なにを簡単そうに言ってんだ?それなのに、美味しいと言わせてやりたいって思う俺も何処か可笑しい。
「帰りジャガイモ買お。覚えてて」
物忘れが酷いのは相変わらずなので、毛むくじゃらが一緒にいる時は変わりに覚えてもらっているのだが、
「じゃあ先に100均見に行こか。何か欲しいって言うてたやろ?」
こうやって俺の脳を試すような事を仕掛けてくる。
確かに100均で何かが欲しいと言った覚えはある。それが何だったのかは見当もつかないが……。
店内を見ている間に思い出すだろうとウロウロしてみるが、欲しいと思うものはあっても、前から欲しかったという感じではない。
俺は一体何が欲しかったんだ?
何週か店内をウロウロしてみるが、不審者レベルが上がるばかりで特に思い当たる商品はない。
駄目だ、降参。
答えを聞く為に毛むくじゃらを探して暫く、若い女性の声が聞こえた。
「あの……」
「あ、え?なんですか?」
話しかけられたのは毛むくじゃら。
「日本地図……」
女性はそう言って毛むくじゃらに熱い視線を送っている。
「……え?」
しかし、いきなり日本地図と言われても困ったのだろう、毛むくじゃらは毛むくじゃらで女性を凝視した。
「いや、あの。日本地図は何処に……」
女性はシドロモドロ説明し、それから察した毛むくじゃらは何度か手を左右に振りながら、
「ちょっと分かんないです。店員じゃないんで」
と。
「え!?あ、すいません」
そして女性は何度か頭を下げて去って行く。可笑しいのは、去っていく方向には確実に店の名前が入ったエプロンをしている店員がいるのに、女性は日本地図の在り処を尋ねなかった。
もしかして、斬新なナンパだったのだろうか?
だとしたら軽く冷やかしてやりたい所ではあるが、その女性が店内にいる間は何も言えないので、極々自然に毛むくじゃらに話しかけた。
「俺は何が欲しいん?」
しかしその内容は、不自然極まりない。




