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Red Eyes ~ 吸血鬼の落ちどころ ~  作者: 沙羅咲
特別番外編 I I
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The Previous Days 後編(6)

 その後、夏が来て、教会主宰の修養会だ、なんだと引っ張り出され、すぐに秋が来て、冬がくる。そして僕は卒業して本格的におじいさんの元で牧師としての修行…というんだろうか。仕事を始めることになった。まあサポートがメインだけどね。


 その直後、3月に来たのが彩乃の誕生日。盛大に祝ってやろうと、おじいさんと二人で彩乃のために飾りつけしたり、ケーキを買ったり。


 教会の婦人会の有志が、男所帯では不便だろうと料理を作ってくれて、今までにないぐらい盛大な誕生会ができた。


 それからすぐに彩乃は小学校四年生になった。一年はあっという間に過ぎて、彩乃が五年生になった年の秋に、今度はイギリスのほうから問題が舞い込んできた。例のニューヨークにある会社の件だ。


 すっかり忘れさっていたけれど、ジェームズと約束した三年になる。正確に言うと三年を超えているんだけどね。


 日本では四月から始まって三月が決算期だけれど、欧米の場合は一月始まりの十二月が決算だ。


 それで三年数ヶ月前の一月にあの話が始まって、ジェームズは頑張ってやっていて今度の十二月の決算に合わせて社長就任劇をやろうとしていた。


 やれやれ。頭が痛い。


 これについてはザック叔父さんがかなり力を貸してくれた。情報入手の方法、提供の仕方、タイミング。そんなことをザック叔父さんと僕は打ち合わせをした。


 日本では大企業においても大株主がそのまま社長ということが多いけれど、米国では分離されることが多い。日本のような取締役会会長が社長を兼務なんていうことは、企業統治上避ける。


 ま、それはともかくとして、僕は名目上大株主となって取締役に入っていたけれど、その後に投資会社に変えてしまったから個人としては関与していない。その上、僕自身の姿を晒す気はまったく無かった。だから、ジェームズに連絡をとって、ザック叔父さんと打ち合わせた内容をデータで全部提供する。これでどうにかしてくれという意味だったんだけれど…。


 とたんに彼から別なデータが送られてきた。現在社長についているものが、勝手に行っている福利厚生の状況だ。簡単に言ってしまえば、自分やその周りの上層部だけが一般的な同じ規模の会社よりも良い手当てを貰っている証拠と言える。


 それからもう一つは同じ人物の賄賂の証拠だ。いくつかの会社と取引を約束する代わりに、それなりのものを貰っていたらしい。よく集めたなぁと思って呆れて見ていたら、携帯電話がなった。国際電話だ。


「やぁ」


 軽いノリで電話に出れば、向こうで咳払いが聞こえる。


「見ました? データ」


「見たよ。よく集めたね」


「それだけですか?」


「いや。それで?」


「株主の代表として、そこを切り崩して欲しいんです。一番効果的ですからね」


「僕に直接追求しろと」


 相手のイライラとした雰囲気が伝わってくる。


「あなた自身じゃなくてもいいですけれど、とにかく株主として投資会社の役員でも誰でもいいんで、派遣してください」


 僕はちらりと考えた。まあ、なんとかなるか。


「わかった。ニコルに相談しておく」


「頼みますよ。本当に」


「はいはい」


 適当に返事をしたとたんに、向こうで息を飲む音が聞こえた。思わず僕はため息をつく。


「ジェームズ。なんでそんなに必死になる? もう君は三年間で地位を築いた。僕から渡した資料を基に取引を成立させれば、誰も君の社長就任に文句は言わない。この僕ですら…だ。速やかに社長には退任してもらえばいい。それなのに、さらに現在の社長を抹殺するかのように追い落とすメリットは何だ?」


 一瞬躊躇したような間が開いた。


「許せないからですよ」


「どういうこと?」


「安穏と過ごしてきて、穏便に現在の地位を去ることが…です。そして次の会社を見つけて、奴のものではないうちでの実績を元にいい思いをさせるなんてしたくない」


「なるほど」


 思わず僕は笑ってしまった。向こうからムッとしたような声が返ってくる。


「なんです?」


「いいね。それ。僕はそういう本音のほうが好きだ」


 ジェームズが息を飲んだのちに、大きくため息をついた。


「あなたは…扱い辛い方だ」


「そう? 綺麗事よりも、多少苦くても本音のほうが面白いよ。それにそういうことだったら、面白そうだ。徹底的に追い落とそう」


「リーデル様」


「リーでいいよ。ジェームズ」


「やれやれ。私もジムと呼んでください」


「OK。ジム。当日は楽しもう。株主として今までの社長の顔も見ておきたいし、君の社長就任のスピーチも楽しみにしてる」


「はい?」


「僕が乗り込む。まあ、多少変装はするけど」


「…。あなたのやる気のスイッチはどこにあるんです?」


「さあ? 頭の天辺かなんかについてるんじゃないの? または足の裏とか、へその横とか?」


「変な場所すぎて誰にも押せませんね」


「そうだね。僕以外はね」


 しれっと返せば、彼は一瞬何かを言おうとしたらしいけれど、結局押し黙る。


「じゃあ、これで終わり。スケジュールを教えて。こっちも色々調整が必要なんで」


「わかりました」


 電話は切れた。


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