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Red Eyes ~ 吸血鬼の落ちどころ ~  作者: 沙羅咲
特別番外編 I I
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間章  制裁(1)

------- トシ視点 ----------


 大広間に半円を描くようにずらりと並んだ一族の真ん中に、数人の男たちが腰に鎖を巻かれ、手錠をつけられて連れ出されてきた。人間の窃盗団に襲撃の手引きをした奴らだ。


 一族の新参者としては、何が起こるかは知っておきたい。だが万が一のことを考えれば、処刑風景なんて女子供に見せたいもんじゃねぇ。


 俺はついてくると言ったルイーズを言い含めて部屋においてきた。総司の隣にも彩乃はいない。同じ心境かと思ってちらりと見れば、視線が交差した。


 時刻は夜明け前。集まったのは、この屋敷で働く一族の男が殆どだ。一同に会すると、こんなにいたのかとも、これだけだったかとも思う。


 そうだな。多く見積もっても百人程度だろう。


 部屋の四隅にいるのは、ブラックスーツを着た奴らだ。真っ当な奴らには見えねぇ。同じようにして、デビが率いるこの屋敷の警護をやっている奴らも何かあったときのためにと部屋の中に散り、抜かりなく視線を走らせていやがる。


 一族で描かれた半円の開いた先では、宮月の野郎がスーツ姿で立っている。その顔は綺麗に感情が覆い隠されていて、なんとも読めねぇ。


 宮月の斜め後ろに控えるようにいるのは、李亮とばあさん…おっといけね。メアリだ。さすがというべきか、メアリのいつもと変わらない平然とした様子に思わずにやりとしそうになる。すげえな。肝が座ってるぜ。


 意外なのは、宮月の隣にあの金髪のねえちゃん、レイラがいるってことだ。やや青ざめた緊張した顔つきだが、あのねえちゃんがいるっていうことは、そんなに酷いことはしねぇのかもしれねぇ。


 そんなことを考えたときに、わめき声が聞こえた。


「殺すなら殺せ!」


男が宮月に食ってかかるように身を動かすのに合わせて、ジャラリと鎖が鳴った。その鎖の端はしっかりとジャックが握り締めている。


 囚われた男たちの前、宮月に背を向けた位置で舌なめずりをするようにして、やばい殺気を放っているのが茶髪の長い髪をした男だ。彩乃の結婚式で会った宮月のいとこって奴だ。


 今は隠すことなく発せられている殺気が、ビンビン飛んでくる。そのせいで、さっきから俺の首筋はぞくぞくしっぱなしだ。


 コイツはヤバイ。狂気に近い殺気だ。殺り合いたくねぇ相手だ。自然と身体が臨戦態勢をとる。


「殺してやるから騒がずに待ってなよ」


 宮月のいとこ、キーファーが手にした大きなナイフをペロリと舐めながら男に告げた。


「処刑だけするようなまねはしないよ。理由を聞こう」


 静かな宮月の声に、一族の動きがピタリと止まり、視線が集中する。


「何故あんなことをした。何をしようとした? 本当に窃盗が目的か?」


 何の気負いもない…それどころか何の感情も読めない表情と声。こんな奴は初めて見る。


 だが一歩間違えば腰抜けだ。よっぽどキーファーの方がヤバイ上に威圧感がある。宮月の野郎の態度は、単に事務的とも受け取れる。


 案の定、最初に吼えた男が笑い飛ばす。


「そういうのが嫌なんだよ。お前がこの一族のトップだと? 何にもできない腰抜けめ。そんな奴に自分の命運を握らせるのかよ! え? どうなんだ?」


 周りをあおるように投げかけた言葉に、鎖で縛られたほかの連中も力を得たように同調し始めた。それに力を得たように、さらに男が続ける。


「安い賃金で飼い殺し。主の言うことを聞かなければ殺す。いつの時代だよ。この屋敷の中は。おかしいと思わないのか」


「なるほど」


 男の言葉に宮月がしらっと相槌を打つ。


 それから軽く首を回すと部屋の隅へと歩いていった。思わず皆の視線が宮月を追う。


 だが奴は部屋の端においてある椅子を片手に持って戻ってきただけだった。


「座らせてもらうよ。えっと…ヴィクトールだったね。台所仕事をしてくれているんだったか。君は自分の賃金を安いと感じていたわけだね?」


 奴は、こっちが心配になるほど警戒心も何もない状態で椅子に座ると、ヴィクトールを見た。その視線には何もない。別に睨むわけでも、見透かすわけでもない。


 その態度に力を得たように、男がさらに増長する。


「はっ。安いだろうよ。ここらへんの相場よりもかなり下だ。しかもいつお前たちに殺されるかわからない命の危険つき。お前ら純血の奴がそんなに偉いのかよっ!」


 宮月に掴みかかろうと動いたところで、ジャックが鎖を引いたためにそれ以上は前には出られなかった。


 だが同時に殺気が走る。一瞬にして部屋の空気が変わったのを宮月の声がまたしても霧散させる。


「キーファー。僕が話をしている間は手を出すな」


 不満そうな顔をしつつも、膨れ上がった殺気が静まる。茶髪の髪をいじりながら手にしたナイフを指で器用にクルリと回したのは、まだ殺らないという意思表示だろう。


「他に言い分は? なぜ人間を引き入れた?」


「人数が多いほうが有利だ。しかも陽動になる。こんなことも知らないのかよ。本当に腰抜けのお坊ちゃまだな」


 ヴィクトールの顔が嘲るような表情にゆがむ。


 宮月のことをこんな風に侮るとは本当に新参者だ。一体、宮月のどこを見て腰抜けだのお坊ちゃまだと言えるんだ? こいつは。


 思わずマジマジとヴィクトールを見てしまった。他の奴らも、ぎょっとしたような風情で宮月とヴィクトールのやり取りを見ている。


「人間は僕たちには敵わない。彼らが死ぬとは思わなかった?」


「別にいいだろう。人間なんて」


「なるほど。じゃあ、質問を変えよう。何故、この屋敷の財産を狙った?」


「俺らから搾取した金だ! 安くこき使い、巻き上げた金だろっ」


 そうだっ! 俺らの金だ! 鎖に巻かれたほかの奴らからもあがる。


 ちらりと宮月は成り行きを傍観していた奴らの中に視線をやる。その先には一族には珍しいモノクルをつけた男が立っていた。


 一族の財産を管理している奴だと言っていた。確か名前は…。


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