第6章 政変…のはずですが(3)
斉藤の後ろについて誰もいない道場に着いた。斉藤はど真ん中に立って僕を見つめると言った。
「お前の体術を教えてもらいたい」
…。
それ、人に物を頼む態度じゃないんだけど(笑)
「頼む」
あ、お願いされた。
うーん。どうなのかな。あまりにも細かく教えちゃうと、拙いかな。
ま、いいか。
「いいけど、交換条件が2つある」
そう言ったとたんに斉藤の顔がしかめられる。でも無視して僕は言葉を続けた。
「この体術は一子相伝なんだ。教えたって知られたら、僕が師匠から殺される。だから、一つは君から誰かに教えたりしないこと。それと…もう一つは代わりに抜刀術? 教えてもらいたい」
稽古のときに見ていて、斉藤って剣を抜くの早いんだよ。一刀目に抜いて斬りつけるまでがとにかく早い。どうやらそれは抜刀術というらしい。よくわかんないから疑問形になっちゃったんだけど。
「承知した」
おお。無表情で承知されちゃったよ。
「じゃあ、危ないから刀を置いて」
斉藤が無言で刀を置く。そして僕の前に立った。まずはどのぐらいできるか、基本動作をやってみて確認しよう。柔術とか結構色々やってそうだし。
「僕がやってみること、真似してやってみて」
僕は構えてから、足を軸にしてくるりと方向転換してみせた。
斉藤はじっと見ていたと思うと、すっとやってみせる。
うん。やっぱりこういうことはすぐに真似できるよね~。
受身もOK。膝行と呼ばれる、座ったまま歩くような歩き方もOK。
「なんの意味があるんだ。これは」
「あ、どのぐらいできるか確認してるだけ」
そう答えたところで、斉藤の機嫌が悪くなる。もう~。すぐに実戦に行きたがるんだから。まあ仕方ないか。そういう時代だもんね。
僕が立ち上がると軽く膝を屈伸させた。よしよし。じゃあ、行きますか。
「じゃあ、そこに立って。こうやって僕に殴りかかってきて。それで僕がまずやってみせるから、何をされたかよく見てて」
斉藤に手を振り上げる形で殴りかからせて、それを捉える。次の瞬間、彼は床に転がっていた。
「なんだ。今のは」
あ、しまった。ついうっかり、殴りかかってきたのと同じスピードで技を返してしまった。
「ごめん。次はゆっくりやって。そうしないと、こっちもつい早くやっちゃうから」
そういって、もう一回来てもらってから、解説しつつ、斉藤を床に転がす。
途中で踏ん張ろうとしていたけど、残念ながらすでに重心が崩れているので、反抗むなしく斉藤はそのまんま床に転んだ。
「相手の重心を崩すのが、この体術の特徴なんだよ」
そういって、僕は斉藤に合気道を教えた。
うん。やっぱり身体の使い方がよくできてるから、動きを覚えるのも早いよね。余計な力がまだ入ってるけど、すぐに上手くなりそう。
ちなみに僕としては、斉藤に教えるのは合気道だけと決めていた。僕自身は他にも色々できるけど、この時代に西洋武術を教えるっていうのはどうかと思うしね。まだ未来とは言え、日本の武術をベースにしたほうが影響はすくないんじゃないだろうかっていうところだ。
え、それなら教えるなって? あはは。その通り。
でもさ、真剣なんだもん。斉藤の目。なんか教えたくなるじゃない。




