第8章 雨の長夜にすることは…(4)
「あ、今日は非番の人は島原で宴会っすよ」
早太郎くんがニコニコしながら僕の部屋に来た。
「角屋で派手にやるっていうんで、楽しみっすね」
何が起こるか察した僕の頬がぴくりと引きつる。日付は覚えてなくてもイベントは覚えているわけで、多分、それが今日だ。
うーん。残るのもどうかと思うけど、お座敷に行くのは嫌だなぁ。
第一、彩乃をつれて行きたくないんだよね。酒が入るとみんな下品になるし、そばにいる女性を触りまくるし。あんなの彩乃に見せたくない。
「うっ、アイタタ…」
僕は突然お腹を抱えてしゃがみこんだ。
「どうしたっすか」
早太郎くんが慌てて、僕の背中をさする。
「いや、なんかいきなり、お腹が…うー。痛い。痛い」
「えっ! え…えっと。薬? 薬がどっか」
「いい。薬いらないから、部屋までつれっていって」
そう言って、僕は早太郎くんの肩を借りて、よろよろと自分の部屋に戻る。部屋まで行くと、彩乃が怪訝そうな顔をして出てきた。
「お兄ちゃん?」
早太郎くんが慌てて言う。
「彩乃ちゃん、早く蒲団敷いて!」
「あ、はい」
急かされて訳も分からないまま蒲団を敷く。そこに僕は横たわった。
「と、とりあえず、大丈夫だから。早太郎くんは、みんなと行って?」
そう苦しそうな息で言うと、早太郎くんは僕と彩乃を見比べて、そして頭を下げた。
「はいっす。彩乃ちゃん、あとお願い。みんなには言っとくっすから」
「あ、はい」
何をお願いされたか分からないまま、とりあえず了承する彩乃。
ナイス、早太郎くん。これで彩乃も行かなくて済む。いい仕事をしてくれたよ。
ばたばたと去っていく足音を聞いてから、むくりと起き上がる。
「お兄ちゃん?」
「仮病」
「なんで?」
「今日の角屋の宴会に行きたくないから」
そのとたんに彩乃がくすくすと笑いだす。
「お兄ちゃん、子供みたい」
え~。彩乃に言われたくない。




