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間章  紛争地帯(1)

---------- トシ視点 -----------


 結婚式が終わった後、俺たちが住んでいた日本家屋に皆して戻ってきた。もちろん、総司と彩乃は新婚旅行って奴で、すでに二人だけで別な場所に向かったけどな。


 懐かしい居間に行けば、久しぶりの顔が揃っていた。


 お互いの近況の話から、この先の予定を話して、話の矛先が俺に向いた。


「トシはこの先どうするの?」


 宮月の問いに、俺はすでに考えていた答えを言えば、奴が眉を顰める。


 まあ、行こうとしているのは内紛しているど真ん中だしな。


「俺には俺なりの理由はあんだよ」


 そう言っただけでは、納得してもらえなかった。心配性というか、過保護な奴だ。




 仕方なく、俺はその結論に至るまでの経緯を話すことにした。


 俺は出来る限り世界を見てやろうと思って、あちらこちらと国から国へと渡り歩いた。


 その中でたどり着いたある国のある村での話だ。




 その村についたばかりの俺は宿が見つからずに野宿をしようとして、適当な場所を探していた。


 まぁ、いつも新しい国についたばかりのときは、勝手が分からなくて野宿になることは多いんだけどよ。


 そうしたら十代半ばぐらいの褐色の肌をした若い女、つうか少女だな、が通りかかって、俺を手招きしやがる。


 素直について行ったら、そいつの家だったわけだ。


 なんでそんな風に親切にしてくれんだと思ったら、村には宿屋が無いんだと。俺をちょっと気に入ったらしくて、招き入れてくれた。


 少女の名前はルイーズ。いくつか年下の妹がいてこっちはケイト。二人ともべっぴんだった。目がくりくりして印象的で、若い男が気に入りそうな顔だ。


 父親に母親。それからルイーズの兄のポール。五人家族の質素な家に俺は招かれた。


 村の生活は穏やかで、俺はルイーズの家に厄介になりながら、家の畑仕事を手伝うことで宿賃代わりにしてもらっていた。




「お前、よく俺を招き入れようなんて考えたな」


 やや呆れながら、俺に夕食後の茶を入れてくれているルイーズに言えば、ルイーズは少しばかり赤くなりやがる。


 ちなみに母親は食後の片付け。ポールはそれを手伝っている。父親はすぐに部屋にこもって何かをやっていて、居間に残っていたのは俺とルイーズだけだった。


 ルイーズは染めた頬のまま、表情を隠すようにそっぽを向きながら口を開く。


「別に。トシが困っているように見えたから」


 困ってたか? 俺。


「それに優しい目をしてたし。旅行者だって思ったし」


 俺の目、結構、怖いって言われるぞ? それに山賊に間違えられたことだってある。


「おめぇの目、おかしいんじゃねぇのか?」


 そう言ったとたんにルイーズは即座に否定した。


「そんなこと無いよ。だってトシはいい人だったじゃない」


 まぁな。


「お父さんもお母さんも助かってるって言ってたよ。トシ、見かけによらず力持ちだし」


 人間よりは力はあるから、あの程度の農作業じゃあびくともしねぇ。


 人間じゃねぇことは言えねぇけどよ。


 俺は黙って茶を啜った。茶といっても紅茶だ。


 ルイーズの家では牛を飼い、畑を耕して生計を立てていた。子供三人もそれを手伝って生活している。


「おねぇちゃん」


 妹のケイトがルイーズのところへ走りよってくる。十歳を超えたぐらいの妹は、ルイーズのことが大好きで、しょっちゅうまとわりついていた。


「宿題、終わった?」


「えっと…」


 どうやら終わってないらしい。ルイーズは棚の中から手作りのクッキーを一つ取ると、ケイトに渡した。


「ほら。おやつあげるから、やっちゃいなさい」


「ありがとう。おねぇちゃん!」


 そうやって甘やかすから、またケイトはルイーズに甘えるんだよな…そうは思うが、人んちの事情に首を突っ込むことは避けているので黙っていた。いわゆる処世術って奴だ。


 そのとき、俺の耳に人のざわめきが聞こえた。


 どうやら家の外に数人いるらしい。なんだ?


 ドアがノックされる。


「おーい」


 ドアの外の声に、聞き知った声だったのか、ポールが台所から出てきて「ドミニクだ。どうしたんだろう」と言いながら居間を横切って、ドアを開けた。


 ガツンっ。


 そんな音と共に、俺の目に映ったのは、頭の上に鉈が下ろされたポールの姿だった。そのまま枯れ木が倒れるようにポールが倒れてくる。


 その後ろに見えるのは、大勢の人。手にそれぞれ鉈や斧を手にしていた。


 考えるよりも動くほうが早かった。俺は目の前にいたルイーズを抱きかかえると、そのまま二階へ走った。


 ケイトの部屋に飛び込んで、鍵を閉める。階下から女の悲鳴が上がった。


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