俺 13
バイト中、ホール係りである男性とお客さんもいない店内のカウンター席に座り、コーヒーを飲みながら繰り広げられているのは、実に優雅で贅沢なアフォな会話だったりする。
人見知りの激しい俺が短期間で“あだ名呼び”出来たこの男性は、自分の事を時折「ジジイ」と呼ぶ。それを真似て「ジィジ」と呼ぶようになったのだが、男性のあだ名はそれだけじゃない。
男性は、俺がなんと呼びかけても返事をする。
おじいちゃん、おばあちゃんは勿論、オッサン、オジサン。オバサンも、オヤジでも、オカンでもママでもパパでも返事をしてくるのだ。
そのせいなのか、男性も俺を色んな呼び方で呼ぶ。
呼び捨てだったり、君呼びだったり、ちゃん呼び、たん呼び。おにーちゃんや、おねーちゃん。じいさんやばあさんまで。
ようは、その時の気分で適当に呼ぶだけ。
それなのに、呼ばれている時に気が付くのだから凄いのか、凄くないのか……。
そして、ある時男性が、
「シルバーアクセを綺麗にしたいんやけどな」
と、話し始めた。
なのでアルミホイルと天然の塩で煮たら良いよ。と、持っている知識を披露したのだが、少し疑問に思って言葉を続けた。
「シルバーアクセとか着けるん?」
すると男性は耳たぶを指し示してくる。そこにはキラッキラしている銀色のピアスが1個。
ピアスは綺麗なのだが、何と言うか……変。
「アルミと塩やな、試してみるわ」
男性の肌は小麦色に近いので、シルバーよりもゴールドの方が似合いそうだし、キラッキラしているのは男性には少し若い気がする。
そんなにゴツくはないゴールドの何か……レザー系も似合うかも?と、思いを込めて、
「シルバーよりゴールドの方が似合うと思う」
と、おせっかいな事を言ってしまった。
シルバーの方が好きなのかも?キラキラしているのが好きなのかも。それなのに、否定してしまった。
またやってしまった。
仲良くなると平気でこんな事を言ってしまう悪い癖は、どうやったら治るのだろう?
居心地が悪くなった所で、男性はゆっくりとしたスピードで俺の頭をチョップした。
「誰が金歯のジジイや」
と、言いながら。
男性のあだ名が、1つ増えた。




